Podium

news commentary

訊いてない? じゃ、とばします

2019-02-01 21:38:43 | Weblog

前回のコラムで、1月30日の衆院本会議での代表質問風景を話題にした。質問者と答弁者がそれぞれ用意されたシナリオを読みあう緊張感の無さが本会議をかったるいものにしているという話だった。

そのシナリオ読み合いの緊張感の無さがもろに現れたのが、2月1日の参院本会議の代表質問のシーン。山本太郎議員(国民民主・新緑風)の質問演説への答弁に立った麻生太郎財務大臣が答弁書を読み上げた。

対外有償軍事援助について答弁書を読み上げ始めたが、しばらくして、「ん? 訊いてない、じゃ、とばします」と演壇の麻生財務大臣が議場の山本議員と問答。

時間の都合で山本議員がその項目を省略したらしいのだが、麻生財務大臣はそのことに気づかず用意されたシナリオの文言をそのまま読み上げようとした。

それにしても、ちょっと寛ぎ過ぎではあるまいか。そういえば麻生氏は山本氏の質問中、人を小馬鹿にしたような例の「麻生笑い」でニタニタしていた。人を笑わば穴二つ。

(2019.2.1  花崎泰雄)

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瞑想・瞑目・居眠り

2019-01-31 00:56:20 | Weblog

国会には睡魔が巣くっているのだろうか。

議事進行中に国会議員が居眠りをする姿はたびたび中継で映し出されてきた。議場での論戦より、場外交渉が得意なセンセイたちはつい睡眠不足になりがちだ。自動車や列車や航空機の運転手・運転士・操縦士の業務中の居眠りには目を三角にする国民も、国会でだらしなく居眠る議員たちを嘲笑しつつも許してきた。国の針路を決める重要な会議中のことなのだがね。

通常国会が始まった。1月30日午後、衆議院本会議場での代表質問のNHKの中継を見ていたら、玉木雄一郎・国民民主党代表の質問中、玉木氏を映していたNHKのカメラが切り替えられ、安倍晋三首相を映しだした。

瞑想していたのか、居眠りしていたのか、目を瞑っていた理由は本人に聞かなければわからないが、なんだかボンヤリとした安倍首相の表情だった。しかし、なんとなく殺気のようなものを感じたのか、彼は閉じていた目を開いた。するとNHKは映像を切り替えて玉木氏に戻した。

昼食後の時間帯は睡魔に襲われやすい。大学の講義でも午後の講義では居眠りする学生が多い。本会議場での代表質問と答弁はいってみれば芝居の脚本を読み合っているようなものだ。答弁する側は質問の内容と答弁の内容をあらかじめ知っているわけだから、逐一質問演説の声を追う必要はない。そういう安心感もあって、質問演説が子守唄のように聞こえるのかもしれない。メディアだけでなく世の中の多くの人も、そういう前提で国会中継を行い、また見ているのであるから、政治家たる者、間違っても議事進行中に瞑想したり、瞑目したりして、報道のカメラに焦点をあわせられるような事態は避けなければない。

筆者の記憶に間違いがなければ、2015年3月の、シンガポール元首相リー・クアンユー氏の国葬に参列した安倍晋三首相が式場で、黙祷だったのか瞑想だったのか、瞑目している姿をカメラで捉えられ、日本の安倍首相がリー・クアンユー氏の国葬で居眠った写真として世界に出回った。

日本人は地下鉄車内で瞑想や居眠りすることで有名だが、最近はスマホ操作に忙しく、居眠る姿が減ったような感じがする。瞑目したらスマホのディスプレーが読めない。

 

           (2019.1.31 花崎泰雄)

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あとがない職業

2019-01-16 16:06:11 | Weblog

日本の大相撲ではいったん横綱になってしまえば、あとは引退するしかない。成績不良なら大関や関脇に番付をさげて捲土重来、というわけにはいかない。相撲の番付も横綱以外はプロテニスの世界ランキングのように上がったり下がったりするが、横綱になると、降格したくてもそれはできない相談なのだ。

アメリカの大統領も憲法によって一生に2期8年しか務めることができない。バラク・オバマ前大統領はトランプ現大統領より若くまだ50代だが、若くして米国大統領を2期8年務めたので、もはや大統領になる機会はない。

日本の安倍首相はかつて首相在任中に参院選での大敗と体調不良を理由に政権を投げ出したことがあるが、再チャレンジを合言葉にまた首相に返り咲いた。

ロシアのプーチン大統領は大統領の任期が一杯になると大統領をやめて首相になり、憲法を変えてまた大統領になった。

中国では国家主席の任期を「2期10年」と決めていたが、2018年の全人代が憲法からこの条文を削除したことで、理論上、習主席の終身国家主席の道が開けた。

一般庶民の再チャレンジはOKだが、権力のヒエラルキーの頂上付近にたむろする人々の再チャレンジにはうんざりする。政治権力については「長きを以て貴し」としない。安倍政権下の森友問題、加計問題、官僚の忖度・へつらいなど、弊害が多い。

