インキネンとの息が合ってきた日本フィルだが、ラザレフが振るとやっぱりラザレフの音がする。日本フィルの成長ないしは充実の証しだろうか。
1曲目はグラズノフの交響曲第6番。いったい今、グラズノフの交響曲をレパートリーにしている指揮者が何人いるだろう。数曲のバレエとヴァイオリン協奏曲を除くと、グラズノフの作品が演奏される機会は少ない。ラザレフはそんな現状を憂いて、意識的にグラズノフの作品、とくに交響曲を演奏しているのではないか。そう思わせるような使命感(あるいはモチベーションの高さ)がその演奏にはあった。
交響曲第6番といわれても、わたしにはどんな曲か、皆目見当がつかなかったので、事前にCDで予習した。だが、CDで聴いた演奏とラザレフが振った演奏とでは、まったく印象が違った。ラザレフが振ると、第1楽章はまるで嵐のような演奏だった。暴風が吹き荒れ、海は大荒れ。誰もその勢いを止めることはできない。一転して、変奏曲形式の第2楽章では、オーボエやクラリネットがしみじみとした歌を聴かせた。最終楽章(第4楽章)では、ラザレフはオーケストラを巻き込み、そして聴衆を巻き込んで高揚し、とどまるところを知らない。
インキネンが振ると、日本フィルは軽く、クリアーな音を出すが、ラザレフが振ると、分厚くて重厚な音を出す。その抽斗の多さに、日本フィルが積み重ねてきたラザレフとの長い年月と、インキネンとの長い年月との双方を想った。
もっとも、ラザレフの音は、分厚さ一辺倒ではない。その好例が昨年5月のストラヴィンスキーの「ペルセフォーヌ」だ。アンドレ・ジッドの台本をそのまま音にしたようなフランス的な香気の漂う音。柔らかく、デリケートで、産毛のような肌触りの音だった。ラザレフの大指揮者たる所以だ。
2曲目はストラヴィンスキーの「火の鳥」全曲だったが、その音はグラズノフとも「ペルセフォーヌ」とも違い、鮮やかで、針金のように鋭く、スリムな音だった。ストラヴィンスキーのこの時期(初期の習作群から脱した直後)の音は、なるほど、こういう音だったかと思った。
全曲版を聴くのは初めてではなかったが、全曲版では避けられない経過的な楽句が、これほどおもしろく聴けたことはない。たとえば頻出するホルンの楽句。日橋さんの安定感のある演奏と相俟って、どの楽句も意味のある(不思議な存在感のある)ものに聴こえた。それはラザレフが、このバレエを完全に掌握し、その隅々にまで「音楽」を感じているからに他ならないと思えた。
(2019.11.1.サントリーホール)
1曲目はグラズノフの交響曲第6番。いったい今、グラズノフの交響曲をレパートリーにしている指揮者が何人いるだろう。数曲のバレエとヴァイオリン協奏曲を除くと、グラズノフの作品が演奏される機会は少ない。ラザレフはそんな現状を憂いて、意識的にグラズノフの作品、とくに交響曲を演奏しているのではないか。そう思わせるような使命感(あるいはモチベーションの高さ)がその演奏にはあった。
交響曲第6番といわれても、わたしにはどんな曲か、皆目見当がつかなかったので、事前にCDで予習した。だが、CDで聴いた演奏とラザレフが振った演奏とでは、まったく印象が違った。ラザレフが振ると、第1楽章はまるで嵐のような演奏だった。暴風が吹き荒れ、海は大荒れ。誰もその勢いを止めることはできない。一転して、変奏曲形式の第2楽章では、オーボエやクラリネットがしみじみとした歌を聴かせた。最終楽章(第4楽章)では、ラザレフはオーケストラを巻き込み、そして聴衆を巻き込んで高揚し、とどまるところを知らない。
インキネンが振ると、日本フィルは軽く、クリアーな音を出すが、ラザレフが振ると、分厚くて重厚な音を出す。その抽斗の多さに、日本フィルが積み重ねてきたラザレフとの長い年月と、インキネンとの長い年月との双方を想った。
もっとも、ラザレフの音は、分厚さ一辺倒ではない。その好例が昨年5月のストラヴィンスキーの「ペルセフォーヌ」だ。アンドレ・ジッドの台本をそのまま音にしたようなフランス的な香気の漂う音。柔らかく、デリケートで、産毛のような肌触りの音だった。ラザレフの大指揮者たる所以だ。
2曲目はストラヴィンスキーの「火の鳥」全曲だったが、その音はグラズノフとも「ペルセフォーヌ」とも違い、鮮やかで、針金のように鋭く、スリムな音だった。ストラヴィンスキーのこの時期(初期の習作群から脱した直後)の音は、なるほど、こういう音だったかと思った。
全曲版を聴くのは初めてではなかったが、全曲版では避けられない経過的な楽句が、これほどおもしろく聴けたことはない。たとえば頻出するホルンの楽句。日橋さんの安定感のある演奏と相俟って、どの楽句も意味のある(不思議な存在感のある)ものに聴こえた。それはラザレフが、このバレエを完全に掌握し、その隅々にまで「音楽」を感じているからに他ならないと思えた。
(2019.11.1.サントリーホール)