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デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

プラダを着たアンドラ・デイが「All Of Me」を歌う

2022-03-13 08:10:05 | Weblog
 南部でのリンチを曲にした「奇妙な果実」。強い意志で人種差別を歌うビリー・ホリデイ。その歌詞を危険視したFBIは、歌うのを止めさせようとして麻薬使用で逮捕する。ビリーに扮したアンドラ・デイの歌唱力と演技力は見事なものだが、男運の悪さと薬物の悪癖ばかり強調され、シンガーとしての偉大さが描かれていないのは残念だ。

 ビリーの熱心なファンは観ない方がいい映画「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」である。リー・ダニエルズ監督は汚い手を使ってまでビリーを執拗に追い詰める連邦麻薬局長官のハリー・アンスリンガーにスポットを当てたかったのか?ケネディ大統領に表彰される彼の実際の映像まで出てくる。デーヴィッド・マーゴリックの研究本「ビリー・ホリデイと奇妙な果実」(大月書店刊)には、この曲を歌いだしたら逮捕されたことは事実として書かれているが、Anslingerの「A」も出てこない。   

 映画だから事実と違うのは仕方ないとしても、B級ポルノのようなシーンが多く、ビリーはセックス依存症と言いたげだ。歌唱ばかりか人生に於いても重要なレスター・ヤングが頻繁に出てくるが、「Lady And Pres」という肝胆相照らす仲に見えない。2019年のドキュメンタリー映画「BILLIE」に使われていた出所後のカーネギーホール・コンサートの賑わいや、多くのファンが見守るなか棺が担ぎ出されるフィルムを挟みリアル感を出そうとしているのだが、これが何とも陳腐でストーリーに一体感がないのだ。

 救いは所々に「All Of Me」が流れることだろう。エンドロールでプラダを着たアンドラがこのビリーが愛した曲を歌うシーンがあり、ユーモアもありニヤリとする。「奇妙な果実」はビリーが自伝のタイトルにするほどの重要な曲であるが、「All Of Me」こそ女としてのビリーに相応しいと思う。隣ではにかみながら吹くプレスを見つめるビリーは美しい。You took the best So why not take the rest Baby take all of me・・・


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3 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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管理人敬白 (duke)
2022-03-13 08:14:24
「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」をご覧になった方はご感想をお寄せください。

「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」(2月11日公開)本予告
https://www.youtube.com/watch?v=VI9EaTDE_ck
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「All of Me」でスィング (内間天馬)
2022-03-15 05:25:08
新聞記事を画面に出して伝記映画の内容を補足するのは、映画の内容が事実に基づいていればこそ効果があるんじゃないでしょうか。dukeさん同様、意図や狙いが不明で首をかしげる箇所があります。それとレスター・ヤングの描き方には???です。プレスとレディーの仲は誰でも知ってるじゃないですか。 でも、アンドラ・デイは好演してますね。僕はかなり以前から、ビリーの「All of Me」は好きでしたし、今でも「I'll be seeing you」などと共によく聴いています。彼女のスィング感は他のシンガーにはない独特の揺れと喘ぎがあるので、特に「All of Me」などにそれを感じて惹かれます。ラストで「All of Me」を唄い踊りながら、着ているプラダをビリーが強調するシーンがありますが、彼女もブランド品を愛したとしたら可愛いですよね。まったく個人的な余談ですが「プラダを着た悪魔」の主題歌を歌ったKTタンストールとは、僕の娘がKTのバンドでキーボードを担当したのがきっかけで親戚付き合いをしていますが、僕の家のキッチンで、彼女と二人、孫の手をかざして「孫の手」ダンスをしたことがあります。そのとき踊りながら二人で唄ったのが「All of Me」でした。ですからこの映画のラストシーンには思わずニコッとしてしまいました。KTもビリー・ホリデイが好きなのでこの映画は観てると思いますが、やはりラストシーンでニヤッとしたんじゃないかな? 電話して訊いてみましょうか…
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Lady In Satin (duke)
2022-03-15 06:58:31
内間天馬さん、コメントありがとうございます。

映画をご覧になりましたか。私と同じ見方ですね。特にレスター・ヤングの描き方は酷いですね。二人の関係を知らない方は、隣でただテナーを吹いているミュージシャンにしか見えないでしょう。

ラストの「All of Me」で、トレヴァンテ・ローズが「当時はプラダはなかった」と言って笑わせますが、プラダはなかったにせよビリーのステージ衣装は素敵なものばかりでした。写真でしか追えませんfが、その時々に流行ったイヴニング・ドレスを着こなしていますね。特にサテン地のシンプルなドレスを身につけたビリーは美しい。まさに「Lady In Satin」です。

KTタンストールとお知り合いとは交友が広いですね。「All of Me」はプロアマ問わずシンガーなら一度は歌う曲ですので、聴き比べると面白いです。大橋巨泉の「ジャズスタジオ」という番組で、ゲストに必ずこの曲を歌わせていました。ビリーを基準としていたのでしょう。
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