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316:形式知と暗黙知

2018-12-04 | 小説「町おこしの賦」
316:形式知と暗黙知
――『町おこしの賦』第10部:生涯学習の町

 二人のやりとりを聞いていて、詩織がいった。
「明里、それを勉強したら賢くなれるの? なら、私にも教えて。ただし、わかりやすくだよ」
「うん、授業料は高いよ。知には二種類あるの。一つは賢者が文字や言葉にした知。テキスト、データベース、講義などが代表例なんだけど。
もう一つの知は、文字や言葉に表しにくい知。こっちは、スキルやノウハウ、名人芸などのことなんだ。テキストなどのことを形式知といって、名人芸などを暗黙知というの」
「何となく、わかった」
「お母さんは若いころ、お父さんの大好きなキンキの煮つけを、勉強したっていっていたわね。それはテキストという形式知を見ながら、料理というスキル、暗黙知に変換していることなの」
「何だか偉そうなことを、している感じだね」
「そう、私たちは日常のなかで、知らないうちに形式知と暗黙知の変換をしているの。では、お母さんへの問題。テレビの料理番組を見て、必要なレシピのメモを取るのは、何から何への変換でしょうか?」
 詩織は考えこんでしまう。恭二は助け船を出す。
「料理番組はスキルだから暗黙知。それをメモにするのだから、形式知にしている」
「あたり。お父さん、すごいね」

「ナレッジマネジメントは、形式知と暗黙知を意図的に循環させることなの。たとえば、役場の例で説明すると、こうなる。課長は会議で、部下に成功例を発表させる。これは暗黙知から形式知への変換。経験したことを、しゃべるのだから、わかるよね。
次に発表された成功例を、課員がよりよいものに磨き上げる。これは形式知になったものに関するディスカッションだから、形式知と形式知の変換。
翌日課員は、みんなで磨いた成功例を、現場で実践している。これは形式知から暗黙知への変換。
最後に現場で課長は、やってみせてやらせてみる。これは暗黙知と暗黙知の交換。これでSECIは一回りしました」
 詩織は、ため息をついている。SECEは回っていないが、目が回ってきたのだ。恭二は大いに、ヒントをもらったと思った。



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