山本藤光の文庫で読む500+α

著書「仕事と日常を磨く人間力マネジメント」の読書ナビ

あんばい

2018-11-10 | 知育タンスの引き出し
あんばい
「あんばいがよい」。何気なく使う単語ですが、共同通信『記者ハンドブック』を引いて、二つの漢字があることを知りました。「案配」。こちらは、ほどよく配置・処理すること。もう一つの漢字「塩梅」は、具合、料理の塩加減で用います。「いいあんばいに席が空いていた」などのときは、「具合」をいっていますので「塩梅」と書かなければなりません。
山本藤光2018.10.18

垣谷美雨『老後の資金がありません』(中公文庫)

2018-11-10 | 書評「か」の国内著者
垣谷美雨『老後の資金がありません』(中公文庫) 

「老後は安泰」のはずだったのに!後藤篤子は悩んでいた。娘の派手婚、舅の葬式、姑の生活費…しっかり蓄えた老後資金はみるみる激減し、夫婦そろって失職。家族の金難に振り回されつつ、やりくりする篤子の奮闘は報われるのか?ふりかかる金難もなんのその、生活の不安に勇気とヒントをあたえる家計応援小説。(「BOOK」データベースより)

◎テーマは社会問題

垣谷美雨は45歳のときに、『竜巻ガール』(双葉文庫、初出2005年)で小説推理新人賞を受賞してデビューしました。ただし推理小説はその1作のみで、あとはエンターテイメント路線をひた走ります。その理由を本人は「推理小説は新人賞を取りやすいから」と語っています。書きたかった小説は、当初から社会問題をテーマにした作品だったのです、インタビューに答えた、著者自身の言葉を引用させていただきます。

――小説を書くときには、社会に対する怒りみたいなものが原動力になっています。友人と話をしたり、テレビや新聞を見たりするなかで、ちょっとした一言が「これはひどい、なんとかしなきゃ」と心に突き刺さるんです。そうすると、ばーっと想像がふくらんでいく。(「すてきオン&オフ」2018年3月23日)

垣谷美雨がブレイクしたのは、『老後の資金がありません』(中公文庫)ででした。本書の初出は2015年で、初版は2000部の発行でした。それがあっという間に9刷16万部まで売上を伸ばしました(中央公論編集部)。そして2018年文庫化されると、さらに評判となり売上を伸ばしています。

『老後の資金がありません』が広く愛されるのは、章(あきら)と篤子という夫婦が一般的な家庭と等身大だからです。章は実直ですが見栄っ張りで、家庭を取り巻く諸問題を篤子に丸投げします。必然、篤子はあれこれと一人悩みまくります。金庫番でもある篤子は、お金の出し入れに神経質になります。そんな二人の対比がこの物語を面白くし、読者は我がことのように夢中になります。

◎極上のエンタメ小説

主人公の後藤篤子は53歳。夫の章は4歳年上です。篤子は夫を「章さん」と呼びます。その理由をつづったページを引用させていただきます。

(引用はじめ)
夫のことを「章さん」と呼ぶことに決めたのは二年ほど前だ。それまでは「お父さん」と呼んでいた。あれは確か、デパートの北海道物産展ではぐれてしまったときのことだ。靴ずれで痛い思いをしながら混雑する中を探し回り、やっと見つけたと思ったら、夫はジャガバターの試食をしていた。その幸せそうなマヌケ面を見た途端に頭に血がのぼり、思わず「お父さん!」と大きな声で呼んだら、何人もの中高年男性が振り返った。
(引用おわりP8)

軽妙ないい文章だと感心しました。垣谷美雨の文章は飾りがなく、非常にリズミカルです。形容詞や比喩も少なく、明解で美しい文章です。

二人にはもうすぐに嫁ぐ28歳の娘と大学生の息子がいます。息子も就職が決まり、会社の寮住まいが決まっています。
二人の子供が揃って家を出て行く日を思うと、篤子は急に自分たち夫婦の老後のことが気になりはじめます。二人には現在1200万円の貯金があります。篤子は夫の両親のために毎月9万円の仕送りをしています。義理の両親は老舗の和菓子屋を経営していました。跡継ぎのないままそこを廃業した老夫婦は、2億円の資金を持っていました。しかし豪華な老人ホームに住み、豪遊をしてほとんど手持ち資金がなくなっています。
老夫婦への仕送りは、章(篤子の夫)の妹夫婦と折半している金額です。篤子はこの仕送りを、腹立たしく思っています。

