「チェ 28歳の革命」(08年)、「チェ 39歳別れの手紙」(09年)で、ゲバラの伝記ドラマに取り組んだスティーブン・ソダーバーグ監督。新作「インフォーマント!」(12月5日公開)では、実在の企業内部告発者をとりあげたブラック・コメディに挑んでいます。マーク・ウィテカー(マット・デイモン)は、名門大学を卒業し、農業関係の大企業ADMに就職。33歳で重役となり、コーンからリジンというアミノ酸系食品添加物を製造する大工場をまかされる。だが1992年、工場でウイルスが発生。ウィテカーは、事件は日本の大企業が仕組んだ陰謀だと報告し、FBIが捜査に乗り出す。だが一転、捜査官に「それは作り話で、実はADMはリジンはじめ自社の全製品で違法な価格協定を行っている」と告白。この瞬間から、彼は巨大企業の内部告発者となり、007そこのけのスパイごっこを楽しむ。
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ウイルス騒動から内部告発者になり、世界中をかけめぐって会議を隠し撮りする密告者に。これで会社の上層部が捕まれば、自分は社長になれると自負するウィテカー。やがて、彼はまた態度を一変させ、実は自分は重役たちとともに日常的にリベートを受け取っていたと証言、一瞬のうちに証人から捜査対象になる。嘘かまことか、彼の言動は企業やFBI、ジャーナリズムを巻き込んで、アメリカを混乱におとしいれたといいます。題名の「インフォーマント」とは情報提供者、つまり告げ口屋のこと。とはいえ、その告げ口がコロコロと変わっていきFBIもお手上げ。嘘でかためられたような、自己顕示欲にあふれた、詐欺師まがいのウィテカーの行動に、見ているほうも何がなんだかわからなくなってしまう。
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ウィテカーを演じるマット・デイモンは、もともと没個性的な俳優で、逆にいえば、どんな役でもこなせる存在。ボーン・シリーズで演じたジェイソン・ボーン役も、原作のイメージとはほど遠いのに、素直なキャラクターで、つつがなく演じるという得な人。今回のウィテカー役も、行為の重大さにくらべて、憎めず、愛すべき、ヘンに明るいアンチヒーローになっている。ソダーバーグによると、「マットには、生まれながらの説得力がある。感じのいい青年というイメージは、作ろうと思って作れるものじゃない。彼が何か言うたびに、見ている人はなんとなく信じてしまうんだ」とか。大口を叩く人はよく見かけるけれど、マーク・ウィテカーの場合はケタちがいで、さすが大国アメリカです。ちなみに、社会派スターのジョージ・クルーニーが、本作の製作総指揮に加わっています。
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