
ここがお岩稲荷。四谷怪談で有名なお岩さんを祀ってある神社だ。

お岩さんて、あの、顔に無残な傷跡ができちゃった女の人でしょ。

ああ、「チェイサー」の売春婦のようにな。

「チェイサー」?韓国映画の?

ああ、猟奇的な男に連れ去られた売春婦のボスが犯人を追っていくサスペンス・スリラー。

四谷怪談も怖いけど、「チェイサー」も怖かったなあ。

「オールド・ボーイ」とか「殺人の追憶」といった韓国映画独特の世界がしばらくぶりに戻ってきた感じだ。

明快にこういう映画だって言い切れない、なんとも思わせぶりな、心を宙吊りにさせられるような世界。

そもそも、“サスペンス”って、“宙吊り”っていう意味だからな。

こういう猟奇的な映画って、どういうわけ韓国映画の独壇場なのよね。

朝鮮半島の不安定な状況が、遠くこういう映画にまで影響を与えているのかな。

もちろん、そんな政治的な映画ではこれっぽちもないんだけど、なんというか、この切羽詰まった恐怖感はどこから生まれるんだろうと考えるとね。

舞台になる坂道が、へびの寝床のようにのたのたと狭く長く伸びて、またリアルなサスペンスを漂わせる。

しとしととすべてを溶かすような雨なんか降ると、いちだんとスリルが盛り上がる。

そこで起こる、理由なき猟奇殺人。

犯人がまた、ニヤニヤと人を小ばかにしたように笑うばかりの、コミュニケーション不可能な若者。最近ほんとに多いわねえ、こういう人間性のかけらもないような犯人。

ちゃんとした理由のある四谷怪談が、お行儀のいい物語に思えてくるほどだ。

売春婦のボスになる男がまた、韓国映画らしい、風采の上がらない中年男。

その中年男が、犯人を追っかけ、坂道を全速力で走るシーンが何度も出てくるんだけど、意外や、人間的な疾走感が目を奪う。

止むに止まれる思いから出た疾走だからね。

はしるー、はしるー、おれーたちー。

って、爆風スランプか!

というより、桑田佳祐にちょっと似てた。

うらぶれた桑田佳祐。

そして、孤軍奮闘の末、ボスは無事に売春婦を取り戻せたか。

ハリウッド映画ならここでハッピーエンドが待っているのかもしれないけど、韓国映画には二重の残酷さが待ち構えている。

一難去ってまた一難。その結果があれかよっていう、恐怖の極致。ハリウッド映画とは一番遠い世界だ。

そういえば、この映画、ディカプリオがリメイクするらしいわよ。

デ、ディカプリオ?

宣伝でもそう言ってる。

イーストウッドならまだしも、ディカプリオかよ。「インファナル・アフェア」の二の舞にならないことを祈るのみだな。

「
ディパーテッド」のこと?

あのリメイクは、オリジナルの「インファナル・アフェア」が持っていた深みをすべてそぎ落として、筋書きをなぞっただけのハリウッド犯罪映画になっちゃった。今回も同じ轍を踏まないとは限らない。

うん。「チェイサー」も、映画後半の冷酷無残な展開、あれが単純大好きのハリウッドに受け入れられるかどうかは、ちょっと疑わしいわね。

そもそも、見ようによってはひどく地味な映画なんだけど、そこにこそ、この映画の核心があるんだと思わないか。

たしかに、セピアっぽい映像は決して派手とはいえない。アクションシーンも暴力的な割には派手という印象とは肌触りが違う。

だからこそ、つくりごとじゃない迫真感が出て、ただのスリラーじゃなくなったのに、つくりごと大好きのハリウッドじゃあ、この迫真感は出ないだろう。

まあまあ、そう先の心配ばかりしないで、いまはこの映画の余韻を味わいましょうよ。

いいや、不安だ。

じゃあ、リメイクも傑作になりますように、ってお岩稲荷に祈ったら?

ああ、そうだな。もし傑作にならなかったら、お岩のように亡霊になって呪い殺してやる!

こわっ。

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