町おこし162:詩織の謝罪
――『町おこしの賦』第5部:クレオパトラの鼻39
帰りの車では、恭二が助手席に座った。後部座席からは、幸史郎のいびきが聞こえた。恭二は詩織に語りかけた。
「おれ、大学を卒業したら、ここへ戻ってくるような予感がしている」
「どうしたの、急に?」
「コウちゃん町長を、応援するためかな」
詩織は笑った。後部座席からは、勇ましいいびきが続いている。恭二は、詩織がいるから、という言葉を飲みこんだ。
幸史郎と可穂を宮瀬家で降ろし、詩織は助手席の恭二にいった。
「ちょっと、つきあってくれない? 図書館で借りたい本があるんだ」
「いいけど。何ていう本?
「『菜根譚(さいこんたん)』。岸田書店を探したんだけど、なかったの」
「おれ、読んだことがないけど、どんなことが書いてあるの?」
「人生の困難を乗り越えるための指南書らしいわ」
「詩織は今、困難に直面しているの?」
「そんなわけじゃないけど……」
本を借りた詩織は、ちょっとちゅうちょしてからいった。
「聞いてもらいたいことがあるの。そこでお茶しない?」
「いいよ」
二人は図書館の隣りの、喫茶店に入った。コーヒーを注文してから、詩織はしっかりと恭二の目をとらえた。
「恭二にちゃんと、謝っておきたかったの。私の結婚で恭二を傷つけ、裏切ってしまった。ごめんなさい、恭二。私、病気でどうかしていたんだと思う。つらかったし、苦しかった」
コーヒーが運ばれてきた。恭二はすぐに口をつけた。詩織は砂糖を入れ、ミルクを注いだ。
「本当にごめんなさい。自分のこと、ばかだなって思っている。でも、あのとき、私は……」
「もういい。おれ、まだ詩織のこと、好きかもしれない。でも、今はつき合っている人がいる」
「うん、大切にしてあげて」
「毎年、夏休みと正月は帰省するんだから、そのときは詩織に声をかける」
「私、待っている」
恭二には詩織が、何を待っているといったのかがわからない。帰省を待っているのか。それとも、何かの告白を待っているのか。
(『町おこしの賦』第5部:クレオパトの鼻・おわり)
――『町おこしの賦』第5部:クレオパトラの鼻39
帰りの車では、恭二が助手席に座った。後部座席からは、幸史郎のいびきが聞こえた。恭二は詩織に語りかけた。
「おれ、大学を卒業したら、ここへ戻ってくるような予感がしている」
「どうしたの、急に?」
「コウちゃん町長を、応援するためかな」
詩織は笑った。後部座席からは、勇ましいいびきが続いている。恭二は、詩織がいるから、という言葉を飲みこんだ。
幸史郎と可穂を宮瀬家で降ろし、詩織は助手席の恭二にいった。
「ちょっと、つきあってくれない? 図書館で借りたい本があるんだ」
「いいけど。何ていう本?
「『菜根譚(さいこんたん)』。岸田書店を探したんだけど、なかったの」
「おれ、読んだことがないけど、どんなことが書いてあるの?」
「人生の困難を乗り越えるための指南書らしいわ」
「詩織は今、困難に直面しているの?」
「そんなわけじゃないけど……」
本を借りた詩織は、ちょっとちゅうちょしてからいった。
「聞いてもらいたいことがあるの。そこでお茶しない?」
「いいよ」
二人は図書館の隣りの、喫茶店に入った。コーヒーを注文してから、詩織はしっかりと恭二の目をとらえた。
「恭二にちゃんと、謝っておきたかったの。私の結婚で恭二を傷つけ、裏切ってしまった。ごめんなさい、恭二。私、病気でどうかしていたんだと思う。つらかったし、苦しかった」
コーヒーが運ばれてきた。恭二はすぐに口をつけた。詩織は砂糖を入れ、ミルクを注いだ。
「本当にごめんなさい。自分のこと、ばかだなって思っている。でも、あのとき、私は……」
「もういい。おれ、まだ詩織のこと、好きかもしれない。でも、今はつき合っている人がいる」
「うん、大切にしてあげて」
「毎年、夏休みと正月は帰省するんだから、そのときは詩織に声をかける」
「私、待っている」
恭二には詩織が、何を待っているといったのかがわからない。帰省を待っているのか。それとも、何かの告白を待っているのか。
(『町おこしの賦』第5部:クレオパトの鼻・おわり)
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