ソロンはアテナイの政治改革を終えると、さっさと10年間の旅に出て、アテナイを留守にした、とヘロドトスは『歴史』に書いている。

         (2019.1.16 花崎泰雄)

 

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レーダー照射

2019-01-01 00:36:03 | Weblog

日本の海上自衛隊のP-1哨戒機が2018年12月20日の午後、能登半島沖の海上で韓国海軍の駆逐艦から火器管制(FC)レーダーを照射された。日本の防衛相がこのことを公表したことで、日韓関係はさらに気まずくなっている。

FCレーダーの照射事件はときどき起きている。2013年には東シナ海で中国海軍のフリゲート艦が海上自衛隊の護衛艦にレーダーを照射したと、日本が中国に抗議したことがある。

2016年には、日本の自衛隊機が中国軍機にFCレーダーを照射したと、中国が日本を非難した。

レーダー照射ではないが、2014年5月に東シナ海で中国の戦闘機が日本の自衛隊戦闘機に30-50メートルの距離まで異常接近したという事件があった。古くは1988年のことだが、米軍の駆逐艦タワーズが海上保安庁の巡視船を標的に見立てて砲撃演習をした事件もあった。2018年9月には、南シナ海のスプラトリー諸島付近で中国軍の艦船が米軍艦に40メートルほどの近くまで異常接近していた、と米軍当局者が明らかにした。

軍と軍の荒っぽい火遊びは日常茶飯の事であるが、多くは隠密裏に処理され、メディアにのって表沙汰になることはめったにない、と考えられる。表沙汰になるのは、事件の公表が何らかの政治的効果をもたらすというヨミがある場合だ。

韓国の『東亜日報』は社説で、「強制徴用賠償判決などをめぐって韓日関係が深刻に冷え込んでいる状況で、日本側が韓国側の行動に『他意』があったように追及することは、安倍政府が韓日関係の悪化を国内の支持勢力の結集など政治的に利用しようとする他意があるという批判を招くことになる」と主張した。

同じく韓国の『朝鮮日報』も「水面下ですぐに事実を明らかにし、再発を防ぐことができる問題が、このように大ごとになっていること自体が、今回の問題の本質なのかもしれない。今、日本では韓国を友好国と見なさないという世論が高まっているそうだ。韓国政府の反日性向は周知の事実だ」と指摘した。

安倍政権は12月18日の閣議で、新しい「防衛計画の大綱」と中期防衛力整備計画を決定した。総額27兆円をかけて、防衛の範囲を宇宙やサイバー空間にまで広げる。さらに、中国の軍拡に対応して護衛艦「いずも」を事実上の空母に改装、艦載機にもなる最新鋭ステルス戦闘機F-35Bの導入も決めた。

F-35戦闘機については1兆円をかけて100機を米国から購入する予定である。これはトランプ米大統領におもねり、今後の日米通商交渉のさいはお手柔らかにという趣旨の買物、というのが大方の見方だ。

大風が吹けば桶屋がもうかる。アメリカを喜ばすF-35の大量購入には、さしあたって日本の国民や国会に対してその必要性と緊急性についてそれなりの説明が必要になる。中国・北朝鮮の脅威に加えて、竹島から遠く離れた地点で韓国艦が自衛隊機にレーダーを照射した事件は、日本海における脅威の高まりに韓国までもが加わったと国民に訴える格好の材料である。中国・北朝鮮・韓国の3ヵ国からの軍事脅威を利用すればF-35の導入がスムーズに進められる――アメリカ一辺倒の軍事マニアック・安倍政権がそう判断して、レーダー照射事件を国防上の重大問題として演出した可能性は否定できない。その代償は『朝鮮日報』のコラムがいう「日本では韓国を友好国と見なさないという世論が高まっているそうだ。韓国政府の反日性向は周知の事実だ」という現状のさらなる深刻化である。

(2019.1.1  花崎泰雄)

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Untitled Original 11386

2018-12-24 00:33:40 | Weblog

ジョン・コルトレーン(1926-1967)が死んで51年目の今年、彼が1963年にスタジオ録音したアルバムが発売された。おや、と驚き、CDを購入し、コルトレーン最盛期の音を懐かしんだ人が多かったに違いない。

Both Directions at Once: The Lost Album である。 コルトレーン畢生の名作とされる A Love Supreme の2年前の録音だ。1963年3月6日、ジョン・コルトレーン(サキソフォン)、マッコイ・タイナー(ピアノ)、ジミー・ギャリソン(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラム)のカルテットがニュージャージーのルディー・ヴァン・ゲルダー・スタジオで収録した。

収録はしたもののあいにくとアルバムになって発売されることはなく、原盤はレコード会社・インパルスの倉庫に入れられ、やがて廃棄された――したがってザ・ロスト・アルバム。

1960年代の初めコルトレーンはすでに時代の最先端を走るモダン・ジャズの売れっ子プレーヤーだったが、レコード会社は「当面、売れ筋にはならないだろう」と判断したのかもしれない。

