Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラ・ボエーム

2012年01月30日 | 音楽
 新国立劇場の「ラ・ボエーム」。2003年4月のプレミエで何度か再演されているが、わたしは初めて。なかなか美しい舞台だ。大劇場の定番の演目としては及第点だ――というとなんだか生意気だが――。

 演出は粟國淳。ひじょうにわかりやすい演出だ。なるほど、ミミ、ロドルフォ、ムゼッタの3人は明快なキャラクターを持ち、軸がぶれないが、マルチェッロだけは、ムゼッタに振り回されて、揺れるキャラクターだということがよくわかった。たとえば第3幕でムゼッタと喧嘩別れするとき、ムゼッタはサッサと立ち去るが、マルチェッロはムゼッタを追いかけようとする。このような細かい演技が効いていた。

 小技もあった。第1幕で家主ベノアが家賃を請求に来るとき、手下の男にドアをノックさせ、自分は裏口にまわって、案の定、ロドルフォたちが裏口から逃げだそうとすると、待ち伏せしていたベノアが一網打尽という具合だ。また第4幕でミミとロドルフォが二人きりで愛を語り合っているときに、外から帰ったショナールが裏口から入ってくるが、なかの様子に気がついて、そっとまた外に出るという具合。

 気に入ったのは、第4幕のコッリーネの「古い外套よ」の場面だ。よくこの場面ではコッリーネが外套をかかえて直立して歌うが、今回は腰を下ろして呆然と歌っていた。このほうが自然だ。

 以上のように演出もよかったが、舞台美術もよかった。全体的に中間色を基調とした落ち着いた色調だ。第2幕のムゼッタの衣装が目の覚めるような青だったが、これは意図的な異質性だ。よく考えられていて、野暮ったさのない舞台だった。美術はパスクアーレ・グロッシ、衣装はアレッサンドロ・チャンマルーギ、照明は笠原俊幸。

 今回のミミはヴェロニカ・カンジェミ。このクラスになるともう世界の一流だ。ミミはロールデビュー。当たり役になるかもしれない。そのロールデビューに立ち会えたことは自慢できそうだ。

 指揮はコンスタンティン・トリンクス。原発事故のために昨年10月の都響をキャンセルしたが、今回は来日した。輪郭のはっきりした、しかもしなやかさがある演奏だ。このオペラのオーケストラは結構大きいが、どんな場合でも声楽のラインが明瞭に聴こえることに感心した。これはプッチーニの職人芸でもあるが、指揮者のよさでもある。今シーズンに聴いたオーケストラのなかでは今回が一番よかった。オーケストラは東京交響楽団。
(2012.1.27.新国立劇場)

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