Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ファビオ・ルイージ/N響

2017年04月18日 | 音楽
 ファビオ・ルイージが振るN響Aプロ。1曲目はアイネム(1918‐1996)の「カプリッチョ」。弾けるように快活な曲だ。初演は(第二次世界大戦のまっただ中の)1943年にベルリンで行われた、というから驚く。あの暗い時代にこんな明るい曲が‥と思うのは、今の時代に生きる者の勝手な思い込みだろうか。

 当時ナチスが猛威をふるうベルリンで、たぶん好意的に受け入れられたのだろうと想像するが(プログラムノーツに明記はされていなかった)、さて、どうだったのか。ジャズ(というよりも、軽音楽)の要素を持つ曲だが、それは不問に付されたか。

 周知のようにアイネムは、戦後になってオペラ「ダントンの死」で大成功するが、わたしはあのオペラは、ビュヒナーの傑作戯曲にたいして、アイネムの(それこそ軽音楽の要素を取り入れた)音楽がそぐわないと感じる。それにひきかえ、この「カプリッチョ」はもっと素直に楽しめた。

 演奏は、張りのある、見事なものだった。この曲を現代に蘇らせたい(=真価を問いたい)という意気込みが感じられた。

 2曲目はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏はニコライ・ズナイダー。ガラス繊維のような細い音だが、不思議なことに、その音がオーケストラに埋もれず、どんなときでも明瞭に聴こえる。けっして抒情に流れず、インテンポで進むその演奏は、甘美なロマンティシズムとは一線を画し、むしろ意外にしっかりしたこの曲の骨格を明示するものだった。

 アンコールにバッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番」からアンダンテが演奏された。バッハらしくない、というと語弊があるが、一種即物的な演奏に聴こえた。

 3曲目はマーラーの交響曲第1番「巨人」。第1楽章冒頭の弦のフラジオレットの弱音から、第4楽章コーダの爆発的な強奏まで、N響の演奏能力がフルに発揮されるとともに、普通は埋もれがちな弦や木管の動きが浮き上がってくるという(即興的な部分もあったかもしれない‥)ライヴの興奮に満ちた演奏だった。

 マーラーがこの曲に込めた愛も憧れも焦燥も苦悩も、それらあらゆる情熱が音になり、わたしはそれを追体験するように感じた。そういう演奏でなければ、マーラーを聴いたことにはならないかもしれない。本気度満点の演奏。ファビオ・ルイージの実力とN響の好調さと、その両方を感じた。
(2017.4.16.NHKホール)

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