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町おこし191:新築祝い

2018-07-29 | 小説「町おこしの賦」
町おこし191:新築祝い
――『町おこしの賦』第6部:雪が26 
 瀬口恭一・彩乃夫妻の、新居が完成した。二人は女の赤ちゃんを抱いて、恭二と幸史郎を出迎えた。先客がいた。彩乃の親友の国枝美和子だった。彼女とはウォーキング・ラリーで、顔を合わせている。
 恭二は新築の匂いをかぎながら、部屋のなかを歩き回る。リビングは、南向きで広々としている。キッチンは対面式になっており、明るい陽光が差しこんでいる。ベッドルームには、小さなベビーベッドもあった。いたるところに収納があり、恭一の書斎には作りつけの書棚が、天井まで伸びていた。

「いいな。コウちゃん社長の、初仕事だよね。立派なもんだ」
 恭二がほめると、幸史郎は自慢げに胸を叩いてみせた。
「恭二、忙しくなってきたみたいだな」
 兄の恭一は、まだ視線を泳がせている弟に語りかけた。
「うん、お陰さまで。藤野温泉ホテルの隣りに、あと三軒の建設が決まった。いよいよ故郷は、一大温泉郷へと変身だよ」

 トイレに立った幸史郎を確認して、彩乃は恭二の脇に座り、小声でささやいた。
「恭二さん、美和子はね、兄貴と交際したいんだって。ウォーキング・ラリーのときに見そめて、それからは眠れない毎日なんだって。だから力になってあげてくれない?」
彩乃は美和子を見ながら、恭二の脇腹を軽く突いた。美和子は赤面して、下を向いてしまった。
「わかった。まずは席替えだな。美和子さんは、ここに座って。コウちゃんはその隣りだ」 
いいながら恭二は、席の移動をはじめる。

 帰りは幸史郎が、美和子を車で送るように仕向けた。恭二は用事があるといって、電車で帰ることにした。走り去る幸史郎の車を見送って、彩乃は「恭二さん、ありがとう」と頭を下げた。
 秋の空には、満月があった。温泉郷完成までは、あと二年。その日も満月だったらいいな、と恭二は思う。

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