春は自然も人の気持ちも新しい息吹を感じる時期である。後期高齢者の筆者も春になると何故か新たな事に挑戦してみようと心が引き締まってくる。木々の枯れ枝に新芽が出て、葉が大きくなると同時に色が濃くなっていく。その葉が太陽の光を利用して、大気中の二酸化炭素を、根から吸い上げた水とで有機化合物を合成していく。その際に、大気中へ酸素を放出する。この反応を光合成という。
合成された有機化合物と酸素は動物によって利用される。前者はエネルギー源となり、後者は有機化合物を燃焼させてエネルギーを産出する原動力になる。
この現象に目をつけた科学者がいた。それはShimuraさんという某公立大学の教授になった方である。この方は、前記の光合成は電子的に進行することに目をつけた。そして葉緑素の成分であるクロロフィルに構造が似た物質を合成することに成功した。
この物質は、フタロシアニンという名前で呼ばれており、別の物質を合成するさいの副産物として産出し、利用価値がないということで放棄されていた。フタロシアニンはガラス製造の原料の一部として使用すると、皆さんもご承知の太陽光に当たると変色するガラス、サングラスに利用されている。バスの窓ガラスにも使用されている。
Shimuraさんは、この物質の特許申請をしないまま学会で発表してしまった。すると、ガラス業界だけで無くいろんな分野の人たちが猛烈な勢いで研究し、製品化を果たしてしまった。アメリカ合衆国などの研究者なら、先ず特許申請をして、それから学会で報告するのが常法であるが、Shimuraさんはそれをしなかった。研究者としては、一般的な製品が生産されるようになるとその物質から別の物質に研究目的が変わる。Shimuraさんも例外で無く、フタロシアニンのさらに複雑な構造の物質に研究を進めた。それはオフタロシアニンという物質であるが、どのような性質を持つ物かについては伺っていなかった。
今は、定年を迎え絵を描くことにいそしんでいるという。年賀状に描かれている絵は何かの展覧会で受賞の対象になったと聞いている。
頭の中でも、新旧交替が繰り返されている。それがどのように表現されるかによって他の人に深い感銘を与えることになる場合がある。
筆者は、Shimuraさんの話を若い方々への励ましの言葉として利用させていただくことがある。
かくいう筆者も、心の衣替えをしようと思う今日この頃である。