極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

最終観戦記 アルツハイマー病

2015年09月24日 | 時事書評

 

 

  

 

   「そういうのってなんや? なんか俺、変な奴みたいにな
           ってんのかな?」と神谷さんは不安そうな目で僕を見た。

                                                          又吉直樹  /『火花』 



 

 ● 折々の読書 『火花』6 又吉直樹 著


  姿の見えない金木犀を探しながら近所の中通り商店街を歩いていた。昨夜、確か
に、この辺
 りで金木犀の香りがして、起きたら探しに行こうと楽しみにしていたの
だ。いつもピンサロの
 前になっている呼び込みのお兄さんが、自転車で僕の横を通り
過ぎて行った,こんな駅前では
 なかったはずだ。もう一度、アパートまで戻りながら
探さなくてはと引き返そうとした時、神
 谷さんから、「吉祥寺に住む。どこおる?
 夥しい数の桃」というメールが入った。僕は、「
 高円寺です。今から吉祥寺向かいま
す。泣き喚く金木犀」と返信し、駅まで急ぎ、ホームヘの
 階段を駆け上がり、総武
線に飛び乗ると、ようやく気持ちが落ち着いた,車窓から色づきはじ
 めた街の景色を
見下ろしながら、吉祥寺まで揺られた。

  土曜日の吉祥寺駅北口は学生や家族連れで酷く混雑していた。それぞれが目的を持
ち軽やか
 に流れて行く人々の中で、周辺の重力を一人で請け負ったかのように、重た
い空気を身に纏っ
 た男が真顔で突っ立っていた。日常の風景の中で目にする神谷さん
は違和感の塊だった。
  僕に気づくと神谷さんは嬉しそうに微笑み、「前から変な妖怪歩いてきたと思ったら徳永や
 ないか」と言った。

 「こっちの台詞ですよ。今すぐ大阪帰ってください。早く早く早く帰って下さいよ」と僕は言
 った。 

  神谷さんと一緒に吉祥寺の街を歩くのは、不思議な感覚だった。神谷さんは、なぜ秋は憂鬱
 な気配を孕んでいるのかということについて己の見解を熱心に聞かせてくれた。昔は人間も動
 物と同様に冬を越えるのは命懸けだった。多くの生物が冬の問に死んだ,その名残りで冬の入
 口に対する恐怖があるのだということだった,その説明は理に適うのかもしれないが、一年を
 通して慢性的に憂僻な状態にある僕は話の導入部分から上手く入って行くことが出来なかった。

 「凄いですね。とかないんかい」と言う神谷さんの声を聞いて我に返った。
 「すみません」
 「謝んなや。大阪で高速バスが走り始めた時から、お前にこの話して尊敬されようと楽しみに
 してたのに」

 臆面もなく自分の欲望を晒せるのは神谷さんの美点だと思う。

 「いや僕はね、一年通して憂僻な状態なんですよ。先祖が慢性的に危機的な状況に置かれてた
 んですかね?」
 「せやな。もしかしたら一切危険のない環境やったから、自分達で別種の緊張状態を生み出し
 てもうたんかもな」と神谷さんは早口で捲し立てた。
 「だとしたら、結構阿呆ですね」
 「どうやろな」

  適当に歩いていたはずが、いつの間にか、井の頭公園に向かう人達の列に並んでいた。公園
 に続く階段を降りて行くと、色づいた草木の間を通り抜けた風が頬を撫で、後方へと流れて行
 った。公園は駅前よりも時間が緩やかに進んでいて、目的を持たない様々な種類の人達がいた
 ので、神谷さんも馴染んだ,僕は、この公園のタ景に惚れていて、神谷さんを連れてこられた
 ことを嬉しく思った。

  池のほとりに腰を降ろし、太鼓のような長細い楽器を叩いている若者が平凡な無表情を浮か
 べていて、僕も確かに気にはなったのだが、神谷さんは周りを憚ることなく、男の前で露骨に
 立ちどまると、首を傾げて不思議そうに男の顔と楽器を交互に見比べた。なぜ数多くある楽器
 の中から、この男はそれを選んだのか。しかし、神谷さんにしても、更に複雑な形状の、いか
 なる音が出るのか想像もつかないような楽器を選びかねない人種であることは間違いなかった。
  楽器の男は注目されるのが不快だったのか眉間に皺を寄せて、気怠そうに演奏をとめた。
 
 「ちゃんと、やれや!」

  突然、神谷さんが叫んだ,僕は驚きのあまり動けなかった,神谷さんは、両眼を見開き男を
 睨みつけていた,男は一瞬とまった後、自分の披る赤い帽子のつばに触れ、怒嗚られたことを
 恥じるようにうつむいた。その所作が、怒鳴られたのは自分ではなかったと信じたいように見
 えた。
 
