Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

バイロイト:パルジファル

2011年08月29日 | 音楽
 バイロイト1日目は「パルジファル」。前奏曲が始まって、これはもう想像どおりというか、蓋をされたピットから、モノラル・レコードのようなまろやかな音が流れだした。

 第1幕が始まると、歌手の言葉が明瞭に聞き取れることが驚異的だった。オーケストラが生の音で鳴っていたら、こうはいかない。一度ピットのなかで混ぜ合わされ、角がとれた状態で出てくるから、声とぶつからない。なるほど、ワーグナーはこういう声の聞こえ方を望んでいたのか。

 指揮はダニエレ・ガッティ。遅めのテンポでゆったりと歌わせ、けっして力まず、淡々と、しかし細心の注意を払った指揮。終始マーペースで超然としているため、第1幕はともかく、会場が人いきれで暑くなる第2幕、第3幕では、そのテンポについていくことが大変な部分もあった。

 歌手ではグルネマンツ役のクワンチュル・ユンが味わい深かった。パルジファル役のサイモン・オニールはまっすぐ客席に飛んでくる声。クンドリー役のスーザン・マクリーンは、その複雑なキャラクターを描き分けるには力及ばず。

 演出はシュテファン・ヘアハイム。前奏曲の途中で幕が開くと、そこはワーグナー邸ヴァーンフリートの広間。中央に大きなベッドがあり、一人の女性が臨終の床に就いている。息子である少年は、死を恐れている。乳母は少年をかばいながらも、母の死に立ち会うよう促す。老執事は悲しみに暮れている。

 臨終の女性はヘルツェライデ、少年はパルジファル、乳母はクンドリー、老執事はグルネマンツであることが、だんだんわかってくる。

 第1幕以降、本作のストーリーが展開すると同時に、ワーグナーの作品がたどった歴史がシンクロナイズされる。あるときはストーリーが前面に出たり、またあるときは歴史が前面に出たり、両者の移行部分もあって、常に変化し続ける。

 少年(これは黙役)は全編にわたって登場する。第2幕の幕切れ、クリングゾルがパルジファルに聖槍を投げる場面では、ハーケンクロイツの旗が垂れ下がり、ナチスの兵士が乱入する。少年はヒトラーユーゲントとなり、パルジファルに銃を向ける。

 第3幕の前半は爆撃で廃墟となったヴァーンフリート。グルネマンツとクンドリーがお互いの無事を確かめ合う。後半はナチスの戦争責任を糾弾する議会。被告席に立たされるのは、茨の冠をかぶり、脇腹から血を流すアンフォルタスだ。パルジファルが現れて救済を与え、ともに地中に沈む。

 最後はグルネマンツとクンドリーに付き添われて少年が現れる。苦悩の時代をくぐり、自らも罪を犯したが、今ここに生き残り、新たな生を得て歩み出す、ということか。
(2011.8.21.バイロイト祝祭劇場)

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