Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

エサ=ペッカ・サロネンの音楽

2020年05月14日 | 音楽
 中止になったN響のMusic Tomorrow 2020。尾高賞受賞作品の細川俊夫(1955‐)の「渦」(2019年)はその初演を聴いたが(杉山洋一指揮の都響)、エサ=ペッカ・サロネン(1958‐)の「ニュクス」(2010年)は聴いたことがないので、楽しみにしていた。どんな曲か気になるので、ナクソス・ミュージックライブラリーで聴いてみた。

 サロネンは作曲家としてよりも指揮者としての方が高名だが、そのサロネン指揮フィンランド放送交響楽団による「ニュクス」は、陰影が濃く、パワーが炸裂する曲だ。サロネンの旧作「インソムニア(眠れぬ夜)」(2002年)の路線にある。

 「インソムニア」はN響が世界初演した曲だ。2002年12月にサントリー国際作曲委嘱シリーズで初演された。指揮はサロネン自身。疾走感、狂おしいまでの切迫感、爆発的なエネルギーなどが印象的で、わたしはサロネン版の「はげ山の一夜」かと思った。ただし、ムソルグスキーのその曲とは違って、夜明けは訪れない。悪夢のうちに曲を終える。

 「インソムニア」は2001年9月11日の同時多発テロの影響下で書かれた。同じくその影響下で書かれた曲には、犠牲者の名前を静かに読み上げるジョン・アダムズ(1947‐)の「魂の転生について」(2002年)や、優しく慰撫するコラールが登場するペンデレツキ(1933‐2020)のピアノ協奏曲「復活」(2002年)などがある。それらの曲とこのサロネンの曲と、手法は三者三様だ。

 サロネンは「インソムニア」を世界初演した2002年12月の演奏会で、自身の作品をもう1曲振った(ちなみに他にはルトスワフスキと田中カレンの作品を振った)。それは「フォーリン・ボディーズ」(2001年)で、それも今回聴いてみた。3部からなる曲で、サロネンの特徴をよく表している。第1部Body Languageは音楽のダイナミズム、第2部Languageは音の透明感、第3部Danceは無数の音の微細な動き。

 それらの特徴は、2019年6月に諏訪内晶子のヴァイオリン独奏、インキネン指揮日本フィルが演奏した「ヴァイオリン協奏曲」(2009年)に凝縮されている。第1部Mirage(蜃気楼)、第2部PulseⅠ、第3部PulseⅡ、第4部Adieu(告別)の4部からなるが、その第1部と第2部は嵐の前の静けさを、第3部は闘争あるいは破壊を、第4部は廃墟を思わせる。意味深い傑作だと思う。

 そのときの諏訪内晶子のヴァイオリン独奏も見事だったが、インキネン指揮日本フィルの演奏もスリリングな名演だった。インキネンが現代曲を振るとき、その指揮はサロネンに似て、クールでシャープだ。
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