 「お前に言うとんねん!」

  神谷さんは男を逃がさなかった。やはり、この人は頭がおかしいのかもしれない。とめるべ
 きだろうか。でも僕は、なぜ神谷さんが感情を露わにするのか理由が知りたかった。
 「お前がやってんのは、表現やろ。家で誰にも見られへんようにやってるんやったら、それで
 いいねん。でも、外でやろうと思ったんやろ?俺は、そんな楽器初めて見た。めっちや格好良
 いと思った。だから、どんな音すんのか聴きたかったんや。せやのに、なんで、そんな愈地悪
 すんねん。聴かせろや!」

  男は神谷さんを見上げて、「いや、そういうんじやないから」と鬱陶しそうに答えた。

 「そういうのってなんや? なんか俺、変な奴みたいになってんのかな?」と神谷さんは不安
 そうな目で僕を見た。
  僕は、「完全に変な奴ですよ]と神谷さんに教えて差し上げたが、神谷さんは、なぜ僕が笑
 っているのかわからないようだった。
  僕は男に謝った上で、すぐに立ち去るので少しだけ楽器の音を聴かせて欲しいと頼んだ,男
 は渋々、太鼓らしきものを叩きはじめた,神谷さんは眼を瞑り、腕組みしながら右足でリズム
 を取っている。男も神谷さんの様子を見て安心したのか、テンポを上げだした。夕暮れの公園
 を歩く人達が珍しそうに僕達を見ていた。男が楽器を激しく叩く。益々テンポが上がり連打に
 入った。すると神谷さんは右足でリズムを刻んだまま、右手を前に出して、空気を押すように
 二度ほど手の平を動かした。それに気づいた男が少しずつテンポを落とし、適度なところで神
 谷さんは右手を戻した。男はテンポをそこで固定して再び演奏に没頭しだした。いつの問にか、
 僕達の周りに若い女性が何人か集まっていた。ますます乗ってきた男が、今までになかったよ
 うな斬新な打ち方を始めると、神谷さんは右足でリズムを刻んだまま、再び右手を出してそれ
 を制した。男は斬新な打ち方をやめて、元の打ち方に戻した。ほとんど仲谷さんは指揮者だっ
 た。男の額からは汗が流れ、更に足をとめる人が増えた。僕も無意識のうちに、音にに合わせ
 て首を動かしていた。音と音の余韻が連鎖して旋律になった。そして、神谷さんもその一部だ
 った。男は赤い帽子から出た長い手を振り乱して楽器を烈しく叩いた。

  その時、唐突に神谷さんが「太鼓の太鼓のお兄さん!太鼓の太鼓のお兄さん!真っ赤な帽子
 のお兄さん!龍よ目覚めよ!太鼓の音で!」と幼稚な詩を大声で唄い出した。僕がとめても、
 しばらく神谷さんは唄うことをやめなかった。

  辺りが紫色に暮れ出すと雨粒が僕の肩を濡らし、次第にシャツを濡らした。それを合図に人
 垣は散り散りとなったが、男はそれでも楽器を叩き続けていた。混沌の様相を呈す場を、主謀
 者の神谷さんと共に後にした。「武蔵野珈琲店」という看板が眼に人った時には、雨粒は激し
 く路面に弾かれていたので、僕達は迷わず階段を昇り店の扉をひいた。

 
                                又吉直樹 著『火花』 

師匠と呼ばれる神谷のひととひとなりが劇的な発露として一瞬読み手を緊張に導出すると同時に、
作者のエネルギーを感じ取ることができるシーンとなっている。

                                     この項つづく

 

 

【環境配慮型太陽電池研究 Ⅰ】

韓国の大学の研究グループが、薄膜ハイブリッド型の太陽電池の試作に成功したと発表し話題とな
っている。上/下図のように、太陽光をすべてエネルギーに変えてしまうアイデアの延長にあるも
の。まず、(1)紫外光域は、光吸収の優れた色素増感型変換層で電気エネルギーに変換、(2)
可視光域はは有機型変換層で電気エネルギーに変換、(3)さらに、近赤外域は熱電変換層で電気
エネルギーに変換する構造(尚、PT/PEは電極とフィルム樹脂、PVDF-TrFEはフィル
ム樹脂)。

太陽電池は進化加速している。降り注ぐ太陽光を百パーセント電気変換できるまでは至っていない
が、このハイブリッド・ソーラー電池は、従来のソーラー電池より20%変換効率を向上させた。
構造自体は目新しいものではないが、電圧が従来のものより、5倍というのが最大の特徴で、可撓
性も保て、新しい構造によるコストアップ分は変換及び集電効率の性能でアップ十分カバーできる。
これは面白い。

 



【釣り革命: ドローンで釣りも五月蠅くなるが】

これから、海や川、池の釣り場でドローンのフィッシャーマンが接見するかもしれない。勿論、現
時点では
魚影を探知、追跡し鶴というものまでには至っていないが、かなりの大物を釣れている。
また、釣り糸を通電
できるように、LEDの集魚灯を浮きに付け釣ることも試されている。これは
「釣り革命」に違いないが、これまでの自然にとけ込んで釣りを楽しむ伝統的な釣り人は、はた迷
惑なもの。このようにドローンが市民権を得るには「静粛性」「安全性」「非兵器性」「人権保護
性」などのをクリアが大前提となる。

 

 