スタジオで録音ののち、ステレオ録音の原盤はレコード会社にわたされ、モノラルの録音テープがコルトレーンに手渡された。コルトレーンはそれを自宅に持ち帰った。1996年にコルトレーンは妻のフワニータ・ナイーマ・グラブスと離婚。録音テープは別れた妻が保管していた。

レコード会社のプロモーションもあって、このアルバムのリリースは米国ではニューヨーク・タイムズをはじめとする新聞の記事になった。日本でも朝日新聞が記事にした。その記事を読んで、私も半世紀を経て発見された幻の名盤を買い求めた。

コルトレーンの遺品はナイーマの死後、娘のサイーダが保管していたが、サイーダが遺品の一部をオークションに出そうとしたとき、インパルスを引き継いだヴァーヴの知るところとなった。

因縁話はこの程度にして、さて、アルバムの中身だが、正直なところ私はそれほど楽しめなかった。求道的な姿勢でアメリカのモダン・ジャズを聴いてきた人とちがって、私は気楽にジャズを聴いてきた。だから、基本的には、コルトレーンよりはソニー・ロリンズ、マイルス・デイビスよりはクリフォード・ブラウンのスタイルが好みだ。

とはいうものの、マイルスと組んでいた頃のコルトレーンは嫌いじゃなかった。1957年に発売された ‘Round About Midnight などのコルトレーンは、後年のコルトレーン節のはしりのような難解なフレーズをちらつかせたものの、全体としてメロディアスでのびのびとスィングしていた。

マイルスから離れて自分のコンボを持つようになってからは、常に新しい音を探求する修行僧のような、荒々しさと痛々しさが同居する演奏法を深めていった。コード奏法の束縛を遁れてモード奏法に移り、今度はモード奏法そのものを超える道を探った。その過程で、コルトレーンの音楽は実験的な音をさぐる現代音楽に変わっていった。犠牲になったのはジャズの居心地のよさだった。

半世紀ぶりにこの世に現れたアルバムBoth Directions At Once  を聴いていてすこしばかり楽しめた曲がこの小文のタイトル に使った ‘Untitled Original 11386’ だった。11386はインパルスの録音番号をそのまま曲名に代えたものである。

曲中で繰り返さえる短い旋律は、秋吉敏子のアルバム『ホープ』の中の、盆踊りソングに似た曲「広島節」の気分と共通のユーモアが感じられて面白かった。現代音楽家・ジョン・コルトレーンがアフリカの音に傾倒して作り上げたメロディーが、日本の盆踊り歌のそれと似ていたという偶然が楽しい。

 やあやあ、そしてまあまあ、とあちらこちらではなしにはなが

                   (小野フェラー雅美『とき』 短歌研究社)

 

(2018.12.24  花崎泰雄)

 

 

 

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富者と貧者と

2018-11-22 00:18:22 | Weblog

S&P500とよばれる米国の代表的企業の最高経営責任者と一般従業員の賃金の格差が2017年に361倍に広がった。米労働総同盟産別会議(AFL-CIO)によると1950年代には20倍程度だった。

米国は世界に冠たる強欲資本主義の国である。企業は消費者から金をむしり取り、経営責任者らは企業から金をむしり取る。

かつてのいわゆるリーマン・ショックの時の事を思い起こせばわかる。米国政府は危機にたちいたった大手保険会社AIGを国有化し多額の公的援助を与えた。そのさなか、AIGは幹部社員70人ほどが合計約170億円のボーナスを分け合った。再建のために新しくCEOに就任したエドワード・リディ氏の年収は1ドルだった。

米国では2017年から金融規制改革法で企業のCEOと一般従業員の年収の差を開示することが義務付けられた。イギリスでも従業員数250人以上の企業に役員と一般従業員の報酬額の公表を義務付ける予定だ。

日本では証券取引法が上場会社に営業・経理・事業の内容について記載した有価証券報告書を内閣総理大臣に提出することを求めている。報告書の中には役員報酬についての報告も含まれている。

目下話題のゴーン日産会長(11月21日現在)はこの報告書に自分の報酬額を偽って少なめに書いた容疑で逮捕された。

米国ほどあからさまではないが、日本でも役員と一般従業員の会社内給与格差が広がっているといわれる。企業の役員は従業員の賃金を抑制あるいは減額することで企業の利益を生み出し、そのことを自らの報酬を引き上げる理由にする。

トマ・ピケティの『21世紀の資本主義』によると、1950年代の米国の賃金格差はフランスより低い水準だった。トップ10パーセントの労働所得は総労働所得の25パーセントほどだった。それが2010年には35パーセントに上昇した。

2011年のウォール街占拠運動は所得格差やヘッジファンドやデリバティブといった非実体経済分野で荒稼ぎしている、頭は良いが心は貧しいグループのカジノ資本主義に対抗するモラル・エコノミーの側の異議申し立てだった。興味深く見ていたのだが、長続きはしなかった。

