Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

宮古島の神歌と古謡

2009年07月21日 | 音楽
 〈東京の夏〉音楽祭の今年のテーマは「日本の声・日本の音」。その趣旨は、次のように説明されている。

 「東洋の島国、日本。ここでは古来、中国大陸や朝鮮半島と、あるいは南洋の島々と、また時にははるかアメリカ大陸やヨーロッパと、さまざまな音楽文化の交流が行われてきました。外から入ってきたものが厚く層をなし、ひしめき合う「吹きだまりの重層文化」。そこから生まれたものは、移民やメディアによってふたたび日本の外へと持ち出され、異国の地で「新しい」伝統となって根付いていきます。(以下略)」

 日本の音楽文化を、純粋培養的なものとは捉えずに、「吹きだまりの重層文化」と捉える感性に、私は共感した。

 多くの公演が組まれているが、私が行ったのは「宮古島の神歌と古謡」。
 出演者は5組。それぞれを寸描すると――
 最初は、87歳、91歳、93歳の女性3人による「宮古島西原地区の神歌」。93歳の人は今でも毎日畑に出ているとのこと。宮古島の土の香りのする歌声で、私はブルガリア民謡を思い出した。
 次は10歳の少年による「伊良部の民謡」。お父さんの太鼓とお母さんの囃しに支えられて、三線を弾きながら元気いっぱいに歌う。途中で歌詞を忘れてしまい、涙ぐむ場面も。
 3番目は中年の女性、浜川春子さんによる「多良間島の古謡」。五線譜では表現しきれない節回しと、喉の奥に飲み込むような独特の発音。しみじみとした味があり、私はこの日でいちばんの感銘をうけた。
 次は50代の女性5人による「伊良部佐良浜地区の神歌」。パワー全開。
 最後は82歳の盛島宏さんによる「宮古島西原地区の古謡」。地元では有名な人なのだろうか、この人が出てきて三線を弾きながら歌い始めると、会場に詰めかけた宮古島出身の人たちが沸きに沸いた。客席のあちこちから囃しが飛び交い、みんな踊りだして、通路や舞台は人で埋まった。ちょっと感動的なフィナーレ。

 公演が終わって外に出たら、もう夕方だった。暮れなずむ空は透明で、目の前の赤坂御所の豊かな木立はシルエットになり、吹いてくる風は涼しかった。気持ちのよい夏の夕暮れ。

 〈東京の夏〉音楽祭は、今年で終了する。25年前に作曲家の石井眞木、音楽学者の船山隆、ピアニストの江戸京子の3人によって始められ、その後、紆余曲折をへながら、西洋クラシック音楽の枠にとどまらない、ワールド・ミュージック的な視野をもつユニークな音楽祭として、今日まで続いてきた。その歴史はいつまでも語り継がれるにちがいない。関係者の皆さん、おつかれさまでした。
(2009.07.19.草月ホール)
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