Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

広上淳一/日本フィル

2022年03月05日 | 音楽
 今回のロシアのウクライナ侵攻では「核」がキーワードになっている。プーチンは最初から核兵器の使用を口にし、また侵攻直後にチェルノブイリ原子力発電所を占拠した。さらに昨日はウクライナ最大のザポロジエ原子力発電所を占拠した。戦争は歴史上の新たなフェーズに入ったことを感じる。

 そんな中で昨日は午後からささやかな抗議活動に参加し、夜は日本フィルの定期演奏会に行った。演奏会に行けるのも日常生活があるからだ。ウクライナのキーウ(キエフ)その他の都市でも1か月前までは日常生活があった。でも、今では破壊されている。日常生活は危うい均衡のもとに保たれているのだ。

 さて、日本フィルの定期演奏会だが、指揮は来日中止になったフアンホ・メナの代わりに広上淳一がとった。それに伴いプログラムも変更された。広上淳一は昨年9月に日本フィルの「フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)」に就任した。昨日は同ポスト就任後の初の定期演奏会になった。

 開演前に広上淳一のプレトークがあった。広上淳一と日本フィルとの関係は長いが(広上淳一が初めて日本フィルの定期演奏会を振ったのは1988年だ)、それを踏まえて「指揮者が若いころは、オーケストラが指揮者を育てる。指揮者が経験を積み、オーケストラのことがわかってくると、今度は指揮者がオーケストラに恩返しをする。そんな好循環が望ましい」という趣旨の話をした。わたしは1974年春季から日本フィルの定期会員なので、広上淳一はデビュー当時からずっと聴いている。若いころの、がむしゃらな、個性と才能にあふれた広上淳一から、今の、肩の力が抜けた、だが決めるべきところは決める名匠・広上淳一への軌跡が頭に浮かぶ。

 プログラム前半はラヴェルの作品。1曲目は「スペイン狂詩曲」、2曲目は「ラ・ヴァルス」。「スペイン狂詩曲」では、文字通り肩の力が抜けた、羽毛でそっと撫でるような音が魅力的だった。一方、「ラ・ヴァルス」ではテンポを急変させ、カリカチュア的な表現が際立った。そして両曲ともオーケストラと指揮者との強い信頼関係が感じられた。

 プログラム後半はラフマニノフの交響曲第3番。オーケストラを楽々と鳴らし、決めるべきところは見事に決める名演だった。その名演をもってしても、この曲の第3楽章は詰め込みすぎではないかと思われたが、それはまた別の話として、ともかく(前半のラヴェルと同様に)オーケストラと指揮者との一体感のある演奏が繰り広げられた。プログラム全体を通して、広上淳一と日本フィルとの結びつきが(芸術顧問就任で)一層強まったように感じられた。両者は収まるべきところに収まった。今後の実り多き活動を。
(2022.3.4.サントリーホール)

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