後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔729〕お待たせしました。塚越敏雄さんからの新しい腰越九条ニュースです。

2024年10月10日 | メール・便り・ミニコミ

 神奈川県腰越で地道に反権力、護憲の闘いを続ける塚越敏雄さんから腰越九条ニュースが届きました。鎌田慧さん、前川喜平さんのコラムと共にお読みください。

■鎌倉の塚越です。
9条ニュースができましたのでお送りします。
今回は総選挙が迫っているので、それに関連して書いてみました。

                    塚越敏雄

 ◆原発は災難つづき まるで転落の始まり  沈思実行(209)

                                      鎌田 慧(ルポライター)

 原発は災難つづき。まるで転落の始まりの様相である。福島(第一)
原発のメルトダウン事故から13年たっても、溶けだした核燃料棒はいま
だ圧力容器を破って、格納容器の底で凝固したまま。猛毒デブリと
なって高濃度の放射線を放っている。
 8月下旬、2号炉のデブリを採取する作業に入った。といってもた
かだか3mg度を試験的に回収するだけだった。
 ところが、伸縮式のパイプをつなぐ順番をまちがっていた、というこ
とでご破算、延期となった。
 そばにいるだけでも致命的というほどのデブリの量は、880トン以上と
推定されている。廃炉作業の入口で、あえなくダウン。さらにデブリ量
の多い3号機、それに1号機も順番待ちの状態だ。
 廃炉作業は30年から40年がかかる、といわれている。それさえうま
くいくかどうか、わからない。たとえ、それがうまく行ったにしても、
取り出したデブリをどうするか、それも未定だ。
 岸田文雄首相の無知、無謀な「原発回帰」政策にもかかわらず、各
地の原発の再稼働はなかなか進まない。
 東海第二原発は、防波堤工事がいかにいい加減だったか、工事関係者
からの内部告発があってから1年。今のところ再稼働の見通しはない。
 それに追い討ちをかけたのが、8月上旬の福井県敦賀2号炉の「再
稼働不許可」。
 原子力規制委は原子炉直下に活断層があるとして、再稼働を認めな
かった。
 これで日本原電の敦賀原発は全滅。残るは東海第二だけだが、先行き
の経営は困難になろう。
 いまのところ、全国の原発27基が再稼働を申請している。かつて建
設された約半分になったが、このうち、再稼働したのが12基だけだ。
 ところが、その使用済み燃料の処分施設としての六カ所村(青森県)
の再処理工場は、27回目の延期宣言がされた。
 建設開始から31年。こんどは本当だ、こんどは本当だ、との狼少年。
 その完成を誰も信じていない。
 それぞれの原発が、自分の構内に「乾式貯蔵」となりそうだ。
 危険物を他所にやる、という自分勝手が、ブーメランのように返って
くる。           (9月11日「週刊新社会」第1370号より)

 ◆  証拠捏造(ねつぞう)の袴田事件
  証拠は「捜査機関(注)による偽造の疑い」(判決文)
               沈思実行(210)
                                 鎌田 慧(ルポライター)

 今月26日、静岡地裁は、死刑囚・袴田巖さんの再審判決で、無罪判決
を出す。それにはまちがいはない。
 しかし、問題なのは、検察側が抗告しないかどうかだ。
 10年前の2014年3月、静岡地裁は再審開始決定を出した。
 が、検察側が抗告して、東京高裁が再審決定を取り消した。そのため、
10年間も無罪判決が引き延ばされてきた。
 それでも、袴田さんは「これ以上、拘置を続けるのは耐え難いほど正義
に反する」との村山浩昭裁判長の英断によって、即時釈放となった。

 47年ぶりに姉ひで子さんと暮らせるようになった。判決文に、証拠は
「捜査機関による捏造の疑い」があると断じている。袴田さんは無実の
「死刑囚」として、巷(ちまた)の人たちに見守られながら街を闊歩
している。不思議だ。
 事件発生は1969年6月。清水市(現静岡市)で発生した「味噌工場」
専務一家4人の殺人と放火事件だった。その容疑者として従業員の袴田
さんが逮捕されて、すでに58年2ヶ月がたった。

 最高裁で死刑が確定してから袴田さんは、まるで死刑執行の恐怖
から逃れるように、意識が世間から乖離して夢の中にいるようだ。
 村山裁判長によって、「偽造」と判断された証拠とは。味噌タンクの
中に隠されていた、5点の衣類である。
 最初の「証拠」は袴田さんのパジャマだった。
 ところが、それには4人を刺殺したにしては、血痕の付着がなかった。
 それで後から「証拠」とされたのが下着など5点の衣類だった。

 しかし、それらは1年以上も味噌に漬けられていたというにしては、
血液の赤みが残っている、というものだった。本来なら、酸化して黒ず
むはずである。
 そればかりか、袴田真犯人を証明するために出してきたのが、味噌漬
けになっていた半ズボンの「とも布」である。袴田さんの実家から押収
した生地と同一のものだ、と鑑定された。
 しかし、その「とも布」も家宅捜査の時に警察官がもちこんだ
ものだった。
             (9月18日「週刊新社会」第1371号より)
   (注):「捜査機関」とは、警察と検察を指す。

