はるがすみ とびわけいぬる こゑききて かりきぬなりと ほかはいふらむ
春霞 飛びわけいぬる 声聞きて 雁来ぬなりと ほかはいふらむ
春霞を分けるように飛んで行く雁の声聞いて、雁が来ているらしいと、よそでは言っていることであろう。
春霞の中の分け入るように飛んで行く雁。その声を聞いて雁の来訪を想像で語る「ほか」の人々は、霞で雁の姿が見えない場所にいるということでしょうか。
本歌は春の霞ですが、貫之には秋の霧を材料に詠んだ類歌もあります。
あきかぜに きりとびわけて くるかりの ちよにかはらぬ こゑきこゆなり
秋風に 霧飛びわけて 来る雁の 千代にかはらぬ 声聞こゆなり
(後撰和歌集 巻第七「秋下」 第357番)