Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

旅行日記4:幽霊ソナタ

2014年02月16日 | 音楽
 アリベルト・ライマンの「幽霊ソナタ」。これが今回の最大の目的だった。

 原作はストリンドベリの戯曲。翻訳が出ているので事前に読んだ。ものすごく面白かった。けれども「作者はなにをいいたいか」式の設問があったら、答えに詰まる性質のものだった。なにが面白かったのか確かめる意味で、もう一度読んでみた。病的な世界、死の匂い、静かなリズム、そういったものが面白いのだと思った。

 それにしても「幽霊ソナタ」という題名はどこから来たものか。英語版のWikipediaによると、ストリンドベリはベートーヴェンが好きで、ピアノ三重奏曲「幽霊」そしてピアノ・ソナタ第17番(普通は「テンペスト」と呼ばれているが、ストリンドベリは「幽霊ソナタ」と呼んでいたそうだ)から来ているとのことだった。

 これには驚いた。わたしの読後感は「静かなリズム」というものだったが、ベートーヴェンのあのソナタは、波打つような、激動の音楽ではないか。では、わたしがまちがっていたのか。

 そんな想いを抱きながらオペラを観た。ライマンの音楽は「リア」や「メデア」と同様に、激しい不協和音をちりばめたものだが、不思議なことに、静けさを感じさせた。それはこのオペラが室内オペラだからではなく――オーケストラはわずか12人――、もっと本質的なもののように感じられた。棘のように突き刺す不協和音やピアノの激しい打鍵はあるのだが、全体としては緊密に張り巡らされた静寂感があった。

 そう感じたのは、演奏がよかったからでもある。指揮はKarsten Januschke。フランクフルト歌劇場の3人いるカペルマイスターの一人だ。よくこなれた演奏だった。

 じつはこれは、わたしには啓示だった。振り返ると、日本で観た「リア」と「メデア」は肩に力が入っていたのではないか。いや、その前にハンブルクで観た「リア」はもっと肩に力が入っていた。でも、ほんとうは、この公演のように、もっと聴きやすい音楽かもしれない。今後、ライマンの演奏はもっと進化するのではないか――。

 歌手ではミイラ役に伝説的な存在のアニア・シリアが出ていた。

 演出のウォルター・サットクリフと装置・衣装のカスパー・グラナーは2010年のブリテンの「オーウェン・ウィングレイヴ」と同じだ。あのときは具象的な装置だったが、今回は抽象的な装置で、凝縮したドラマを展開していた。
(2014.2.8.ボッケンハイマー・デポ)

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