ゴーン事件に関して、頭の良い会社経営者の強欲、日産とルノーのせめぎ合い、ゴーン会長に対する西川社長のクーデターといった話題もさることながら、これを機に日本における公正な所得分配のあり方についての議論へ発展すると面白いと思う。銀行系シンクタンクのエコノミストのどうすりゃ儲かる論ではなく、見栄えのしない道学者風の経済論を聴きたいものだ。

 (2018.11.21  花崎泰雄)

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あとは野となれ……

2018-10-31 00:55:48 | Weblog

トランプ米大統領は就任するや否な、TPPからの離脱を宣言した。気候変動枠組パリ協定からも離脱した。古い友人である欧州に背を向ける外交姿勢をとった。北の国境で接するカナダと南の国境で接するメキシコと意味のない摩擦を起こした。北朝鮮のキム・ジョンウン委員長とシンガポールであった。中国と貿易戦争を始めた。これらは中間選挙に間に合うような見栄えのする結果は生まなかった。

それではと、ホンデュラスから数千人の人々がキャラバンを組んで徒歩でメキシコ国内を縦断し、米国国境を目指していると騒ぎ出した。ペンタゴンに5000人ほどの兵隊を国境に送るよう指示した。軍隊の米国内派遣に関しては賛否両論があるらしいが、ここはひとまずおく。

米国内のメディアが面白がって(というか、愚劣の極みとして)報道しているのは、トランプ支持者には、米国を目指すキャラバンは、民主党寄りの投資家ジョージ・ソロス氏が資金を出して組織したものだと信じている人が少なくない点である。ソロス氏やオバマ前大統領にパイプ爆弾が送りつけられた。

トランプ大統領自身もツイッターに「ギャングや、たちの悪い奴らがキャラバンに紛れ込んでいる」と書いた。CIAの情報というよりは、彼の妄想ないし意図的なフェイクだろう。CIA情報ならとっくにメディアにリークされている。

アメリカの中間選挙の投票日(11月6日)まで1週間となった今日、米国の新聞(日本の新聞もそうだが)アメリカ合衆国の国籍出生地主義をやめさせるためトランプ大統領が行政令を準備しているといっせいに報じた。

トランプ大統領はこう語った。

 “We’re the only country in the world where a person comes in and has a baby, and the baby is essentially a citizen of the United States for 85 years, with all of those benefits……It’s ridiculous. It’s ridiculous. And it has to end.”

例によってこれまた大統領のフェイクである。でなければ、大した認識不足である。

北の隣国・カナダも南の隣国・メキシコも国籍については出生地主義を採用している。

くわえて、合衆国憲法修正14条は次のように定めている。

All persons born or naturalized in the United States, and subject to the jurisdiction thereof, are citizens of the United States and of the state wherein they reside.

同じころ、キリスト教民主同盟の党首を辞任すると表明し、首相の職務も2021年を限りと語ったドイツのメルケル首相に対して、ニューヨーク・タイムズ紙の論説委員室が次の言葉を贈った。

Compassionate when hearts grew cold, committed to unity when others abandoned it.

トランプの対極にあったメルケルが眩しかったのであろう。

 

(2018.10.31  花崎泰雄)

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社会主義アメリカ

2018-10-14 23:09:43 | Weblog

 筆者がまだ若かったころ、米国の大学・大学院に留学する日本人学生は胸部レントゲン撮影のフィルムを大学当局に提出するよう求められた。

「アメリカは結核を怖がっているんだ。それと社会主義とね。蔓延すると大変だから」

米国通がそう教えてくれた。

米国にも共産党や社会党があり、中国にも共産党以外の政党があるが、それらは同時に無いに等しい。政党活動の自由を認めているというアリバイのために存在しているだけだ。

先の米国大統領予備選挙で、バーニー・サンダース上院議員が民主党の候補者選び名乗りを上げて、一気に支持者を増やしていったことはまだ記憶に新しい。

サンダース氏は予備選挙中に自らを社会主義者と称することはしなかった。一般のアメリカ人は社会主義という言葉を聞くと、独裁者、強制労働キャンプ、言論の自由の欠如などを連想するからという理由だった。

その代り彼は「政治的民主主義」や「平等」という信念があるのなら、「経済的民主主義」もまたあるべきである、という言い方をした。著書の中で「ビル・クリントンは中庸な民主主義者。私は民主社会主義者」と書いた。また、「20年前には社会主義というとソ連やアルバニアを連想した。いまではスカンディナヴィア諸国を連想する」と2006年に新聞のインタビューで語った。「中間層が減り続け、労働者の所得がトップ1パーセントの超富裕層の懐に流れ込んでいる。中間層の富も同じことだ。何兆ドルもの富が過去30年の間に、中間層から富裕層に吸いあげられた。これは正しいことだろうか?」

