Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ヴァイグレ/読響

2023年07月28日 | 音楽
 ヴァイグレ指揮読響の定期演奏会。1曲目はモーツァルトの「フリーメイソンのための葬送音楽」。茫漠とした悲しみを湛えた情感豊かな演奏だ。2曲目がこの演奏会の目玉のひとつの細川俊夫の新作、ヴァイオリン協奏曲「祈る人」なのだが、その前にモーツァルトのこの曲を置いたのはだれのアイデアなのだろう。そのアイデアに脱帽だ。

 細川俊夫のヴァイオリン協奏曲「祈る人」は、ベルリン・フィル、ルツェルン響、読響の共同委嘱作品だ。すでにベルリン・フィルとルツェルン響は初演を終えている。当夜は読響の初演。ヴァイオリン独奏はいずれもベルリン・フィルのコンサートマスター、樫本大進だ。

 細川俊夫のプログラムノートによれば、独奏者はシャーマンを表すそうだ。樫本大進のヴァイオリン独奏はまさにシャーマンだった。何かに憑かれたように曲に没入し、激しく何かを訴える。狂乱と鎮静が波のように何度も繰り返される。わたしはなすすべもなくそれを見守る。そのうち、いつとはなしに浄化される。

 オーケストラもヴァイオリン独奏と拮抗して激しく動く。シャープな音の波しぶきをヴァイオリン独奏に浴びせる。それは何かの闘いかもしれないが、闘いそのものがシャーマンの祈りの行為に内包されているような感覚になる。シャーマンの祈りが異界との闘いを呼び起こすのであり、シャーマンと異界は共存関係にある。

 演奏時間約25分(プログラム表記による)、単一楽章の曲だが、体感的には約25分があっという間だ。傑作だと思う。細川俊夫はいま異常なくらいの充実期にある。作る曲、作る曲がどれも傑作だ。わたしたちは大変な音楽的現象を目撃しているのかもしれない。本作品ではオーケストラの音色が色彩的なことが印象的だ。チェレスタ、ハープ、多数の打楽器が駆使される。若いころの細川俊夫の書法がむしろモノトーンだったことを考えると、隔世の感がある。

 樫本大進のアンコールがあった。聴衆を極度の緊張から解放するかのように、リラックスした、微笑ましい曲だった。会場の掲示によると、イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番からサラバンドだった。

 3曲目はモーツァルトの交響曲第31番「パリ」。強弱のメリハリを大きくつけたダイナミックな演奏だ。第2楽章は通常の改訂版。4曲目はシュレーカーの「あるドラマへの前奏曲」。オペラ「烙印を押された人々」の音楽からなる曲だ。わたしはオペラを2005年のザルツブルク音楽祭で観た。忘れられない体験だ。当夜の演奏はサントリーホールの容量に余るほどのスケールの大きな豪快な演奏だった。
(2023.7.27.サントリーホール)

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