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デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ベティ・ローシェのスキャットにエリントンは太鼓判を押した

2016-01-24 09:19:32 | Weblog
 先週話題にした「Hi-Fi Ellington Uptown」は、テーマ曲である「A列車で行こう」が収録されている。エリントンのソロに続いてベティ・ローシェ、次いでポール・ゴンザルベスのうっとりするフレーズから一気にクライマックスのエンディングに持っていくスタイルだ。このバージョンが特に印象深いのはこのローシェにある。♪Hurry! Hurry! Hurry! TAKE THE A TRAIN! The findest quickest wayto get to Harlem・・・1コーラス歌ったあとスキャットに入るのだがこれが凄い。

 意味のない音を即興的に歌うのがスキャットなのだが、それに詞がふられているかのようなストーリー性がある。豊かな感性がなせるわざだ。これで一躍有名になったローシェは56年、ベツレヘムに同タイトルのリーダー作を吹き込み再唱している。コンテ・カンドリやエデイ・コスタを中心にしたスモール・コンボがバックなのでビッグバンドとは一味違う趣があるものの、スキャットに迫力がない。再演が初演を超えた例は少ないと言われるが、それである。さらに看板曲だけならまだしも「In A Mellow Tone」や「Route 66」でも同じようなパターンでスキャットに持ち込む。セールスポイントをアピールするのもわからなくはないが、少々耳につく。

 そんな鬱憤を晴らしてくれるのが61年のプレスティッジ盤「Lightly And Politely」だ。バックはプレスティッジの傍系レーベルTru-Soundに「Misirlou」の傑作を残しているジミー・ニーリーが率いるカルテットで、1曲だけ短いスキャットを入れているものの歌詞をかみしめるようにスタンダードをじっくり歌っている。43年にカーネギーホールで「Black, Brown and Beige」の「Blues」を最初に歌ったシンガーだけあり堂々としているし、ソフィスティケートされた表現力はさすがだ。特に「I Got It Bad」はエリントン楽団の先輩シンガー、アイヴィー・アンダーソンに負けず劣らずの名唱といっていい。

 エリントンは自伝「A列車で行こう」(晶文社)で、ローシェを評して「歌詞を加えたりして彼女が行なったフレージングの多くは、インストゥルメンタルな装飾楽符同様にすぐれたものだった。一例をあげると、『A列車で行こう』の歌い方はオリジナルなレイ・ナンスのトランペット・ソロと同じように古典的である」と。太鼓判を押した「A列車で行こう」のスキャットは、この曲を歌うときのバイブルといっていい。美空ひばりもローシェをお手本にしていた。
コメント (10)
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