【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「チェンジリング」:古川橋バス停付近の会話

2009-02-25 | ★品97系統(品川駅~新宿駅)

時代屋なんて、村松友視の小説みたいな骨董屋ね。
しかし、古き良き時代を感じさせるものはいいよな。
1920年代のロサンゼルスでも?
そりゃあ、クリント・イーストウッド監督の映画「チェンジリング」みたいに息子を誘拐された母親にとっちゃあ最悪の時代だろうけど。
しかも、5ヶ月ぶりに発見された息子が、実の息子ではなかったというミステリー。
警察はその取り違えを認めようとしない。イヤな時代だ。
母親を演じるのがアンジェリーナ・ジョリー。彼女が警察と戦って本当の息子を取り戻すストーリーかと思ったら、話はどんどん意外なほうに展開していく。
クリント・イーストウッドはオスカー受賞の「ミリオンダラー・ベイビー」でも意外なほうへ話を展開させていったけれど、その語り口がうまいから観客は無理なく話に乗っていける。
警察に抗議した母親が精神病院へ隔離され、ホラー的な要素が強くなってきたところで、もうひとつの猟奇的な話が始まる。これ以上はないタイミングよね。
精神病院の中なんて、まるで「カッコーの巣の上で」だしな。
そして、犯人もわかり二つの話がひとつにつながって物語は終わったかと見せて、実はまだその先がある。
でも、それが蛇足という感じは全然しない。
そう。アンジェリーナ・ジョリーが最後に決めの一言を口にしたところで誰もが映画の本質を理解する。まったく、舌を巻くくらいうまい映画よね。
映画らしい映画を撮らせたら、もはやイーストウッドにかなう監督はアメリカにはいないんじゃないのか?
アメリカどころか世界中探してもいないんじゃない?
クリント・イーストウッドはいつの間にかそれくらい他の追随を許さない、孤高の名監督になってしまった。
その名監督に応えてまた、アンジェリーナ・ジョリーがいつにも増して熱演を見せる。
デニス・ホッパーを若くしたような犯人役も不気味でいい味出してる。
二人の対決場面なんて、手に汗握り、心臓は高鳴り、血圧は上がる、上がる、また上がる。まったく体に良くないわ。
これが実話だっていうんだから驚きだ。
ほんとにあったできごとにふさわしく、1920年代のロサンゼルスを精緻に再現している。
日本人が「ALWAYS 三丁目の夕日」の東京タワーを見て感動したように、アメリカ人はあの赤い電車を見て感動するのかな。
どうかしら。あの赤は、押さえた色調の映画の中で、アンジェリーナ・ジョリーの唇の色とともにとても印象に残る赤だけどね。
しかし、この映画には雰囲気だけのためのカットって、ひとつもない。感心するな。
どういう意味?
へたな監督の映画だと、なんかここ、雰囲気がいまひとつ出てないなあ、青い空に白い雲が浮かぶカットでも入れておくか、みたいな感じの冗漫な映像が見受けられるんだけど、この映画にはそういう無駄なカットが一切ないんだ。
そういえば、そんな気もする。無駄もなければ、無理もない。
物語を物語る。そのための必要十分条件だけを備えている。
だからこそ、何年経っても色あせない本物の映画になるのね。
ああ、あのアンジェリーナ・ジョリーの唇の色のように色あせない。
何年、何十年経っても古くならない一級品。時代屋に並べてもおかしくない。
まったくおかしくない。



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ふたりが乗ったのは、都バス<品97系統>
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