後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔689〕今だからこそ、辻野弥生著『福田村事件』(五月書房新社)を勧めます。

2024年05月12日 | 図書案内

 映画「福田村事件」のことは以前のブログで書きましたので、今回はその映画の基になった辻野弥生著『福田村事件』に触れたいと思います。
 結論から書くと、これは素晴らしい本です。「歴史好きの平凡な主婦」が歴史的価値のある本を残されました。1941年生まれ、80を超えた方ですが、一歩一歩自分の足で歩いて丁寧に福田村事件に向き合いました。福田村事件についてまとまった書籍としては唯一と言っていいようです。増補改訂版として内容も充実したものになっています。

  まずは本の概要を知ってもらうため、表裏表紙と紹介のコピーを読んでいただきましょう。

■辻野弥生『福田村事件』(アマゾンのサイトより)

四国から千葉へやってきた行商人達が朝鮮人と疑いをかけられ、正義を掲げる自警団によって幼児、妊婦を含む9名が殺害された。
映画『福田村事件』(森達也監修)が依拠した史科書籍。長きに渡るタブー事件を掘り起こした名著。【森達也監督の特別寄稿付き】

「辻野さん、ぜひ調べてください。......地元の人間には書けないから」
その時から、歴史好きの平凡な主婦の挑戦が始まった。
「アンタ、何を言い出すんだ!」と怒鳴られつつ取材と調査を進め、2013年に旧著『福田村事件』を地方出版社から上梓したものの、版元の廃業で本は絶版に。
しかし数年後、ひとりの編集者が「復刊しませんか?」と声をかけてきた。
さらに数年後、とある監督が「映画にしたいのです」と申し入れてきた──。
福田村・田中村事件についてのまとまった唯一の書籍が関東大震災100年の今年2023年、増補改訂版として満を持して刊行!

【福田村・田中村事件】
関東大震災が発生した1923年( 大正12年)9月1日以後、各地で「 不逞鮮人」 狩りが横行するなか、 9月6日、 四国の香川県からやって来て千葉県の福田村に投宿していた15名の売薬行商人の一行が朝鮮人との疑いをかけられ、地元の福田村・田中村の自警団によって、ある者は鳶口で頭を割られ、ある者は手を縛られたまま利根川に放り投げられた。虐殺された者9 名のうちには、 6歳 ・ 4歳 ・ 2 歳の幼児と妊婦も含まれていた。犯行に及んだ者たちは法廷で自分たちの正義を滔々と語り、なかには出所後に自治体の長になった者まで出て、事件は地元のタブーと化した。そしてさらに、行商人一行が香川の被差別部落出身者たちだったことが、事件の真相解明をさらに難しくした。


  福田村事件は朝鮮人差別・被差別部落差別・行商人差別などの重層的で複合的差別であると結論づけられそうですが、その根深さの一端は、本書において被害者や加害者が実名が知れることを避けて、仮名になっていることです。そのことは、100年前の差別事件が、現在まで温存されていることを示しています。
 2017年から、朝鮮人犠牲者追悼式典への追悼文の送付をやめた小池都知事を思い起こすだけで胸が苦しくなります。「美しい日本」などと暢気に言っていられなくなるのではないでしょうか。
 小学校や大学で教師をしてきた私自身にもその責任の一端があることを自覚しなくてはなりません。
 関東大地震で犠牲になった朝鮮人は6000人とも言われています。その他に社会主義者、労働者、中国人、アナキストなど多くの人びとが虐殺されています。
  こうした差別事件を今も熱心に掘り起こしている人びとが存在しています。「福田村事件を語る会」の資料を読むことができました。

