後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔32〕追悼・高瀬久男さん。刺激的で、難解なワークショップでした。

2015年06月24日 | 講座・ワークショップ
 演出家の高瀬久男さんが57歳の若さで亡くなられました。癌で闘病中という話はどこからか漏れてきていましたが、新聞の訃報欄を見たとき、人の世の無常を感じないではいられませんでした。
■毎日新聞(2015年6月2日)
訃報:高瀬久男さん57歳=演出家
 大胆で緻密な舞台を生みだした演出家で、毎日芸術賞・千田是也賞受賞者の高瀬久男(たかせ・ひさお)さんが1日、亡くなった。57歳。
 1980年に玉川大文学部芸術学科演劇専攻を卒業後、文学座演劇研究所に入所。85年に座員に昇格し、91年から1年間、ロンドンのナショナルシアターなどで研修を受けた。帰国後気鋭の演出家としての地位を確立し、2002年には文学座公演「モンテ・クリスト伯」で芸術選奨文部科学大臣新人賞を獲得し、翌03年には「スカイライト」「アラビアン ナイト」の演出で、千田是也賞を受賞した。12年の「NASZA KLASA」で読売演劇大賞最優秀作品賞を射止めた。子供向けの芝居も数多く手掛けた。
 近年はがんで闘病中だった。11日から始まる文学座公演「明治の柩(ひつぎ)」を演出中。5月26日に稽古(けいこ)場に来たのが最後となったという。

 私が所属する日本演劇教育連盟でも早くから注目していた演出家でした。冨田博之さんや副島功さんから、素晴らしく有能な演出家がいる、という話を聞いていました。訃報に「子供向けの芝居も数多く手掛けた。」とありますが、このあたりを劇団サイトは次のように書いています。
■文学座サイト 
 また子供向けの芝居も数々手掛けてきており、94年『あした天気になあれ!』(劇団うりんこ、脚本・演出)で第31回斎田喬戯曲賞受賞、96年『この空があるかぎり』(作・演出) では児童福祉文化賞(厚生大臣賞)を受賞するなど、この方面でも実力を如何なく発揮。

 『この空があるかぎり』はとりわけ記憶に残る子ども向けの芝居でした。いじめ問題を扱っているのですが、安易な解決は求めず、観客に課題を突きつける芝居になっていました。教育現場にいた私は、いじめの解決は簡単にはいかないよなあと、妙に得心が行ったのを覚えています。
 この劇を見てから数年後に願ってもないチャンスがやってきました。全国演劇教育研究集会で彼を講師に招いたのです。2007年、神奈川県青少年センターでのことでした。「演出」という講座の世話人に私は名乗り出ました。(詳細は、『日本の演劇教育2007』参照、同じ世話人の加藤弘一さんがこの講座の様子をうまく報告してくれました。)
 この講座は今まで私が体験したことがないような、ある意味難解で刺激的なものだったのです。
 20数名の参加者に対して、まずは、演出とは何かというところから語り始めました。
 次に、石原吉郎の「花であること」のプリントを配布したのです。

 花であること
  石原吉郎
花であることでしか               
拮抗できない外部というものが
なければならぬ
花へおしかぶさる重みを
花のかたちのまま
おしかえす
そのとき花であることは
もはや ひとつの宣言である
ひとつの花でしか
ありえぬ日々をこえて
花でしかついにありえぬために
花の周辺は的確にめざめ
花の輪廓は
鋼鉄のようでなければならぬ
     詩集「いちまいの上衣のうた」          

 この詩を数人で読み合い、ことばを使わずに身体だけで3つの静止像で表現させました。グループごとの発表を見ての意見交換と講師のコメントと続きました。詩も難解だし、講師の指示もけしてたやすくはありませんでした。
 次の課題は宮沢賢治の「ざしきぼっこの話」の中の4つの話から1つを選び表現するというものでした。
「グループで活発な意見交換が行われた後、それぞれのグループで考えた表現の練習が始まった。全てのグループが表現づくりに夢中になり、予定の60分はあっという間に過ぎてしまった。」と加藤さんは書いています。
 最後に参加者の質問に答えての講師の話で締めくくったのでした。
 ワークショップに世話人として立ち合った講座でしたが、からだ全体を駆使し、全神経を集中しないと参加できないような緊張感あふれるものでした。
 研ぎ澄まされた感性を持った、たぐいまれな演出家を失いました。合掌。

〔参考〕
*劇評「人民とは 国家とは 問う」〔文学座「明治の柩」宮本研作、高瀬久男演出〕増田愛子(朝日新聞、2015,6,8)
*劇評「公害か戦争かの二者択一の時期」〔文学座「明治の柩」宮本研作、高瀬久男演出〕井上理恵(週刊新社会、2015,6,30)





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