サンダース氏は民主党の大統領候補者にはなれなかったが、強い印象を残した。

さて、中間選挙を前にトランプ米大統領は最近、「中道的な民主党は死んでしまった。いまの民主党は過激な社会主義者で、アメリカの経済をヴェネズエラのようにしようとしている。若し民主党が11月の中間選挙で議会多数派になったら、アメリカは危険なまでに社会主義に近づくことになろう」とUSA Today紙に書いた。

「社会主義」という言葉で、民主党の足を引っ張ろうという作戦だ。

それにしても、いつもツイッターに書いているような粗雑な思考と文章を、日刊紙にのせる米大統領の頭の中も不思議だ。民主党に社会主義というラベルを張り付ければ共和党支持者増につながると、本気で信じているのだろうか。合衆国市民の頭の中はそれほど空疎なのだろうか。日本に対して戦後民主主義を教えたアメリカと今のアメリカははたして同じ国なのだろうかと、一瞬、めまいがする。

   (2018.10.14  花崎泰雄)

 

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運がいいのか悪いのか

2018-10-03 20:37:07 | Weblog

沖縄県知事選の投開票日の9月30日、本州のメディアは台風24号のニュースにかかりきりだった。沖縄知事選で安倍政権が支援した候補が敗れ、安倍政治のほころびが見えたが、メディアはそのほころびを取り上げて詳しく分析する暇がなかった。あるいは、分析や知事選論評が、沖縄以外では台風ニュースほどには関心を持たれていないと判断したのかもしれない。

すこし待てば沖縄問題の突っ込んだ分析が出るかもしれないと期待していたが、今度は京都大学の本庶佑特別教授のノーベル賞受賞のニュースが飛び込んできた。テレビも新聞も報道は本庶だらけになった。

それにしても、日本の人はノーベル賞が好きだ。ノーベル賞が人の栄誉の最高基準だと勘違いしている。それが証拠にノーベル賞を受賞するとすぐさま文化勲章がでる。本庶氏はすでに文化勲章をもらっているので、再度もらうことはないだろう。ノーベル賞は北欧のどこかの町の選考委員会が選ぶのではなく、全知全能の神様が裁定するかのごとき幸せな誤解をしている。ノーベル賞文学賞が今年出せなくなったのは、選考委員会内部の人間臭に満ちたスキャンダルが原因である。

ついでの感想は、日本のメディアはガラパゴス・メディアであるということだ。今年のノーベル医学生理学賞は本庶氏とともに米国・米テキサス大のジェームズ・アリソン教授が受賞しているが、アリソン教授の業績をきちんと紹介した日本のメディアは少なかった。

日本人にとっては科学的業績の内容よりも、ノーベル賞をとったのが日本人である事のほうが大事で、それだけで十分である、とメディアが考えているからだ。

英国・BBCのサイトでこのニュースを読んだが、本庶・アリソン両氏の業績に関しては公平に業績を紹介していた。イギリス人の受賞者がいないからだ、と反論があるだろう。

ニューヨーク・タイムズ紙の電子版を開くと、そこでもアリソン氏と本庶氏の仕事が公平に紹介されていた。アリソン氏が主で、本庶氏が添え物という感じは全くない。それは、アメリカ人はしょっちゅうノーベル賞を受賞しているからだ、という反論があろう。確かに……。

これでまた、沖縄問題の深層にせまる解説記事にお目にかかる機会が先延ばしになった。

それから今度は、自民党役員人事と内閣改造だ。日本の国会議員の目標は大臣になることである。したがって内閣改造は与党議員の定期異動である。大臣は変わるが役所は変わらない。

あれやこれやで、知事選後の沖縄についての本格的な分析記事はまだ出ていない。

「しょうがないね」と沖縄知事選の敗北の感想を語った安倍晋三首相にとっては、ここ数日のニュースは干天の慈雨だろうが、沖縄の人々にとっては、沖縄の人々の政治選択の意味が沖縄以外の人々にきちんと伝わらいという意味で、運の悪い数日だった。

          (2018.10.3 花崎泰雄)

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世界は笑う

2018-09-26 23:08:40 | Weblog

 トランプ米大統領が9月25日(現地時間)ニューヨーク市で開かれている国連総会で演説した。

冒頭、トランプ政権は発足2年もたたないうちに米国のどの政権よりも多くの業績を成し遂げたと、トランプ氏が国連総会とトランプ支持集会を取り違えたような発言をした。そのとき、世界中から総会に出席していた代表たちが笑い出した。

トランプ氏は思いがけない反応に、演説のプロンプターから目を離し、アドリブで「本当です」と言った。これが会場のさらなる笑いを誘った。「そういう反応は予想していなかった。まあかまいませんけれど」と、トランプ氏も気まずそうな笑いを浮かべた。

国連総会での場内の失笑は異例のことで、故カダフィ氏の支離滅裂な演説の時も笑った人はいなかった、と『ニューヨーク・マガジン』が書いた。

日本から総会に行った安倍さんも会場にいて、お付き合いで笑ったのかな?

