Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

下野竜也&読響

2011年10月24日 | 音楽
 下野竜也&読響の10月定期はHIROSHIMAがテーマ。今シーズンの在京オーケストラの演奏会のなかでは随一の期待だったが、所用のために行けなくなった。幸いなことにその前日にも同じプログラムの演奏会があったので、そちらのほうに行くことができた。

 1曲目はジョン・アダムズの「ドクター・アトミック・シンフォニー」。これはサンフランシスコ歌劇場の委嘱で2005年に作曲されたオペラによる交響曲だ。渡辺和さん(左欄のブックマークに登録している「やくぺん先生うわの空」のブログ主)が執筆したプログラム・ノートに作曲者の言葉が引用されていた。「ヒンデミットが〈画家マチス〉で行ったのと似た作業」とのこと。なるほど。

 オペラは原爆の開発を推進した物理学者オッペンハイマーを主人公にしたもの。残念ながらオペラは観たことがないが(2008年のMETライブビューイングで上演されたが、あの頃は余裕がなくて行けなかった。DVDが出ているが、観ていない。)、交響曲を聴くだけでも、開発に携わった人の戦慄、恐怖のおののき、そして苦悩が伝わってくる。

 本作は休みなく続く3部分から成っている。緊張感が高まる第1部「研究所」、狂乱の第2部「パニック」を経て、第3部「トリニティ」に入るとトランペットが切々と哀愁の旋律を吹く。なにか取り返しのつかないことが起こってしまったという感情がこみ上げ、涙が溢れた。

 2曲目は團伊玖磨の交響曲第6番〈HIROSHIMA〉。戦後40年たった1985年に作曲・初演された作品だ。原爆の悲劇を描くのではなく、広島の復興を称えた曲。昔どこかのオーケストラで聴いたときには、あまりにも楽天的なので違和感をもった記憶がある。渡辺和さん(前述)のプログラム・ノートには「戦後40年の時点で広島という都市が音楽的な看板として示し得る、際立って公的な音楽」という表現があり、わたしのモヤモヤが解消された。

 もしも2曲目が今夏CD(大友直人&東響)の出た佐村河内守(さむらごうちまもる)の交響曲第1番〈HIROSHIMA〉だったら、ジョン・アダムズの問題意識に日本側から呼応するプログラムになっただろうと想像する。

 演奏はすばらしかった。引き締まった構成と豪快さで、最後まで飽きさせなかった。能管と篠笛の一噌幸弘(いっそうゆきひろ)は激しい息づかい(「むら息」といってよいのだろうか)で圧倒した。ソプラノの天羽明恵も感情をこめた絶唱だった。
(2011.10.23.横浜みなとみらいホール)

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