Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

大野和士にエールを送る

2016年06月22日 | 音楽
 大野和士が新国立劇場のオペラ部門の芸術監督を引き受けるのは、もう少し先だと思っていた。なので、今回のニュースには驚いた。多くの方々が喜びの声を上げているので、今更屋上屋を重ねるまでもないのだが、大野和士にエールを送りたいので、一言だけ仲間に入れてほしい。

 わたしが一番嬉しいのは、大野和士がまさに働き盛りの時期に、日本のポストを引き受けてくれることだ。大野和士には他のオファーもあったろう。自分のキャリアのためにはヨーロッパの劇場やオーケストラのほうが有益だったかもしれない。でも、日本のポストを引き受けた。それは自分のためというよりも、自分が生まれ育ったこの国のためだろう。あえていえば、この国にいるわたしたちのためではないだろうか。

 この点が偉大なる先輩と違う点だ。その先輩は世界の頂点を極めた。才能だけではなく、努力も、人脈もあったろう。その先輩が働き盛りの時期を過ごしたのはボストンだった。ボストンの人々のために仕事に打ち込んだ。

 音楽家とはそういうものだと、その姿を見て思った。音楽家は土地に根付く。その先輩はボストンに根付いた。大野和士は東京を選んだ。これは新しい時代の到来だと思った。その先輩は常々「日本人の自分が世界でどこまで通用するか、これは実験だ」と言っていた。大野和士にはそんな気負いはない。世代が変わったのだ。

 新国立劇場のオペラ部門は(こう言ってはなんだが)2代続けて低調な時代が続いた。危険水域まで来た。その時期に大野和士が引き受けた。この劇場の低迷ぶり、そして世界的なステータスの低さを承知の上での決断だったと思う。

 もちろん、大野和士一人が頑張っても、どうなるものでもないだろう。途方もない妥協が必要なときがあるかもしれない。オペラ人口の層の薄さ、官僚の関与、芸術監督というポストが持つ権限‥。でも、そんなことはすべて承知の上だろう。

 そういう大野和士を、わたしも支えたい。大野和士を支える一人に加わりたい。みんなで支えようではないかと、柄にもなく呼びかけたいと思う。

 なお、今回の人事では、演劇部門の芸術監督に小川絵梨子が選ばれた。これにも驚いた。新国立劇場で演出した「OPUS/作品」と「星ノ数ホド」はわたしも観た(翻訳を担当した「ウィンズロウ・ボーイ」も観た)。でも、まさか芸術監督になるとは思っていなかった。どんなことをやるのか、まったく未知数。興味津々、見守りたい。

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2 コメント

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http://nekolisten.exblog.jp/ (猫なたぎなリスナー)
2016-06-25 17:49:21
私も大野氏の芸術監督就任のニュースを知って狂喜した口です。この人のオペラは2011年初めの「トリスタンとイゾルデ」しか観ておりませんが、素晴らしい舞台でした。その後(私のブログにも書いたことがありますが)ブルックナーを聴いてさえ、ああこの人はオペラの人だと思ったものです。Youtubeで彼が振ったエクサンプロヴァンスでの「真夏の世の夢」やリヨンのストラヴィンスキー(きつね、うぐいすの歌他)を観るにつけ、この人ならば近年の新国立劇場の陳腐なまでに保守的なプログラムに風穴を開けてくれるに違いないと期待してしまいます。私も大兄に倣って応援していきたいと思っています。
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Unknown (Eno)
2016-06-25 19:32:54
猫またぎなリスナー様、大兄にそう言っていただくと、本当に心強く思います。大野氏はもちろん百戦錬磨の方ですが、心の奥底にはピュアなものを秘めた方だと思いますので、是非成功させたいと思います。小生などはなんの力にもなりませんが、応援したいと思っております。
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