「池上さん コラム掲載します――朝日新聞が8月初めに掲載した過去の慰安婦報道に対する特集記事について、池上彰さんがコラム「新聞ななめ読み」で取り上げました。本社はいったん、このコラムの掲載を見合わせましたが、適切ではありませんでした。池上さんと読者の皆様におわびして、掲載します。19面」
2014年9月4日付朝日新聞1面題字下に、上記のような案内が池上彰氏の顔写真とともに掲載されていた。池上氏のコラムの掲載を拒否したことを他のメディアに報じられ、あわてて掲載することにし方針転換したのである。
さっそく朝日新聞を開いて、池上氏のコラム「慰安婦報道検証――訂正、遅きに失したのでは」を読んだ。池上氏の言わんとすることは、①吉田清治証言の虚偽性に気付きながら朝日新聞は検証作業を少なくとも22年間も放置した②なぜ放置したのか、その点の検証が記事に書きこまれていなかった③誤りを訂正する以上、同時に謝罪もすべきだ、の以上3点に尽きる。この他には、慰安婦問題についての新しいデータや見解が書き込まれているわけでもない。いうなれば、凡庸な感想文にすぎない。
したがって、このコラムの掲載を朝日新聞が嫌がって拒否したのか、その理由がさっぱりわからない。
池上氏のコラムは朝日新聞のオピニオンのページに掲載されている。オピニオンと銘打っているからには、異論や批判に対して同ページの編集者は寛容でなくてはならない。とくに、自社の編集方針に対する批判を拒否するような態度は、同ページの自己否定につながる。
コラムに添えられた「池上さんと読者の皆様へ」という朝日新聞の弁解には、当初掲載を見合わせたが、「その後の社内での検討や池上さんとのやり取りの結果、掲載することが適切だと判断した」とだけ、書かれている。
社内での検討、池上氏とのやり取りの内容については具体的な説明がない。
いったん掲載を中止した記事を、外部からの批判を受けて掲載したのであるから、朝日新聞の判断の変更がどのような議論の基づいてなされたのか、ジャーナリズムの生態に関心のある読者としてはそこが知りたいところである。
ところで、インドネシアを占領した日本軍がオランダ女性を強制的に慰安婦にした記録がオランダの公文書館には残っている。連合軍の日本占領に備えて、特殊慰安施設協会という名の、連合軍兵士向けの売春施設が当時の日本政府の肝いりでつくられている。
国家の恥辱と自尊心と、個人の恥辱と自尊心――これを同一視したがる一部日本人の論理は以下のように展開される。
①日本が国家として物理的強制力を使って慰安婦をかり集めたという吉田証言は嘘だった②国家の強制を裏付ける記録は見当たらない③従軍慰安婦は個人が自発的に性を商品化したにすぎない④したがって、国家の関与を認めた「河野談話」は撤回されるべきだ。
戦争と性と国家の問題を忘却させるための突破口として、朝日新聞による吉田証言の虚偽報道が利用されてきた。朝日新聞のおそまつは、今回、その突破口をさらに大きく広げたことに尽きる。
(2014.9.4 花崎泰雄)