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郡司利男『国語笑字典』(カッパブックス)

2018-10-15 | 書評「く・け」の国内著者
郡司利男『国語笑字典』(カッパブックス)

◎日本最初の笑いの字典

 私の書棚には3万冊の本があります。そのなかで最も古くからある本は、郡司利男『国語笑字典』(カッパブックス)だと思います。高校時代はカッパブックスの一大ブームでした。松本清張作品のほとんどは、このシリーズで読みました。そして運命の出逢いがありました。『国語笑字典』は、私に日本語の楽しさを教えてくれた大切な本です。本書のお陰で、私の国語好きがはじまりました。
 今回一週間かけて半世紀ぶりに再読してみました。少し時代にマッチしていない箇所もありましたが、おおむね若いころの興奮がよみがえってきました。特に柳原良平のイラストは、当時の記憶そのままに笑わせてくれました。

 郡司利男は、1923年生まれで1999年に逝去している英文学者です。ピアス『悪魔の辞典』(岩波文庫、西川正身編訳)に触発されて、『国語笑字典』を書いています。そのことは、本書「まえがき」に明示されています。。

――これは、日本ではおそらくはじめての、本格的な国語の笑字典である。(中略)海外では、これまでに、笑字典のたぐいが、すくなからず出版されている。なかでも、ピアス『悪魔の字書』(アメリカ)、イサールの『英語笑字典』(アメリカ)は、私の愛読書である。

『国語笑字典』のおもしろさは、ユーモラスな字典の合間にあるエッセイにもあります。たとえばこんなくだりです。

。――姓名の、しかもその字画で、人の運命が左右されるものであれば、まるまっこくて、字画のない名前の西洋人の運命は、どうなるというのだ。(本文P23)

字典のなかからも、いくつか紹介させていただきます。

――ないゆうがいかん(内憂外患):恋とにきびと。(本文P50)

――いさん(遺産):兄弟は他人の始まりと言う。すなわち、これを分配するとき、兄弟として集まり、他人として別れるのである。(本文P70)

ちなみに「遺産」について、ピアス『新編・悪魔の辞典』では次のように説明されています。

――遺産(legacy):この涙の谷間からさっさと逃げ出して行こうとしている者、あるいは片足を墓穴に突っ込んでい者があとに残して行く贈り物。(本文P30-31)

◎にきびと恋と

『国語笑字典』の初版は、昭和38(1963)年8月1日となっています。私の手元にあるのは、24刷で昭和38年11月10日です。なんと発売3ヶ月で24回の刷り増しがなされているのです。本書が爆発的に売れたことがわかります。

本書の魅力について、若島正は次のように書いています。

――わたしが中学生になった1980年代の中頃は、それこそカッパ・ブックスの全盛期であった。松本清張に狂ったのも、すべてカッパのせいである。そしてカッパ・ブックスのなかでわたしが最も影響を受けたのは、郡司利男という英語学者が書いた『国語笑字典』と『英語笑字典』の2冊だ。(「本の雑誌」2015年12月号)

 この文章から推察するなら、カッパのブームは約20年にもおよんだことになります。

『国語笑字典』は希少本になっています。入手が難しければ、郡司利男『迷解・国語笑辞典』(東京堂出版)なら新刊で購入できます。ただしこちらは柳原良平のイラストもなく、軽妙なエッセイもありません。

 にきびと恋の内憂外患時代を、懐かしく思い出した再読でした。赤線だらけの黄ばんだ本書を、書棚の一等地に収めました。私の原点は本書にあります。感謝。
山本藤光2018.09.15

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