 (2018.9.25  花崎泰雄)

 

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トランプ批判と国家機密

2018-09-09 17:10:04 | Weblog

「ブレジネフは阿呆だ」とモスクワの赤の広場でウォッカのボトルを持った男が叫んだ。すぐさま男は警察に逮捕された。「国家元首侮辱罪か?」。男が訪ねた。いや、と警察が言った。「おれは秘密警察だ。お前の言ったことは国家機密漏洩罪になる」。旧ソ連時代にはこんな政治風刺小話が街にいっぱいあふれていた。

2018年9月8日の朝日新聞夕刊によると、トランプ政権幹部が匿名で大統領批判をした文章が『ニューヨーク・タイムズ』のオピニオンのページ掲載されたことをとがめて、トランプ大統領が「国家安全保障の問題」だとして、筆者を特定するための調査を司法長官に指示する考えを示した。

 以下、朝日新聞記事の引用。

「トランプ氏は6日の米モンタナ州の集会で、政権幹部の寄稿を『国家反逆罪だ』と批判した。さらに7日、大統領専用機「エアフォースワン」の機中で記者団に、『私はジェフ(セッションズ司法長官)に、この記事はだれが筆者なのか調査するべきだと言うつもりだ。私はこれは本当に国家安全保障上の問題だと思う』と強調。また、『彼(匿名の政権幹部)は、セキュリティークリアランス(秘密取扱者適格性確認)を得て、中国やロシア、北朝鮮などに関するハイレベルの国家安全保障の会議に参加している。彼にこうした会議には出て欲しくない』と語った。ただし、米メディアによると、寄稿の内容には国家安全保障上の機密情報は含まれていないため、司法省が現実に調査を開始するのは困難との見方が強い。一方、ニューヨーク・タイムズは7日、『我々は合衆国憲法修正第1条(言論の自由)がすべての米国市民を守っていることを、司法省は理解していると確信している』との声明を発表した」

トランプ大統領が“国家安全保障の問題”としたのは、「私はトランプ政権内部の抵抗勢力の1人だ――トランプ大統領の下で仕事はしているが、心を同じくする同僚と私は大統領の愚かしい政策や性癖を阻もうと誓っている」との見出しが付けられている9月5日付の寄稿である。

「トランプ大統領はこれまでの現代アメリカ大統領が直面したことのない試練と向き合っている。特別検察官の存在が大きくなっているからではないし、トランプ氏の指導力をめぐってアメリカ社会が割れているからでもなく、共和党が下院選挙で、大統領の失脚を狙う民主党に負ける可能性があるからでもない。大統領がよくわかっていないディレンマは、トランプ政権内部の上級幹部の多くが、大統領の政策と政治的性向を妨害しようと額に汗して働いていることだ」

「問題の根っこには大統領の道徳意識の欠如がある。トランプ氏と一緒に仕事をする誰もが、トランプ氏の政策決定には知性ではっきりと認識できる大事な原則が見当たらない、と感じている」

寄稿文のトランプ批判は手厳しい。トランプ氏は共和党の大統領だが、保守党がながらく大切にしてきた自由な精神、自由な市場、自由な人民という理想に何らの親近感も持っていない。重要な政策の変更が目まぐるしく変わる。外交面ではロシアのプーチン氏や北朝鮮のキム・ジョンウン氏のような専制政治家や独裁者に好感を持っている。反対にこれまで考え方を共有してきた同盟国をなおざりにしている、などと続く。具体的な問題点の多くはすでにトランプ大統領がフェイクニュースと悪態の対象にしたメディアが報じて来たものだ。

トランプ政権の幹部が政権内部で反トランプ政策に汗を流しているため、アメリカ合衆国の行政がトランプ大統領と反トランプ幹部に分断され、二重路線になっていることだ(The result is a two-track presidency.)と匿名の寄稿者は書いている。

アメリカ合衆国に二重権力状況が近づいている。国家安全保障の機微に触れる衝撃的な情報といえる。

             (2018.9.9 花崎泰雄)

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夏安居

2018-07-01 10:40:21 | Weblog

6月中に関東甲信梅雨明けのアナウンスがあり、カンカン照りの日々が始まりました。高温多湿、世界最悪の季節です。

安居はかつてインドの仏教教団の慣行でした。春から夏にかけてのインドの雨季に、僧たちは外出を避けて修行に専念しました。「雨安居」――仏教辞典によると雨季の外出では草木の若芽をふんだり昆虫類を踏んづけたりすることが多いこともその理由だったそうです。

日本でも陰暦の4月16日、または5月16日から3ヵ月の安居が行なわれました。「夏安居」「夏行」「夏籠り」「夏勤め」「坐夏」と呼ばれました。たんに「夏(げ)」とも。

これにならって Podium は7月から8月いっぱい、夏安居に入ります。くだらないことを口走らず、軽挙妄動を慎んで、沈思。心頭を滅却すれば火もまた涼し、ということで。

(2018.7.1 花崎泰雄)

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体制保証とその後

2018-06-13 22:21:56 | Weblog

北朝鮮のキム・ジョンウン委員長が手に入れたのは「体制保証」の約束で、アメリカのトランプ大統領が手にしたのは、CVID抜きの非核化の約束の再確認だけだった。「おいぼれのゴロツキ」が「ちびのロケットマン」に「ディール」でしてやられた――という風な論調が、米国やヨーロッパ、それに日本の――トランプ氏が嫌いな――メディアで流されている。

自らに有利な共同声明に署名して、その後のこうるさい記者会見をトランプ氏にまかせて、自分は記者会見をさけたキム氏の異例の欠席は、カナダのG7を中座したトランプ氏の行動を参考にしたのだろうか?

