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わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

安住の地はどこに?「ロストパラダイス・イン・トーキョー」

2010-09-18 22:47:17 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img334 また、独立系の新人監督が異色の青春映画を発表しました。白石和彌監督の「ロストパラダイス・イン・トーキョー」(9月18日公開)です。同監督は、北海道生まれの36歳。映画塾に参加したのち、若松孝二監督に師事。行定勲や犬童一心監督などの作品に加わったのち、ショートムービーやプロモーション・ビデオを演出。今回が、長編デビューとなる。そして、埼玉県川口市で開催されたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2009で“SKIPシティ・アワード”を受賞。ロッテルダムなど、各国の映画祭にも正式出品されたそうだ。
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 この作品の主人公は、3人の若い男女。両親を亡くした、冴えないサラリーマン・幹生(小林且弥)は、過去に暗い傷を持つ知的障害者の兄・実生(ウダタカキ)とアパートで暮らすことになる。あるとき幹生は、兄の性欲を処理するためにデリヘル嬢・マリン(内田慈)を呼ぶ。彼女は、秋葉原で地下アイドルとして活躍しながら、風俗で働いている。住む部屋さえ持たずに貯金に執着するマリンの夢は、いつか自分だけの島“ファラ・アイランド”を購入すること。やがて彼らは、断ちがたい絆で結ばれていく…。
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 主人公3人のキャラが抜群にいい。白石監督は、彼らが抱える閉塞状況を日常的なレベルでとらえながら、とことん突きつめていく。とりわけ、マリンを演じる内田慈のキャラが印象的だ。アッパッパーのアイドルから、精神的に追いつめられた兄弟に出会って母性愛を発揮、彼らの絶望的な状況を切り裂いていくまでを好演。カメラは常に高層マンションを背景に置きながら、兄弟のアパートの息のつまるような空間をとらえる。彼らが互いに補い合いながら懸命に生きていく姿は、いままでのグループ集団映画とは一線を画する。
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 この3人に、マリンを取材していたドキュメンタリー作家が介入し、実生の過去の傷を暴こうとする。興味本位に3人の生活をぶち壊そうとする、この映像作家は、いまのメディアの象徴か。社会のシステムからこぼれ落ちた若者たちと、現代風俗を巧みにからめたドラマ作りがみごとだ。映像と脚本の展開が緻密で、よどみがない。果たして、マリンは夢と希望にあふれた夢のパラダイスを手に入れられるのか。3人は、この閉塞状況を切り抜けられるのか。リアリズムと幻想が入り混じったラストが、胸をしめつけます。


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