徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

一番目の夢(第三十九話 本儀式突入)

2005-06-24 17:29:04 | 夢の中のお話 『樹の御霊』
 朝からいい天気に恵まれて来客の足取りも軽く、長老衆を始め主だった顔ぶれが早くからそろっていた。あちらこちらで祝いの言葉が囁かれ、女性陣の晴れ着が本儀式に花を添えていた。

 祈祷所にはいる立会人には、宗主一左、後見次郎左、父親として黒田、そして、長老格としては藤宮の宗主(陰の長)笙子が指定された。岩松と赤澤老人も呼ばれていたのだが、例の夢操りの件があるので、招待を受けて一緒に伴ってきた多喜子や古都江の監視をするため遠慮して席をはずした。その代わり、岩松も赤澤も輝郷や貴彦らとともに祈祷所の外で警備にあたる事になった。

 祈祷所の中扉の前には藤宮の悟と晃が両脇に控え、誰が見ても紫峰家と藤宮家の新たな深い結びつきをはっきり示しているようだった。来客たちは修の結婚話をまことしやかにうわさし合い、勝手にお目出度い気分に浸っていた。

 外でうわさ話に花が咲いている頃、祈祷所の中では厳かに儀式の開始が告げられようとしていた。樹の御霊の祀られた神棚を背に修が座り、その前に二人が並んで座った。左に一左、次郎左、右に笙子、黒田が控えた。

 「樹の御霊に申し上げる。
 この者ら御霊のお力添えによって前修行および儀式のための修練を無事終え、いまここに本儀式を迎える運びとなり申した。
願わくばこの者らに継承の力をお与え下されるようお願い申し上げ奉る。」

 勝手の分からぬ一左に変わって、次郎左が樹の御霊に挨拶をし、相伝の儀式は始まった。

 「宗主一左に対座せよ。」

修のその一言で透と雅人は一左のほうへ向き直った。

 一左ははっと周囲を見回した。孫二人だけではない。次郎左を始め皆が自分に対し、念を集中させていることに気付いたのだ。

 「何だ。どうしようと言うのだ。修。これはどういうことだ?」

 「見苦しいぞ。三左よ。おまえの正体は皆知っておる。」

次郎左が言った。三左が怯んだ。

 「何を言う。わしは一左じゃ。三左は当に死んだ。三十年も昔にの。」

 「その三十年の長きに渡って紫峰を苦しめた悪鬼よ。本物の一左を放して早々に立ち去れ!」

再び次郎左が叫んだ。

 一左を装っていた三左の表情が変貌した。狡猾な本性を現した。

 「なるほどそこまで…の。ならばわしも受けてたとうか。ほっほっ。」

三左は立ち上がった。

 「透。雅人。あの者の身体から三左の魂を引き出せ。」

修の指示が飛んだ。
 透が雅人が次々に三左の波長を捉えようとするが、さすが三左はそれを簡単にかわしていく。
昨日や今日修練を受けた子どもとはレベルが違い過ぎる。二人は焦り出した。
厭味な笑みを浮かべながら馬鹿にしたように透や雅人の念を蹴散らす。 

 修はしばらく二人の様子を見ていたが、初めての実践と強敵に戸惑っている二人の心に呼びかけた。

 『焦ることはない。焦れば本物の一左の方を引っ張り出してしまうぞ。』

 透はそれで我に返った。過去の失敗が蘇ったのだ。慎重に相手を探る。身体中をアンテナのようにして。
 雅人は妨害してくる三左の念に焦点を合わせた。それは必ず三左から発せられたものだからだ。

 二人は同時に、お互いの波長ではないことを確認しながら三左の波長を捉えた。

 「逆に引っ張り出してやる!」

 三左は力を込めた。念と念の綱引き状態になった。蛇と蛙のにらみ合いのようになったが、若い二人はやや劣勢。

 『仕方がないな。』というように修が加勢した。修の加勢はほんの気持ち程度のものだったが、それでも二人にとっては効果抜群だった。

 やがて畑から大根でも抜くように、三左を引っ張り出した。
笙子はすかさず二人の身体に結界を張った。

 一左の身体は崩れるように倒れた。黒田は一左の身体に結界を張るのと同時に、眠れる一左に語りかけた。
『御大。急ぎ目覚められよ。』しかし、三十年近くも眠り続けている一左はなかなか反応しなかった。



 その頃、祈祷所の外ではとんでもないことが起こり始めていた。
何者かが『眠れ』と何人かの招待客に囁いた。姿も形も無い。ただ、『眠れ』とだけ聞こえる。
その声を聞いているうちに彼らは朦朧とし始めた。
 
 異変に気が付いた貴彦たちは警戒を強めた。俄かに辺りが薄闇に包まれたようになり、椅子が飛んだり、変な化け物が現れて人々を追い回したり、暴れだす者が出たり、会場は騒然となった。
夢を利用された者たちが他の者を攻撃し始めたのだ。

 操られていない能力者たちが必死で収拾を図ろうとするが、操られている能力者たちの力が強い上、意識が無く、操っているものの正体も分からない。事態は混乱を極めた。 
 
 「輝郷!会場自体に結界を張って奴の念を弾いたらどうだ?」

一向に止まない攻撃をかわし、防ぎしながら貴彦が叫んだ。

 「無理だ!この念は奴だけのものじゃない。操られる側も同調している。これだけの力に対抗できる者は長老衆の中には居ない。」

耳を劈くような騒ぎの中、輝郷が大声で応えた。

 「長老衆と俺たち、悟、晃を併せてもか?」

 「う~ん。やらんよりはましかも知れんが…。」

輝郷は長老衆を見た。とても声を掛けられる状態じゃない。それぞれの家族に被害者がでていて、抑えるのに四苦八苦している。

 何しろ夢が相手なのであらゆる現象が理論を超えていて、まさに奇奇怪怪な様相を呈している。さすがの能力者たちもお手上げだ。

『扉が破られる前に何とかしなくては…。』貴彦は思わず祈祷所のほうを見た。

 何かぼんやりとと輝くものが小さく見えてきている。やがて外扉の真ん中辺りにうっすらと白い影が浮かび上がってきた。

 次の瞬間それは強烈な光を放ち、辺りを煌々と照らした。皆思わず目を伏せた。夢の産物が次々と消し飛び、操られていた者たちがその場に崩れ落ちた。光る指がそれらを指し示すと、白い雲のような魔獣が辺りを飛び周り、人々を巡って闇を食い散らした。

 「樹の御霊…。」

 貴彦が思わず呟いた。長老衆が恐る恐る目を上げ、その輝く姿を見た。長老衆としても生まれて初めて目にするそれはまさに伝説の人の姿だった。

 「おお…まさに樹の御霊…千年神のご降臨じゃ。」

岩松が叫んだ。長老の言葉に皆その場にひれ伏した。

 「次郎左の言うたとおりであった。」

 岩松と赤澤は顔を見合わせた。かつて、親を亡くした5歳の子どもに全権を委ねたおり、次郎左の警告を尤もとし、決してこの子を怒らすまいとお互いに誓い合った。
以来できる限りは衝突を避けてきたつもりだ。温厚なその子はめったに機嫌を損ねることは無かったが…。

 長老衆は一瞬でこの災いを断ち切ったその力に改めて畏怖を覚えた。
白い人は光に包まれながらしばらく皆の方をじっと見ていたが、次第に吸い込まれるように祈祷所の中に消えていった。

 樹の御霊に救われたとはいえ外がこの有様で、いったい祈祷所の中では何が起こっているのか、長老衆も貴彦たちもつのる不安を隠せなかった。

 
 

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