ここまでは平坦なストーリーです。しかし舅(しゅうと)が亡くなり、その費用を長男(章)が負担させられることになります。娘の挙式は先方の都合で派手なものになります。ここからがタイトルにある世界がはじまり、貯金の残高はたちまち300万円をきる状態になります。
そしてそんな状態をあざ笑うように、共稼ぎの夫婦が同時にリストラされてしまいます。

さあどうする篤子。物語はそんな篤子の揺れる気持ちを縦糸して紡ぎ出されます。横糸の方はネタバレになるので、詳述は避けます。篤子が通うフラワーアレンジメント教室の、講師とそこでの友だちとの交流。結婚した娘が離婚しそうな予感。そして一人になった姑の去就。これらのてんまつが、物語を盛り上げていきます。
姑のキャラクターは非常にとんがっていておもしろいのですが、年金詐欺の片棒を担がせるなど、後半はちょっと筆が滑っています。ただし全般をとおして、非常に楽しく読むことができました。

垣谷美雨は、大竹まこと・室井佑月のラジオ番組(ゴールデンラジオ)に出演して、本書のことを次のように語っています。「老後のために日々節約するのってどうかな?」「自分の経済に見合った生活をすればいい」 篤子の思考の根底には、これらの言葉がありました。

楽しい読み物として、推薦させていただきます。極上のエンターテイメント小説でした。
山本藤光2018.11.09

292:町おこし

2018-11-10 | 小説「町おこしの賦」
292:町おこし
――『町おこしの賦』第9部:おあしすの里19
「町長にお会いしたいとおっしゃっています」
 女性職員は恭二に、一枚の名刺を差し出した。町おこし研究・北嶋大三郎とあった。恭二は、応接室に通すように命じた。
 白髪の初老の男だった。
「突然、お忙しいところを押しかけてきて、申し訳ありません。昨日、丸一日標茶町を歩いて、どうしてもお話をおうかがいしたくなりました」
北嶋はていねいに頭を下げた。恭二は標茶町助役の名刺を渡し、座るように手で合図をする。
「昨日はどこにお泊まりになったのですか?」
「藤野温泉ホテル本館に、泊まりました。モール温泉はすばらしい湯質で、感激しました」
 恭二は、自分の妻の実家だといおうとして、その言葉を飲みこんだ。

「私は全国の、町おこしを見て歩いています。国の地域再生会議の、メンバーでもあります。ここへくる前には、帯広の屋台村を見てきました。しかしあそこは、屋台を経営しているメンバーだけしか参加しておらず、地域ぐるみの取り組みにはなっていませんでした」
 北嶋はそこでいったん、言葉を切った。そして宙を仰ぎ、続けた。

「標茶町は違いました。ホテルの支配人に、インタビューをさせてもらいました。標茶町の活性化のために、自分は、自分たちのホテルは何をすべきかを、真剣に考えていました。観光客に喜んでいただくには、それ以前に町民の幸せがある、と支配人はいっていました。この精神は、昨日見てまわった随所に、存在していました。驚きました。それで標茶町の責任者の、お話が聞きたくなったのです。すみません、突然おじゃましてしまって」
 北嶋はもう一度頭を下げ、にっこりと笑った。

 恭二は胸ポケットから、標茶町役場クレドを取り出した。
「これは役場のクレドですが、町民の誰もがこの文章を念頭においています。おもてなしの心は、人間力が豊かでなければ生まれません」
 北嶋はクレドに目を落とし、「写真に撮ってもいいですか?」と尋ねた。恭二は了承した。

