Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ザルツブルク:音響空間

2017年08月23日 | 音楽
 ジェラール・グリゼー(1946‐1998)の連作「音響空間」(1974‐1985)をコレギエン教会の大空間で演奏する演奏会。「音響空間」は2008年のサントリー芸術財団サマーフェスティヴァルで聴いて感銘を受けた。機会があったら、もう一度聴いてみたいと思っていた。それが教会の大空間で演奏される。いったいどんな音になるのか。今年はそれを聴きたいためにザルツブルクに行った。

 ヴィオラ・ソロによる第1曲「プロローグ」。ヴィオラ1本で大空間を揺さぶることが驚きだ。新鮮な感覚でもある。わたしは以前にもここでブーレーズの「ル・マルトー・サン・メートル」を聴いたときに同じ経験をしたので、今回は2度目だが、新鮮な驚きは変わらなかった。

 続けて7人の奏者のための第2曲「ペリオド」、18人の奏者のための第3曲「パルティエル」と進むにつれ、音の層が生まれ、それがオーロラのような帯になって流れ、コントラバスなどの低音が轟き、また細かな音の粒子が明滅する。

 「パルティエル」の最後では、奏者が各々譜面を片付け始めたり、紙をクシャクシャにして破いてみたり、また指揮者が足元のペットボトルを拾って水を飲んだりするパフォーマンスが繰り広げられる。それらの雑音もまた音楽の一部。思わず笑ってしまう。これらのユーモアも「音響空間」の大事な要素だ。

 休憩後、33人の奏者のための第4曲「モデュラシオン」、大編成のオーケストラのための第5曲「トランジトワール」と続く中では、音が飛び散り、渦を巻き、音響が膨張して、やがて爆発する。まるでビッグバンのようだ。しかもこれらの推移は、音が混濁することなく、常にクリアーな状態で進む。

 そして最後の4本のホルンと大編成のオーケストラのための第6曲「エピローグ」では、ホルンが凄まじい音で鳴った。あれは怪獣かなにかの勝利の雄叫びか、それとも断末魔の呻き声か。

 大袈裟に聞こえるかもしれないが、わたしは宇宙の神秘を聴くような想いがした。控え目にいっても、音が構成する空間(音響空間)の神秘を聴くような想い。そんな究極の音を聴いたと思った。

 演奏はオーストリア放送交響楽団(ヴィオラ独奏は同団の首席奏者)。指揮はマキシム・パスカル。年齢は30歳前後か。この曲に心酔し、自分のすべてをぶつけた指揮。わたしは目を見張った。
(2017.8.16.コレギエン教会)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ザルツブルク:ムツェンスク... | トップ | ザルツブルク:皇帝ティトの慈悲 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

音楽」カテゴリの最新記事