【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「やわらかい手」:かえつ有明中高前バス停付近の会話

2008-01-16 | ★東16系統(東京駅~ビッグサイト)

こういう工事現場の作業員って、手も相当荒れてるんだろうな。
女性だって、毎日の家事仕事で手が荒れてたいへんだわ。
でも「やわらかい手」の主人公は、専業主婦なのに“接客業”が務まるほどのスベスベの手をしてたみたいだぜ。
“接客業”ってなに?
なんというか、そのぅ、男性に奉仕する職業だ。
ずいぶん、“婉曲”な言い方するのね。
映画の中でもそれ以上は説明してないぜ。とにかく、彼女の手が年に似合わずスベスベだったっていうのが、この映画のポイントだ。
だから、そこがおかしいのよ。何十年も家事をやってる主婦が、どうして男性を虜にするようなスベスベの手をしているの?
お前と違って、毎日手入れをかかさなかったんじゃないのか。
そんな、おしゃれに気を使うような風体してなかったわよ。
たしかに、最初は冴えないおばあさんだったもんな。でも、観ているうちに、この人、若い頃は結構ブイブイ言わせてたんじゃないの、って気がしてきた。
私生活が画面に現れるってこと?
ああ。演じてたのが、ミック・ジャガーの恋人だったマリアンヌ・フェイスフルだからな。
そう言われてもよく知らないけど、専業主婦が孫の難病のためにいかがわしいところでお金を稼いでいるうちにそれが認められ、自分の自信になってくるっていう話よね。
最初は近所の主婦に聞かれても隠してたのに、最後には堂々と自分の仕事をさらけ出す。
設定だけきくと、なんだかキワモノっぽい映画かと思うけど、そういう立場に置かれた人間を茶化すことなくまともに描写して、とてもしみじみとした映画だった。
だろ?ひとりの女性の心の軌跡を描いた、まっとうな人情劇なんだよ。
でも、どこでそんな男性を虜にするようなテクニックを覚えたの?
まあ、天賦の才能ってとこかな。
納得できないなあ。
あれ、もしかして、お前、嫉妬しているわけ?
ま、まさかあ。
じゃあ、細かいこと言うなよ。そんなこと言ったら、彼女が店の主人と心を通わすなんていうのも、現実じゃあ有り得ないような話じゃないか。
でも、それを納得させるだけの丁寧な心理描写はあったわよ。
ありゃ、そっちは納得するわけ?
店の主人が「ビジネスだ」って言うのに対して「ただのビジネスなわけ?」って返すあたりから、二人の間に微妙な空気が流れ出して、最後はちょっとハッピーな場面で終わって、なにか、気持ちがふわっと温かくなって見終わることができたわ。
ははあ、ああいう関係に憧れてるんだ。
ま、まさかあ。言っておくけど、私はマリアンヌ・フェイスフルから比べれば、まだまだヒヨッコの年齢なんだからね。
それでがトレードマークになっているのか?
年齢に関係なく、いい映画はいいのよ。
ああ、年齢に関係なく、やわらかい手はやわらかいっていうことだ。


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ふたりが乗ったのは、都バス<東16系統>
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