【最終観戦記  アルツハイマー病Ⅰ】


●その1:カマンベールチーズで予防できるか

高齢者の増加に伴い、認知症は大きな社会問題。残念ながら認知症の本質的な治療方法は、未だ明
らかでない。そこで、日常生活の中で認知症を予防できる方法の開発が注目を集めている。これま
で、チーズ等の発酵乳製品を摂取することで認知機能の低下が予防されるという疫学的な報告があ
ったものの、詳細な機序やその有効成分は不明のまま。東京大学の中山裕之教授らの研究グループ
は、カマンベールチーズに含まれる成分が、認知症の一種であるアルツハイマー病の症状を再現し
たマウスで、その原因物質であるアミロイドβの沈着を抑える効果があることを見出したことを発
表。アルツハイマー病の症状を再現したマウス(5xFAD)に市販のカマンベールチーズから調製した
飼料を摂取させると、この成分を含まない飼料を摂取させたマウス群に比べ、(1)アミロイドβ
の脳
内沈着が減少し、脳内の炎症が緩和されること見出す。(2)また、脳内で異物の排除を担う
ミクログリアがアミロイドβを除去する機能(貪食活性)と(3)抗炎症活性を促進するはたらき
のある物質を、(4)カマンベールチーズの製造時に用いられる白カビで発酵させた乳から探索。
その結果、(5)オレイン酸アミドとデヒドロエルゴステロールを同定する。これらの成分は白カ
ビによる発酵工程で生成された可能性がある。この
成果により、発酵乳製品の認知症予防について、
カマンベールチーズによるアルツハイマー病への予防効果が有効である可能性が高まり、特定され
た有効成分の検証など、今後のさらなる研究が期待されている。

 

 

 

● アルツハイマー病の進行抑制に成功するするか

京都工芸繊維大学の和久友則助教らの研究グループは、アルツハイマー病発症の原因である脳内の
蛋白
質異常凝集を抑制するナノファイバー型ペプチド医薬を新たに開発したことを発表。アルツハ
イマー病疾患
モデルマウスに、このペプチド医薬を投与すると、アルツハイマー病の進行を抑制。
このペプチドは人体内
に含まれるタンパク質由来の無害なアミノ酸配列を利用、今後新たなアルツ
ハイマー病治療薬として応用で
きる見込み。

アルツハイマー病は、細胞外におけるアミロイドβの異常凝集と、細胎内においてリン酸化を受け電
荷が変化したタウ蛋白質の異常凝集が誘導する神経細胞死により起こ
る。現在アルツハイマー病の
薬剤として、抗アミロイドβ薬である(1)酵素阻害剤
や(2)免疫療法、さらに抗タウタンパク
質凝集薬としてダウの(3)リン酸化阻害剤などの研究が行
われている。

しかし、アルツハイマー病をより効率的に制御するためには、アミロイドβとタ
ウタンパク質の異
常凝集を同時に抑制する薬剤の開発が望まれている。これもでの熱
ショック蛋白質αクリスタリン
由来のペプチドをアルツハイマー病治療薬として利用する
研究が同グループで行ってきた。αクリ
スタリンは水晶体内でタンパク質凝集を防ぐことで、白内障を
抑制する機能を有し、その基質結合
部位 αAC(71-88):FVIFLDVKHFSPEDLTVKは、
アミロイドβの異常凝集を抑制することが報告され
ていた。我々はこの αAC(71-88)が自己
会合しナノファイバー化することで、蛋白質凝集抑制機能を
増幅することを明らかできた。
 
さらに、ナノファイバーは(1)疎水性相互作用により、蛋白質凝集体を表面に吸着することっ
アミロイドβの凝集が抑制されることを見出す一方、(2)この機能が、ナノファイバーの表
面電
荷に強く影響を受け、標的タンパク質と静電的に結合すると、表面電荷を喪失して蛋
白質凝集を逆
に促進することを見つける。これにより酸性のアミロイドβと塩基性のタ
ウタンパク質の双方の凝
集を抑制には、塩基性配列を導入したペプチド用いて表
面電荷が中和したナノファイバーの設計が
必要となる。

そこで、塩基性細胞膜透過性配列アンテナペディア:RQIKIWFQNRRMKWKKαAC(71-88)の末端
に結合させたペプチドを利用し、表面電荷がゼロの中性ナノファイバーを調製。このナノファイバ
ーをマウスの静脈に投与し、細胞膜透過機能により脳内へ移行することが蛍光顕微鏡により確認。
さらにアルツハイマー病疾患モデルマウスにナノファイバーを投与すると、アルツハイマー病の症
状の進行が抑制されることがY字迷路試験で確認。また、投与の際の患者への負担が少ない鼻粘膜
投与した疾患モデルマウスでも、Y字迷路試験により効果確認され、現在脳内移行性の確認実験を
行っている。

癌・アレルギーとこの認知症はこのブログでも重要なテーマでもあり、アルツハイマー型認知症も 
この他の2つの病症と同様に、原因を突き止め、罹患率を抑制できるのも間近だと確信している。
尚、このシリーズで取り上げていく。

   

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