Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

下野竜也&読売日響

2010年09月19日 | 音楽
 読売日響の9月定期は正指揮者の下野竜也さんの指揮で次のプログラムだった。
(1)ヒンデミット:歌劇「本日のニュース」序曲
(2)R.シュトラウス:メタモルフォーゼン
(3)R.シュトラウス:ホルン協奏曲第2番(ホルン:ラデク・バボラーク)
(4)ヒンデミット:ウェーバーの主題による交響的変容

 ナチスによって難しい人生を強いられたヒンデミットとシュトラウス。ヒンデミットは歌劇「本日のニュース」でナチスに嫌われ、やがて交響曲「画家マチス」をめぐるいわゆるヒンデミット事件が起きて国外に去った。シュトラウスは歌劇「無口な女」の台本作者でユダヤ系のシュテファン・ツヴァイクを擁護したために公職を追われて隠遁生活に入った。

 歌劇「本日のニュース」序曲をきくのは初めてだった。明るく乾いた音。いかにも新即物主義の音楽だ。木管と金管は2管編成(ただしホルンは1本でアルト・サックスが1本入る)。弦楽器はヴァイオリン6(4+2)、ヴィオラ4、チェロ4、コントラバス4。相対的にヴァイオリンが薄いのが特徴だ。演奏はきびきびしていて好調。

 「メタモルフォーゼン」はシュトラウスが例外的に自己の内面を表現した音楽だ。暗く憂鬱な心情が吐露される。副題は「23の独奏弦楽器のための習作」。譜面は23段に分かれているそうだ。シュトラウスのいつもの大らかな音ではなく、繊細で神経質な音がする。この曲を演奏するとき奮い立たない指揮者はいないだろう。下野さんも明らかに力が入っていた。細部まできっちり振るので、私はもう少し自由がほしくなった。演奏終了後は23人の奏者一人ひとりを立たせていた。それはこの曲に相応しかった。

 ホルン協奏曲第2番は歌劇「カプリッチョ」の直後にかかれた曲。「メタモルフォーゼン」の後にきくと、シュトラウスのいつものサービス精神に舞い戻ったように感じられる。名手バボラークの演奏は自由そのもの。第1楽章の後半からテンポを落として、そのままゆっくりとした第2楽章に入る。この部分はアルプスの残照をみる想いがした。どこからか「カプリッチョ」の幕切れの「月光の音楽」のこだまがきこえてくるようだ。満場の拍手に応えてバボラークはアンコール2曲のサービスぶり。

 「ウェーバーの主題による交響的変容」はヒンデミットがアメリカに渡った時期にかかれた曲。バルトークの「オーケストラのための協奏曲」と似たような位置を占める曲だ。演奏は張りのある鮮やかな音とスケール感、そして完璧な設計によって、ヴィルトゥオーゾ・オーケストラという言葉が思い浮かぶもの。オーケストラをドライブする下野さんも頼もしかった。
(2010.9.18.サントリーホール)

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