Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

イザベル・ムンドリー「オーケストラ・ポートレート」

2022年08月29日 | 音楽
 サントリーホール サマーフェスティバル2022の最終日。今年のテーマ作曲家のイザベル・ムンドリー(1963‐)の委嘱新作その他の演奏会。オーケストラは東京交響楽団。指揮はミヒャエル・ヴェンデベルク。ヴェンデベルクは現在ドイツのハレ歌劇場の第一カペルマイスターを務めている。2000~05年にはパリのアンサンブル・アンテルコンタンポランのピアニストでもあった。ピアノの腕前も相当なものだろう。

 1曲目はムンドリーの「終わりなき堆積」(2018/19)。静―静―動の3部分からなる。とくに前半の2つの静の部分は、夜の音楽のように聴こえる。全体的に音色への傾斜が感じられる。8月24日の室内楽・独奏曲のときとは趣が異なる。

 2曲目はムンドリーが「影響を受けた曲」として選んだドビュッシーの「遊戯」。8月24日の印象からは、ムンドリーがドビュッシーを選ぶのは意外な感じがしたが、1曲目と(後述する)4曲目の委嘱新作とを聴いて、ドビュッシーの、とくに「遊戯」を選んだことが得心された。それはともかく、演奏はこの曲のドラマとしてのメリハリがあり、おもしろく聴けた。ヴェンデベルクは暗譜で振っていた。

 3曲目はムンドリーが「今後を嘱望する若手作曲家」として選んだフィリップ・クリストフ・マイヤー(1995‐)の「Dear Haunting」(2020)。何度かの中断をはさみながら音楽が進む。沈思するような瞬間もあるが、一方、中間部にはノスタルジックに聴こえる音の動きもある。そのへんが現代の若者か。

 4曲目はムンドリーの委嘱新作「身ぶり」(2022)。ヴィオラの独奏を伴う曲だ。ヴィオラ独奏はニルス・メンケマイヤー。優秀な若者のようだ。演奏の前にムンドリーのプレトークがあった。実際に音を出しながら、曲の解説をした。それがひじょうに効果的だった。いつも感じるのだが、初めて聴く曲のときは、どんな音が出るのだろうと緊張する。事前にさわりだけでも音出しをしてくれると、その緊張が解ける。

 曲は音色が美しかった。威圧的な音は避けられている。比喩的な表現で申し訳ないが、森の中の忘れられた池のような(そういいたくなるような)、ひっそりとしたたたずまいがある。だれの音楽に近いだろう。武満徹かとも思ったが、武満徹とは異なり、ムンドリーの場合は音の輪郭が鮮明だ。

 わたしは8月24日の室内楽・独奏曲との印象のちがいに戸惑った。あのときは感覚的に聴くことを拒むような厳しさがあった。一方、「身ぶり」にはそれを許すような柔らかさがある。わたしはやっとムンドリーの入り口に立ったようだ。
(2022.8.28.サントリーホール)
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