わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

ジョニー・デップ in「パブリック・エネミーズ」

2009-12-03 15:47:25 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img205 ジョニー・デップが、新作「パブリック・エネミーズ」(12月12日公開)で、1930年代前半のアメリカで“社会の敵No.1”といわれたギャング、ジョン・デリンジャー(1903~1934)を演じています。世界中が大恐慌に見舞われたこの時代、デリンジャーは庶民を苦しめる銀行から現金を強奪、逮捕されるたびに不可能と思われた脱獄を繰り返したといわれる。彼は、「汚れた金しか奪わない」「無用な殺人はしない」「仲間は絶対に裏切らない」といった信条を貫き、大衆のヒーローとなったギャングだったとか。今回の映画化では、そのデリンジャーと、フランス人とインディアンの血がまじった女性ビリー・フレシェット(マリオン・コティヤール)との愛と、ふたりの逃避行を中心に、ドラマが展開される。
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 監督は、「ラスト・オブ・モヒカン」(92年)、「ALI アリ」(01年)などで異色のキャラクターをとりあげ、心理描写とサスペンス演出に際立った手腕を見せたマイケル・マン。今回は、デリンジャー一味と、創設されたばかりのFBIの捜査官メルビン・パービスとの対決が見どころだ。このパービスを、最近「3時10分、決断のとき」や「ダークナイト」などで強烈な個性を見せたクリスチャン・ベイルが好演。FBI長官J・エドガー・フーバー(ビリー・クラダップ)に尻を叩かれての執念の追跡ぶりが迫力十分。だけど、肝心のジョニー・デップの役作りがイマイチ。ハリウッドの異端児といわれるジョニーの破天荒なキャラクターは大好きなのだけど、今回はその個性の爆発が見られず、おとなしい。つまり、ジョニーの売りである熱狂的なハチャメチャさが画面から噴き出してこないのだ。
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 ギャング映画といえば、チャールズ・ブロンソン主演の「機関銃<マシンガン>ケリー」(58年)とか、ネビル・ブランドがアル・カポネに扮した「どてっ腹に穴をあけろ!」(59年/TVシリーズ「アンタッチャブル」の劇場版)、ジョン・ミリアス監督、ウォーレン・オーツ主演の「デリンジャー」(73年)などの傑作を思い出す。これらの作品の魅力は、俳優たちの強烈な個性が狂的なギャングスターの肖像を生み出していた。だが、今回のジョニーの場合は、彼自身の反骨精神がデリンジャーという虚像の中に反映されていない感じがする。それに、「エディット・ピアフ/愛の讃歌」で名演を見せたマリオン・コティヤールとの愛の描写もややぎこちない。100年に一度という、いまの経済不況時代、デリンジャーのような義賊(?)の復権が、あまり映画を見ている者のカタルシスにならないのです。
Pb270273 残照


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