Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ダレル・アン/日本フィル

2020年12月12日 | 音楽
 ダレル・アンはシンガポール生まれの指揮者。2007年の第50回ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝した。ちなみに2009年の第51回コンクールでは山田和樹が優勝している。ダレル・アンの日本フィルデビューは2019年3月の横浜定期で、そのときはラヴェルの「ダフニスとクロエ」第2組曲をメインにすえたフランス音楽プログラムだった。わたしはそれを聴いて、良い指揮者だと思った。

 今回は東京定期で、プログラムはイベールの「ディヴェルティメント」、モーツァルトのピアノ協奏曲第17番、ブラームスの交響曲第2番というもの。

 結論から先にいうようだが、イベールの「ディヴェルティメント」が一番よかった。明るい音色と歯切れのいいリズムが特徴の快演だった。この曲のユーモアやパロディの諧謔性もよく出ていた。全体に若々しさが感じられ、現在のこの指揮者のよさが表れた演奏だったと思う。

 この曲は小オーケストラのための曲だ。当初はデュティユーの「メタボール」が予定されていたが、編成が大きいので、イベールのこの曲に変更された。わたしはこれを聴くのは初めてなので、変更は歓迎だったが(コロナ禍の状況でなければ、この曲を聴く機会はなかなか訪れないと思う)、その演奏を聴いて、ダレル・アンは「メタボール」もよさそうだと思った。「メタボール」にかぎらず、デュティユーの精緻な音と運動性に適性を発揮する指揮者かもしれない。

 モーツァルトのピアノ協奏曲第17番は、当初はフランスのベテラン・ピアニストのミシェル・ダルベルトが予定されていたが、吉見友貴(よしみ・ゆき)に変更された。吉見友貴は2000年生まれ。現在、ニューイングランド音楽院に在籍中で、桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコースにも在籍中とのこと。

 クリアーな音色をもつ優秀なピアニストだ。第2楽章の短調の部分も、じっくり、しみじみと聴かせた。アンコールにシャルル・トレネ(「ラ・メール」で有名なシャンソン歌手・作詞作曲家)の「パリの四月に」(ワイセンベルク編曲)を演奏した。これも高音の美しい甘美な演奏だった。長身、ハンサムで、スター性をそなえたピアニストのようだ。

 ブラームスの交響曲第2番は、粘らないリズムで、見通しのいい音響だった。そこから清新な抒情が漂い、第4楽章をのぞく各楽章の、消えるようなコーダが、日没のような余韻を残して印象的だった。分厚い音は生まれなかったが、それが指揮者の個性なのか、12型の弦の編成のためなのかは、まだわからなかった。
(2020.12.11.サントリーホール)

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