
フルート奏者のジェレミー・スタイグが今年4月13日に亡くなっていたのを知った。その訃報記事によると奥様は日本人で横浜に住み、最近は演奏活動よりも父親ウィリアム・スタイグから引き継いだ絵の才能をいかし、デジタル絵本を制作していたという。因みに父君は有名なイラストレイターで、エピック盤のレスター・ヤングやジョニー・ホッジス、チュー・ベリーのジャケットを手掛けている。
音量がないこともありフルートはジャズの主流楽器ではないが、サクソフォーン奏者がビッグバンドに入団する時はクラリネットと合わせて持ち替えで吹けなければ雇ってもらえなかった。多彩な音を必要とするビッグバンドでは曲やアレンジによっては必要な楽器だったのだろう。1950年代に兼任だったフルートを専業にしたのはハービー・マンで、そのあと60年代に現れたのがスタイグだ。スタイグは事故で唇半分の筋肉の自由を失いながらも独自のマウスピースを使い独特の吹き方をする。鋭く突きぬける高音や息漏れのような濁った音は本来フルートが持つ美しい音色には程遠いが一番ジャズらしい音といえる。
70年代はジャズよりロック、フュージョンの世界で活躍したスタイグだが、69年にビル・エヴァンスと共演した「What's New」は強烈な1枚だ。アルバムタイトル曲をはじめ「Lover Man」、「Autumn Leaves」、「So What」とニヤリとする曲が並ぶが、何といってもトップに収めれている「Straight No Chaser」に尽きる。数あるモンク・ナンバーでも「'Round About Midnight」と並ぶ人気曲だ。速いテンポでテーマを提示するスタイグに絡むエヴァンス、そして強靭なゴメスのベース、ゾクゾクする出だしである。そして後半の呻き声のようなソロとエンディングの息漏れまで一気に聴かせる。まさに喉が焼けるような熱いストレートだ。
サックス奏者があふれているので目立つためにフルートに特化したのがハービー・マンだが、結果としてフルートが独立したジャズ楽器であることを証明した。それをジャズ芸術の域にまで高めたのはエリック・ドルフィーだ。そしてジェレミー・スタイグはジャズ楽器としてのフルートの魅力を引き出し、面白さを伝えた人である。スタイグを聴いてフルートの虜になり楽器を手にした人は数知れない。享年73歳。合掌。