◆客観報道の罪
  捏造による死刑判決は殺人罪にも匹敵する

                                鎌田 慧(ルポライター)

 再審無罪判決のあと「東京新聞は」との主語で、毎日新聞は編集局長
名で、袴田巌さんへ「おわびします」と文章を発表した。筆者が知る限
り再審報道で初めてだ。
 一家4人殺害や放火。この大事件の報道は連日マスコミで続けられた。
 担当した地裁裁判官が、無実の心証をもちながらも容疑者を犯人視す
るマスコミの影響力を挙げ、死刑の判決文を書いた、と告白する悲劇も
あった。
 誤報と司法とが1人の人間の一生を破壊した。

 読売新聞は謝罪しなかったが、1面中央に社会部長名で「検察は控訴
断念を」と主張した。58年も費やされた冤罪の証明のあと、いま最大の
不安は検察側が冷酷無謀な控訴に持ち込まないかだ。

 ところが謝罪のなかった朝日新聞は、10年前に再審開始を決定した村
山浩昭元裁判長の、今回判決の「捜査機関の捏造」説を支持する
コメントに対置し「今回の事件は自白を除いても、有罪方向の証拠がた
くさんある…上級審の判断を仰ぐべきではないか」「控訴をする可能性
は十分考えられる」(元最高検次長検事・伊藤鉄男氏)と後輩を激励さ
せている。

 捜査機関の発表記事に対する、冤罪被害者の無実を叫ぶ声が取り上げ
られることはない。
 捏造による死刑判決は殺人罪にも匹敵する。
 その加害者の「控訴の可能性」を示唆する両論併記は、あまりにも
権力寄りだ。  (10月1日「東京新聞」朝刊17面「本音のコラム」より)

◆石破茂氏の国賦人権説

                              前川喜平(現代教育行政研究会代表)

 2013年ごろ、文部科学省の官房長として自民党の石破茂幹事長に何か
を説明に行った際、石破氏が日本の憲法では天賦人権説を採るべきでな
いと語るのを聞いて驚いたのを覚えている。
 天賦人権説とは、人権はすべての人が人であるがゆえに生まれながら
に当然に有する権利だという思想だ。
 これは世界人権宣言や国際人権規約の基本的な思想だ。

 ところが、それは日本には当てはまらないという。
 日本において人権とは、国が国民に与える権利だというのだ。
 確かに、2012年4月の自民党「憲法改正草案」の「Q&A」には、国
民の権利は、共同体の歴史、伝統、文化の中で生成されてきたものだか
ら、現行憲法の天賦人権説に基づく規定は改める必要があると書いて
ある。
 この「国賦人権説」によれば、国民ではない外国人には人権がないこ
とになる。また、国の都合で「公益」や「公の秩序」を理由に人権を制
限することも許される。

 さらに国は国民に人権を与えると同時に義務も課す。
 国民の人権と義務は表裏一体なので、義務を果たさない国民は人権を
主張できない。国民の最大の義務は国を守る義務だ。
 国が戦争を始めたら、国民は戦場で戦わねばならぬ。それが人権の代
償だ。
 石破首相が目指す改憲は、こんな人権観に依拠する、危険極まりない
ものなのである。(10月6日「東京新聞」朝刊17面「本音のコラム」より)

◆人を大事にする司法へ
                              鎌田 慧(ルポライター)

 静岡地裁の「袴田事件」再審無罪判決に対し検察側が控訴するかどう
か、期日が明後日に迫った。検察は無実の人間を44年間も死刑囚として
きた。誤りを率直に認め、同じ過ちを犯さないための教訓とすべきで
あろう。
 いくつかの冤罪(えんざい)事件があった。
 いまも無実を訴える声が続いている。警察や検察が逮捕した容疑者か
ら自供をとるまで勾留する「人質司法」が、まだ罷(まか)り通っている。

 大阪のプレサンスコーポレーションの「業務上横領事件」では、検察
官が「検察なめんなよ」「ふざけるな」と机を叩いたと、民事事件でも
訴えられている。特別公務員暴行陵虐罪で刑事裁判がはじまる。
 取り調べの可視化や弁護人の積極的な関与がさらに必要だ。

 袴田事件は静岡地裁の再審開始決定から、10年もたってようやく無罪
判決となった。検察側が即時抗告して審理が長引いたからだ。これから
の課題は、検察官の不服申し立てなどを規制する再審法の改正である。

 もうひとつは、長い間、冤罪を主張している事件の早期解決だ。
 鹿児島県の大崎事件は3度も再審開始が決定されてなお、検察側が抗
告して裁判が始まらず、97歳の原口アヤ子さんは病床に伏して無罪判決
を待っている。
 狭山事件の石川一雄さんは85歳。脅迫状が最大の証拠とされたが、当
時、非識字者の石川さんにはとても書けない文章だった。
         (10月8日「東京新聞」朝刊「本音のコラム」より)