日本の新聞の多くは「体制保証」は即ち「キム・ジョンウン体制の保証」と報じたが、「体制保証」という言葉は、6月12日シンガポールのセントサ島で行われたトランプ―キムの米朝首脳会談の共同宣言のどこにも書き込まれていない。ホワイトハウスのサイトで米朝共同宣言を読むと、

President Trump and Chairman Kim Jong Un conducted a comprehensive, in-depth, and sincere exchange of opinions on the issues related to the establishment of new U.S.–DPRK relations and the building of a lasting and robust peace regime on the Korean Peninsula.  President Trump committed to provide security guarantees to the DPRK, and Chairman Kim Jong Un reaffirmed his firm and unwavering commitment to complete denuclearization of the Korean Peninsula.

とある。この英文は以下のような日本語に翻訳されて朝日新聞に載った。

(トランプ大統領とキム・ジョンウン委員長は、新たな米朝関係の構築と、朝鮮半島の永続的かつ強固な平和体制の建設について、包括的かつ綿密で真摯な意見の交換をした。トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証を与えることを約束し、キム・ジョンウン委員長は朝鮮半島の完全な非核化に向けた確固とした揺るぎない責務を再確認した)

トランプ氏が約束したのは「北朝鮮の安全の保証」である。北朝鮮と米国の間には停戦協定(北朝鮮は過去何度も停戦協定の破棄を口にしている)があるのみで、相互防衛条約のようなものはないのであるから、北朝鮮に安全の保証を与えるという文言は、日米安保とは違って、北朝鮮が他国から攻撃を受けた場合、米国が助けるということではさらさらない。北朝鮮の政治体制は世界でも類のない独裁制で、民主主義のラッパを吹いてきたアメリカが、その独裁体制を保証すると公文書で明言できるわけもあるまい。そもそも、外国がある国の安全を保障することはできたとしても、その国の特定の政権や政治体制を保証することができるだろうか? 米国大統領が共同声明で日本の安倍体制を保証するといえば、それがどんなに馬鹿げた発言であるかは、論を待たないだろう。したがって、「北朝鮮に安全の保証を与える」(to provide security guarantees to the DPRK)という記述は、米国は停戦協定を破って北朝鮮を攻撃することはない、という意味であると読む以外にない。北朝鮮指導者は永らく米国から攻撃されるのではないかという恐怖感にさいなまれてきたというのが世間の認識だった。

その恐怖を打ち消すために、北朝鮮は非核化のごまかしを繰り返しなら核弾頭を持ち、それを運ぶICBMの発射実験に成功した。今度は北朝鮮が米国に不安を呼び起こさせて、トランプ大統領に腰をあげさせ、念願の米朝両国の首脳同士のサシの話し合いまで持ちこんだ。

そうした過去のいきさつを踏まえて、世間が「北朝鮮の安全の保証=金王朝支配の保証」と理解しているだけである。

それはさておき、米朝首脳会談そのものは歓迎すべき出来事である。

首脳会談はこの秋の米国の中間選挙とその後の大統領再選をねらったトランプ氏の景気づけという見方もある。トランプ氏が大統領再選に失敗すれば北朝鮮問題を早急に解決しようという米国側の機運は薄れ、トランプ氏が再選すればトランプ氏にとって北朝鮮の利用価値は低下する。

さて、シンガポール会談の後、運が良ければ北朝鮮の非核化は時間をかけて実現に向かうかもしれない。運が悪ければ、冷戦の負の遺産である朝鮮半島の非武装地帯を挟んで、これまでと同じいがみ合い、脅し合い、虚勢の張り合い合戦が再開され、偶発核戦争の恐怖で、再び眠れない夜がやってくる。

運良く、北朝鮮の非核化をめぐり時間のかかる交渉が始まったとしても、「朝鮮半島の非核化」という文言を廻り、北朝鮮の核のCVIDだけではなく、過去に在韓米軍が保有していたが1990年代には撤去されたとされる戦術核兵器の韓国内での徹底的な検証を北朝鮮が要求することになる。

「北朝鮮の安全の保証」をめぐっては、在韓米軍の存在はもちろん、在韓米軍と一体となって北東アジアの安全保障を担っている在日米軍にまで話が及ぶことになろう。在韓米軍は韓国の安全を保障し、在日米軍は日本の安全を保障するのが目的であるという主張と、韓国と日本の安全を保障する駐留米軍は同時に北朝鮮にとっては安全保障上の脅威になるという千日手――安全保障のディレンマが浮上し、決着がつかなくなる。

