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野口英世はなぜ間違ったのか(4)

2013-02-01 15:46:51 | 野口英世
野口英世は梅毒の病原体であるスピロヘータの培養に成功したと発表しているが、現在でも誰も追試に成功していないことから間違いだったのではないかと考えられている。
しかし、ワイル病の病原体であるレプトスピラ(Leptospira icterohamorrhagiae)の培養については熱心に取り組み成果を上げた。
それは英世のレプトスピラに関する論文の第二報(培養条件の研究)に記載されている。


論文の要約と結論
1.Leptospira icterohamorrhagiae の培養には動物又は人間の血清が必須である。
2.血清の栄養価は60℃、30分の加熱でかなり減少する。100℃では破壊される。
3.動物によりその栄養価は異なる。ラットと豚の血清は全体的に欠けている。ウサギ、ウマ及びヤギの血清はモルモット、羊、ロバ又は牛血清より、生育により適している。人血清は適しているが、腹水は適さない。
4.正常モルモット又はウサギの肝臓、腎臓、心筋、又は睾丸の新鮮又は加熱乳剤は、その微生物の培養価値が無い。卵白、卵黄も同様である。
5.10%以上の正常ウサギ血清を加えたRinger液の培地では増殖する。5%血清では中程度の生育である。2%以下だと生育しない。
6.培地の張度はその微生物の生育と形態にあまり影響しない。希釈液として蒸留水を含む培地又は8%食塩を含む培地は同じ結果を与えるように見える。その微生物の生活力は希釈液としてRinger液又は等張の食塩液を使用した培地で最大になった。
7.その微生物は少しアルカリ性の培地で最も元気に発育する。もし中性だと生育は貧弱で、培養菌は短命である。少量のカセーソーダを加えててアルカリ性になったとき又は塩酸を加えて酸性になったときは生育は起きない。
8.Leptospira icterohamorrhagiae は絶対好気性である。酸素の接近を妨害すると、培養に不利な因子となる。
9.培地への炭水化物(糖)の添加は、その微生物の生育又は形態に明確な影響を与えない。培地のpHはそれらの存在で変わらない。
10.Leptospira icterohamorrhagiae は10~37℃のどの温度でも生育する。最適なのは30~37℃である。生育は30℃又は25℃よりも37℃でより早く進む。42℃では生育しない。
11.新鮮分離株の培養のために3種類の異なる培地を記載した。これらの培地で長期間培養後、株はRinger液又は等張食塩液で希釈した血清中で容易に培養される。

 *Ringer液:生理的食塩液で、食塩8.6g、塩化カリ0.3g、塩化カルシウム
  0.33gを蒸留水1000ccに溶かしたもの。

以上のように英世はこの論文でレプトスピラの培養に関する条件を明らかにした。なかでも他の細菌が利用する糖類をレプトスピラは利用しないことを見出していることは特筆に値する。一般の細菌は炭素源として糖類を利用するが、レプトスピラは血清中の脂質を炭素源としてTCAサイクルを一般の細菌と逆に進めることが現在では解っている。

また、この論文中に以下の考察がある。
「この微生物の増殖する能力と10℃で長期間活動的である能力は、流行病学的見地から興味深い。これはある昆虫が病毒の貯蔵所として役立つかも知れないことを示唆している。」
これは蚊が媒介することが知られていた黄熱病を意識した考察と考えられる。すなわちこの時点でレプトスピラが黄熱病の病原体ではないかと考え始めていたように思われる。
コメント
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