◆国に責任はないと断じた裁判官が東電代理人の事務所の顧問に
  最高裁の暗黒(上)沈思実行(190)
                        鎌田 慧

 「まだ最高裁があるんだ」と、格子の向こうから叫ぶ。今井正監督の
「真昼の暗黒」(1956年)のラストシーンは強烈だった。1951年、山口県
麻郷村八海(現田布施町)で、夫婦ニ人を殺害して、金を奪った強盗
殺人事件、「八海事件」の映画化だった。主犯とされた阿藤周平が高裁
の死刑判決を受けて叫んだ。
 4人の「共犯者」は広島高裁で無期懲役にされた。が、映画の主人公・
阿藤周平だけが死刑判決だった。それでも、阿藤は「最高裁がある!」
と絶望しない。最高裁が希望だった。実際、17年かかったが、共犯者を
でっち上げた真犯人を除いた、阿藤ほか3人は最高裁で無罪判決、冤罪
が晴れた。

 袴田事件の袴田巌さんは、1966年に逮捕され、57年が経ってようやく
再審がはじまった。今年の秋には無罪判決がだされる見通しだ。

 狭山事件の石川一雄さんは61年が経っても、いまだ再審開始になって
いない。
 これは不正義というしかない。冤罪がなかなか最高裁で認められな
いのは「疑わしきは罰せず」の原則が徹底されていないことが大きい。

 しかし、原発訴訟の場合は「国策民営」と言われる国の原発政策と東京
電力など巨大な電力会社と政府の関係、さらには、最高裁判事と巨大法律
事務所の癒着という関係があって、国の責任追及、「法の支配」が困難だ。
 福島原発大事故に対する国の責任を追及する賠償訴訟で、2023年6月
17日、最高裁は、全面的に否定した。これまで地裁や高裁で認められて
きた国の賠償を認めなかった。(三浦守裁判官だけが反対意見で、3対1)。

 最高裁には2つの顔がある。国民の権利(人権)は擁護する立場から、
被害者救済において比較的柔軟な姿勢を示し、しかし、他方で、憲法9条
や安全保障など、国の政策にかかわる事件では、統治機構の一員として
それらを擁護する。(吉村良一「六・一七最高裁判決の問題点」
『ノーモア原発公害』所収)。

 そればかりではない。「国に責任はない」と断じた裁判官が、判決後、
東京電力の代理人が所属する、巨大事務所の顧問になったのだ。
                    (週刊新社会4月17日第1351号より)


◆毒を食らわば皿までも
  原発推進も核ごみ受け入れ先探しも、カネ、カネ、カネ。

                   鎌田 慧(ルポライター)

 裏金が長期政権自民党の腐敗を促進し、選挙結果に表れた。
 しかし原発推進の「原発マネー」の方がはるかに巨額だ。
 関西電力幹部と福井県高浜町元助役との間を行ったり来たり、2019年
に露見した裏金は3億5千万円と言われた。

 私は1970年代から「金権力発電所」「金子(きんす)力発電所」と批判
してきたが、後始末としての核ごみ(高レベル放射性廃棄物)の受け入
れ先探しも、やはりカネ、カネ、カネ。
 処分場の調査費はもらうが、設置は認めない、との意見もある。本命
は誰にも分からない。秘密に動いているようだ。

 福島第一原発事故のあおりを受けて隣町の第二原発の4基も廃炉にな
るのだが、建設計画は全くの秘密だった。富岡町毛萱(けがや)地区の地
区長だったAさん宅へ助役や総務課長がやってきて、「大工場ができる」
ど予定地を案内させた。その時、5万分の1の地図の赤線で囲まれた枠
が余りにも広大なのに驚嘆、何の工場か聞いても「町長しか知らない」
と答えた。

 その後も開発としか言われなかった。秘密と交付金で原発が地域に滑
り込んだ。
 原発の隣接自治体は「立地交付金」を欲しがるようになる。
 北側の浪江町では反対同盟が強かったが、双葉町は増設計画を認めて
いた。
 東電は柏崎刈羽原発を再稼働させ、福島大事故のツケを支払う計画だ。
 毒を食らわば皿までの虚無思想。
         (4月30日「東京新聞」朝刊19面「本音のコラム」)


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