Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

パリ日記2:セヴィリアの理髪師

2014年11月06日 | 音楽
 翌日は「セヴィリアの理髪師」。ダミアーノ・ミキエレットの演出が注目だ。この演出はまったくの新演出というわけではなく、2010年9月のジュネーヴ大劇場のための演出の改訂版だそうだ。

 今回どの程度手が入っているかは分からないが、ともかくこれは徹底した、一種突き抜けたところのある演出だ。いかにもミキエレットらしい演出。今が旬の演出家の仕事という感じがする。

 場所はどこかの下町の(‘場末の‘といったほうがいいかもしれない)4階建ての団地のような建物。そこにドン・バルトロやロジーナそして家政婦のベルタの部屋がある。それだけではなく、他の住人もいる。そこには皆それぞれの生活がある。さらにまた外のベンチで日がな一日新聞を読んでいる老人もいる。アイスクリーム屋もいる。どこにでもありそうな日常風景だ。

 アルマヴィーヴァ伯爵は高級車を乗り回すお金持ちの若者。ロジーナと相思相愛だ。ドン・バルトロが邪魔をする。その騒動に他の住人も加わったり、無関心でいたり――。

 舞台のどこかで絶えずなにかが起こっている。そのディテールを追おうとすると、本筋がそっちのけになる。これは口をあんぐり開けて、‘おもちゃ箱をひっくり返したような’その舞台を眺めていればいい。そういう底抜けな舞台だ。

 正直にいえば、このような舞台も、今の新国立劇場なら、そろそろ射程距離に入ってきた気がする。ディテールが多いので、作り込みは大変だろうが、でも、できないことはないと思う。日本にいてもこういう舞台を観ることができる日は、もう遠くないのではないか。

 歌手はA組、B組のダブルキャストだ(前日の「トスカ」はA組、B組、C組のトリプルキャスト)。この日はB組(「トスカ」はC組)。

 結果的には若手中心のB組でよかった。フィガロ役のFlorian Sempeyは張りのある声で元気いっぱい。ロジーナ役のMarina Comparatoは滑らかなベルカントに聴きほれた。アルマヴィーヴァ伯爵役のEdgardo Rochaは、やや線が細いながらも、軽い胸声の高音を持っていた。なお、最後のアルマヴィーヴァ伯爵の大アリアはカットされていた。今後何度も使う演出なので、リスクは取れなかったのだろう。

 指揮はカルロ・モンタナーロ。序曲では縦の線が合わない感じがしたが、声楽が入ってからは気にならなくなった。
(2014.10.30.パリ国立歌劇場バスティーユ)
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