すったもんだの交渉の終着点は、北朝鮮に対する攻撃か、北朝鮮の核保有を既成事実として容認する、の二者択一を米国がせまられる事態へと発展する。

北朝鮮の非核化の道のりは、停戦協定にかわる米朝の平和条約締結の交渉と同時進行で進まなければならず、それには骨の折れるデリケートな外交交渉の積み重ねが必要になる。一発ウケをねらうトランプ大統領を頭に頂いた現在の米政権の政策企画能力ではこなしきれない作業である。

(2018.6.13 花崎泰雄)

 

 

 

 

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ジョーカー、ライアー、マッチョ、トランプ

2018-06-11 16:37:01 | Weblog

ダグラス・ホフスタッターの『ゲーデル、エッシャー、バッハ』(白揚社)は、翻訳出版された当時、書評欄で話題になった。その本の中に、

 エピメニデスはクレタの人で、次のような金言を残した。「クレタ人はみなうそつきである」

という記述がある。昔から論理学的に豊かな話題を提供してきた故事である。

これに似た話が現代の米国にもある。

トランプ米大統領がフェイク・ニュースと呼ぶ米国の主要メディアは「トランプはうそつきである」と報道している。

そのようなトランプ氏がG7のホストをつとめたカナダ首相のトルドー氏を “dishonest and weak” と罵る言葉をツイートした。トランプ氏が唱えたアメリカ・ファーストの保護主義貿易をめぐって、欧州とカナダのリーダーたちから厳しい批判を浴びたことへのお返しだろう。批判がトランプ氏のナイーブで過敏な自尊心を逆なでしたのだろう。それ以上に、トランプに抗う奴はののしりを受けることになる、そのせいでG7がどうなろうとおれの知ったことか、と会議途中で席を立ったタフガイの姿を、アメリカのトランプ支持者やキム・ジョンウン氏に見せたかったのである。

外交辞令は単なる美辞麗句の羅列だけではなく、所々に辛辣な針をしかけた文章テクニックをいう。G7のメンバー国の首脳が会議の途中で席を立ち、さらにホスト国の首相の人格を誹謗するような書き込みを公にするのは、外交上気極めて稚拙で異例のことである。最初からけんか腰では外交にならない。

さて、トランプ米国大統領は、キム・ジョンウン委員長との会談で、非核化をめぐって満足できる交渉にならないとわかった場合はすぐさま席を立つ、と公言してきた。G7では憤懣やるかたなく会議途中で席を立ってみせたが、シンガポールでこれといった成果を手にしないまま、会談の最後までキム・ジョンウン氏の相手をずるずると務めるということにでもなれば、それはそれで、マッチョ・トランプにとってマイナスイメージになるだろう。G7では席を立ったのに、なぜシンガポールでは席を立たなかったのか、と。

 (2018.6.11 花崎泰雄)

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給与1年分自主返納

2018-06-04 23:35:16 | Weblog

麻生太郎財務大臣が一連の森友問題のゴタゴタに関連して、閣僚給与を1年分自主返納するという。

国務大臣の給与は現行で2930万円ほど。所管の違いに関係なく一律である。約3000万円を自主返納するのかというと、そういうことではないらしい。

麻生氏は財務大臣であると同時に衆議院議員である。国会議員が国務大臣になった場合は、「議員で国の公務員を兼ねる者は、議員の歳費を受けるが、公務員の給料を受けない。但し、公務員の給料額が歳費の額より多いときは、その差額を行政庁から受ける」(国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律、第7条)ことになる。

国会議員の歳費は年額2200万円ほどで、国会の予算から支給される。国務大臣給与から議員歳費を差し引いた差額は、それぞれの省の予算から支給される。

麻生太郎財務大臣の場合は、計算上、その差額約700万円を自主返納することになる。しかしながら、国務大臣給与はすでに政策上の判断で減額されているので、麻生氏が自主返納する実際の額は170万円と報じられている。1ヵ月あたり15万円弱である。

国会議員がその歳費を返納すると、国庫への寄付行為とみなされ、政治家の寄付行為を禁止している公職選挙法との関連で、そうとう厄介な事案に発展する。公務員としての給与の自主返納は公職選挙法に抵触しないとされている。

 ●麻生太郎財務大臣が閣僚給与1年分を自主返納

 ●麻生太郎財務大臣が閣僚給与1年分170万円を自主返納

だいぶ印象が違ってくる。

170万円か。

麻生氏の国会審議中の意味のないヘラヘラ笑いや、傲岸不遜、傲慢無礼、無知蒙昧な記者会見の発言をテレビや新聞で今後、見聞きしないですむのであれば、「自主返納結構です。こちらから同額を追い払いいたしますので、どーぞ大臣席からお引き取り下さい」という気分の有権者は少くないだろう。

(2018.6.4  花崎泰雄)

 

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