デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジョージ・ケイブルスのワインを味わってみよう

2007-08-12 06:59:52 | Weblog
 先日、知人宅でヴィンテージ・ワインをご馳走になった。シャトー何とかいう一度や二度聞いたくらいでは覚えきれぬ銘柄で、香りは貴婦人の如く高貴で、味は熟女のようにキメ細かい云々と説明してくれる。熟れ過ぎた女性なら近くにいるが・・・熟女の味となると想像も付かないものの、美味しいワインであった。年代物となれば値段が気になるが聞くのは野暮というものだ。

 ジョージ・ケイブルスに「オールド・ワイン、ニュー・ボトル」というタイトル通り古いスタンダードを新しい感覚で録音したアルバムがある。アート・ペッパーがお気に入りのピアニストで、ペッパーが来日したときにケイブルスの生の音に接した方も多いであろう。小生も一度聴いているが、ブルースが上手くモード手法も得意のようだ。ペッパーのブルース感覚はパーカーの持つそれに近いもので、後年モード手法も取り入れている。その二つを併せ持つケイブルスはペッパーの良き伴侶であった。

 このアルバムではロリンズの「アルフィー」、エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビー」といったビッグネイムの十八番に果敢に挑戦している。中でもバド・パウエルの決定的名演で知られる「イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー」が素晴らしい。緩急自在のテクニカルなもので、サイドメンではなくジャズ・ピアニストとしてのケイブルスが聴ける。過去に名演が残されていると奇を衒った目先だけ新しい演奏スタイルになる傾向があるが、ケイブルスはその名演を踏まえたうえで独自の新しい解釈をみせてくれる。オールド・ワイン、ニュー・ボトル、なるほど温故知新である。

 古いワインほど美味しいとは限らないが、貯蔵の過程で生まれた香りとまろやかな風味を楽しむなら寝かせたほうがワインの真価を発揮する。このアルバムも早いもので録音されてから25年経つ。ワインのように寝かせられ芳香を放ちはじめたのではなかろうか。
コメント (26)
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