033cut:パソコン機能の4つ

2018-11-10 | 完全版シナリオ「ビリーの挑戦」
033cut:パソコン機能の4つ
――05scene:4月チーム会議
影野小枝 ビデオ製作会社打ち合わせをのぞいてみます。
監督 数字の羅列の場面は、退屈過ぎるな。これじゃ、視聴者が飽きちゃうよ。中里ちゃんよ、何とかうまい料理を考えてみてよ。
助監督 要するにここでは、メンバーの数字に対する関心度が、低いことを強調したいわけです。だれか一人にフォーカスをあてて、全体も同じだと表現すればいいと思います。
監督 中里ちゃん、きみは成長したよ。それ採用ね。
製作 では太田に絞りこんで、書き直してもらいましょう。
監督 ところで、漆原はパソコンの機能のうち、4つだけに絞って指導を依頼したけど、あれってどんな意味があるの?
製作 原作者に説明してもらった。ざっとこんなぐあいになる。

◎知のステップアップ
知の創出:インターネット
知の編集:ワード
知の発信:メール
知の検証:エクセル

助監督 理にかなっていますね。
製作(コピー用紙を配りながら)これが、知のステップアップに関する具体例だ。

知の創出:顧客ニーズを探る。競合会社の戦略を知る。
知の編集:顧客攻略計画を立案する。顧客ニーズにふさわしいツールや話法を準備する。
知の発信:顧客と商談を実施する。
知の検証:顧客との商談結果を検証する。新たな情報を整理する。

助監督 これって「PDCAサイクル」のことですよね。上からAPDCとなっていますけど……・
監督 いいね、できれば「PDCAサイクル」に置き換えて説明したいね。その方が一般的だし。
製作 なにしろ原作者が頑固なんで、すんなり納得してくれるかな? でもお願いしてみる。 

039:ブックカバーを裏返す

2018-11-10 | 銀塾・知だらけの学習塾
039:ブックカバーを裏返す
丸善で文庫を購入したとき、すてきなブックカバーをつけてくれました。オードリ・ヘプパーンのイラストが入ったものです。いつもの黄色い日本地図つきカバーなら、すぐに裏返してしまいます。しかし今度だけはもったいなくて、そうすることができません。

書店へ行くと必ず「カバーおかけしますか」と問われます。書評を発信したいと思っている本や読み終えたらプレゼントしたい本は、ブックカバーをつけてもらいます。

読書をするときは、ブックカバーを裏返しにします。どんなカバーも裏地は無地です。本を読みながら、メモは裏返したブックカバーに書きこみます。電車のなかで本を読んでいるときなど、いちいちメモ帳を取り出さずにすみます。

ちなみに塾長の最多プレゼント本は、花村太郎『知的トレーニングの技術』(ちくま学芸文庫、山本藤光の文庫で読む500+α紹介作)です。単行本が絶版になっていて、推薦するたびに恐縮していました。それが文庫化されたのです。『知的トレーニングの技術』は、最も高く評価している本のなかの1冊です。そしてお会いしたことはありませんが、花村太郎は塾長の「人財資産」でもあります。

ブックカバーを裏返す。文庫化された『知的トレーニングの技術』は、そんなスタイルで再読しました。中味は無傷ですので、カバーを外した本は若い人に差し上げました。筆圧が高いので、ペンは製図用の2Bを愛用しています。これなら本にまで、力がおよぶことはありません。

桜木紫乃『霧(ウラル)』もうすぐ読むぞ

2018-11-10 | のほほんのほんの本
桜木紫乃『霧(ウラル)』もうすぐ読むぞ
桜木紫乃『霧(ウラル)』(小学館文庫)購入。同郷の作家なので肩入れもありますが、この人の作品には力があります。全作の読破は難しいので、文庫の裏カバーのガイドを読んで、もうすぐ読むぞのグループ入りを決めています。本書はそのグループ入り作品です。根室が部値の作品で、あの魚臭い古い町をどう描くのか、楽しみです。
山本藤光2018.11.10

共感力

2018-11-10 | 知育タンスの引き出し
共感力
拙著『人間力マネジメント』のなかで、「共感力」をいちばん大切な能力と何度も書いています。読書中にこんな文章と出逢いました。

――共感性とはセンスを展開したことばで、英語ではsensitivity になる。これは、かねがねvitality (やる気)、creativity(創造性)と並んで、人材の三大要素とされてきたものである。(鎌田勝『知的リーダーシップ』知的生き方文庫)

共感力、意欲、創造力。3つの単語を突き出されてみると、なるほどと思います。
山本藤光2018.11.10