Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

オラモ/東響

2024年04月21日 | 音楽
 サカリ・オラモが東響に初登場した。自国フィンランドの作品3曲とドヴォルザークの交響曲第8番というプログラムを振った。

 1曲目はラウタヴァーラ(1928‐2016)の「カントゥス・アルクティクス」。鳥の鳴き声とオーケストラのための協奏曲だ。わたしは何十年も前に一度聴いたことがある。その印象は強烈だった。今回は二度目。オーケストラの細かい動きは忘れていたが、野生の鳥たちの雄大な鳴き声を聴くと、何十年も前の記憶が蘇った。

 意外にオーケストラの動きはシンプルだと思った。でも、それはそうだろう。オーケストラが複雑な動きをしたら、鳥たちの鳴き声が相殺される。オラモ指揮の東響はそのオーケストラ・パートを抑制的に、だが最後は目一杯きらびやかに演奏した。

 2曲目はサーリアホ(1952‐2023)の「サーリコスキ歌曲集」。ソプラノ独唱はアヌ・コムシ。初めて聴く曲だが、サーリアホの音楽が凝縮されたような曲だ。すっかり魅了された。コムシの澄んだ声とオーケストラの繊細な演奏ともども、当夜の白眉だった。

 全5曲からなるが、小川至氏のプログラムノーツによると、最初の3曲はピアノ伴奏の歌曲だったらしい。その後オーケストラ伴奏に書き換え、その際に残りの2曲を追加した。わたしはすでに最初の3曲の耽美的で透明な音楽に惹かれたが、残りの2曲になると、サーリアホのオペラ(たとえば「遥かな愛」)を思わせる濃密な音楽に仰天した。第4曲の地響きのするような音楽、第5曲の凍りついたような音楽、ともにオペラ的な発想で書かれている。繰り返すが、コムシの声ともどもサーリアホの世界に浸った。

 休憩をはさんで、3曲目はシベリウスの交響詩「ルオンノタル」。たぶん(サーリアホの前曲と同様に)初めて聴く曲だ。ソプラノ独唱が入る。コムシのヴィブラートを抑えた声がシベリウスにふさわしい。オーケストラの抑制された音もシベリウスそのものだ。興味深い点はティンパニが2台使われることだ。曲の最後に、静かに沈潜した音楽が続く。その間2台のティンパニが最弱音でロール打ちを続ける。それが効果的だ。

 4曲目はドヴォルザークの交響曲第8番。冒頭のチェロのテーマが始まると、北欧の厳しい冬から一気にボヘミアの春になったような暖かさを感じた。ホッとした。だが、その後の展開は前3曲とは対照的にオーケストラをバリバリ鳴らし、強弱のコントラストを際立たせた熱血漢の演奏だった。わたしは方向感を失った。オラモはどういう指揮者なのだろう。そのような一面があるにしても、それを披露するのは別の機会にして、前3曲と組み合わせる曲は他にあったろうにと思う。
(2024.4.20.サントリーホール)

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