その昔、「公証役場ってなんという役場は、この銀座にはありません」と、銀座公証役場に行こうとして、道を尋ねた警察官に言われたという笑い話しを公証人の方に聞いたことがあります。それ程、公証役場、或いは、公証人なる公務員に縁のある一般の方は少ないようです。
ところが、我々行政書士にとっては、かなり頻繁に行く所でもあるのです。例えば、株式会社設立に伴う定款の作成は行政書士の仕事ですが、この定款に認証といって、お墨付きの証明書を添付して貰う必要があります。また、遺言公正証書の作成やら外国政府に提出するような翻訳文の宣誓認証などを行ってくれる所も、この公証役場であり、公証人という法務局に所属する独立開業型の公務員の方々なのです。
えっ?公証人って独立開業しているの?と、思う方々が多いと思うのですが、法務局に所属する公務員でありながら、お給料が無いからなのです。だから、公証人の先生方は、それぞれ確定申告をされている、自営業の方々でもあるのです。
また、公証人の先生方の前職は、主に元検察官か、元裁判官であった方々ですから、弁護士としてではなく、引き続き公職としての公証人という、検察官、裁判官と同じような厳格に中立かつ公正な立場の職務を行える方々でもあるのです。そんな関係から、早めに検事や裁判官を退官されたとしても、皆さん年配の方が多いようです。
さて、会社定款や遺言の他にも、離婚による慰謝料・養育費支払に関する公正証書や昨今は、私の専門外ですが、年金分割に関わる公正証書作成、或いは尊厳死宣言公正証書なども急増しているようです。そして、私の場合、金銭消費貸借契約公正証書や債務弁済契約公正証書の当事者の代理人として、公証役場に行くことが時々あります。
金銭消費貸借契約書とは、簡単にいえば「お金の借用書」、債務弁済契約書は、「借金返済の確認書」の事です。な~んだと、思うかもしれませんが、これが普通の借用書や確認書なんかとは雲泥の差がある書面なのです。通常、これらの公正証書には、「乙(借り手)は、本証書に記載した金銭債務弁済を履行しないときは、直ちに強制執行を受けても異議がない」といった条項を付け加えます。
実は、この「強制執行認諾条項」が付いている公正証書であることが、単なる借用書や債務返済確認書と全く違うパワーがあるのです。単なる、借用書や債務返済確認書である場合には、裁判で判決を得たり、和解、調停による調書を裁判所で作成して貰うか、或いは簡易裁判所の仮執行宣言付支払督促などによって、はじめて強制執行ができるのです。
ところが、裁判している間に、相手方がドロンしてしまったり、或いは、他の優先的債権者によって、先に差し押さえられてしまっていたりとかで、結局何も得られないことも実は多々あるのです。実際、裁判で勝訴しても、相手方に支払能力がなく、何も得られなかったなんて、泣くに泣けない話しはよくあるのです。
ですから、お金を貸す場合ですが、「貸した時点で半分は諦めなさい」と、親族や友人にはよく云います。しかし、相談者には、そうは云えませんから、最も焦げ付く可能性の少ない、この強制執行認諾条項付の公正証書の作成をお勧めしています。
これを作っておけば、相手方が約束を守らなかった場合で、相手がまだ勤務していたり、或いは、預貯金がある場合には、裁判をすること無しに、素早く、相手方の勤務先の給与の一部や預貯金を公証人経由で差し押さえて貰うようお願いすることができますので、旨く行けば全額回収できるか、被害を最少限に抑えられる可能性があります。
この公正証書作成ですが、貸し手や借り手に代わって、我々行政書士(どちらか、一方のみでも可能)が代理人となって、作成して貰うことができますから、お金を借りる側は、「時間が無いから」とか、「面倒だから」と云ったような言い訳が決して出来ない書類作成手続なのです。
通常の金銭消費貸借契約書などに、強制執行認諾条項を足すだけですから、我々行政書士が頂ける報酬は、せいぜい数万円程度と、実費である公証人手数料(債権金額によりますが、500~1000万円の額で1万7千円+紙代程度)しか頂けません。しかし、当事者の一人を代理したり、或いは、外国語による説明サービスを含めれば、それなりの報酬を頂ける場合もあります。
まあ、お金を貸す方が、どのようなスタンスでお貸しになるかにもよりますが、「確実に返すから、200万円何とか都合してくれ!」なんて頼まれちゃって、とても不安ではあるが、貸さない訳には行かない、と云うような場合には、やはり、この公正証書を保険代わりに作っておくことを、私はお勧めしています。「転ばぬ先の公正証書!」な~んて、私は云ってはいますが・・・。