Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

アンドレア・シェニエ

2016年04月21日 | 音楽
 新国立劇場の「アンドレア・シェニエ」を観るのは3度目だが、意外に新鮮に観ることができた。フィリップ・アルローが演出・美術・照明を担当したこのプロダクションがいかに優れているかが、よく分かった。

 美術と照明の美しさは、アルローは定評のあるところだが、演出もひじょうに細かい。その例は枚挙にいとまがないが、一例を挙げると、第1幕の最後で貴族の館に押しかけた民衆が追い払われ、貴族たちが踊りを再開する場面で、音楽はのん気なガヴォットに戻るが、舞台では貴族たちに襲い掛かる民衆がスローモーションで描かれる。1789年に設定されたこの場面に相応しい演出だ。

 もう一つの例を挙げると、第3幕で密偵がジェラールにアンドレア・シェニエの逮捕を告げるとき、密偵は娼婦を連れて、いちゃいちゃしている。もちろん台本にはないし、娼婦がいる必要性もないのだが、娼婦が溢れかえる革命下のパリの混乱を象徴して説得力があった。

 こういったディテールを随所に盛り込んで、緊密なドラマを構成した演出。わたしは先日(ちょうど一週間前だ)この劇場で観た新演出の「ウェルテル」を思い出した。台本に書いてあるト書きをそのままやっている演出。ト書きしかやっていない演出。演出家の視点がまったく感じられない演出だった。

 演出家の資質の違いというよりも、やる気の違いを感じた。アルローのこの演出が出た頃は、この演出に限らず、やる気のある演出が相次いだ。それに引き換え最近のこの劇場は、演出面では冬の季節に入ってしまったのではないだろうか。

 今回の公演では、演出は(3度目のお努めにもかかわらず)意外に崩れていなかった。ほっと安堵した。歌手は主要3歌手のレベルが高く、各々の聴かせどころはもちろん、お互いの絡み合いも濃密だった。指揮者は未知の人だったが、緊密な音楽の運びだった。結果的に今シーズンでは一番満足度の高い公演になった。

 余談だが、このオペラでジェラールがアンドレア・シェニエの助命の見返りにマッダレーナの体を求める場面は、「トスカ」でスカルピアがカヴァラドッシの助命の見返りにトスカの体を求める場面とそっくりだ(台本作者は同じ人)。

 直後にスカルピアはトスカに殺されるが、ジェラールは反省してアンドレア・シェニエを助けようとする。ドラマとしては「トスカ」の方が面白いが、人間的にはジェラールの方が興味深い。
(2016.4.20.新国立劇場)

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