エナジーの塊による攻撃を受けて空間が崩壊した瞬間…それまで空間を支えていた業使いたちが煽りを受けて飛ばされ転倒した…。
幸いにして…それほどの大事には至らなかったが…破壊された空間はすぐにも修復しなければならない…。
しかし…久継を始め高齢者には無理をさせるべきではないと滝川族長は考えた。
力のある業使いが少ない昨今で久継たちに代わり得る力の持ち主となると…。
お伽さまの従兄がひとり居るが…ひとりだけではどうしようもない…。
田辺や須藤もそれなりに強力だが…久継なみの力があるわけではない…。
手早く空間を作り出せるとすれば…あの子しか居ない…。
滝川族長は急ぎ西沢総代の意見を仰いだ…。
「ノエル…西沢総代からきみに…壊れた空間を大至急再生して欲しいって…。」
降り注ぐエナジー弾の爆音で耳がいかれそうなくらい喧しい状態の中で…金井はノエルに総代の依頼を伝えた。
ノエルは戸惑った…。
空間を作るって言ったって…。
作ったことのないものをどうやって…?
『ノエル…。 』
その時…聞き覚えのある声を耳にした…。
お伽さま…?
『心配ありません…あなたならできますよ…。
この町全体を収めてしまうくらいの巨大な空間をイメージなさい…。
正確でなくとも良い…。
あなたがフレームを造れば…従兄が障壁を張ります…。
空間の補強は他の能力者たちがしてくれますから…。 』
ご無事だったんですね…?
ノエルの顔が輝いた…。
『はい…御大親のお蔭で…でも今は話している時ではありません…。
急ぎなさい…。 』
お伽さまに促されて…ノエルは空間をイメージし始めた。
太極…力を貸して…。
僕ひとりじゃ…そんなに大きなフレーム…長くは維持できないかも…。
相変わらず…何処から降ってくるのか分からないエナジーの攻撃が続いている。
金井は…動けないノエルのためにふたり分の防御を引き受けた…。
やがて再び…新しい空間が仲間たちとHISTORIANを包み込んだ…。
西沢の身体全体から青の焔が立ち上った…。
裁きの一族の宗主の持つ能力の中で…最も恐れられている怒りの色…。
それは…代々の宗主と後見だけに受け継がれるものでありながら…不思議なことに他家に生まれた西沢にも備わっている…。
相庭が守り役として派遣されたのも…主流の血を護るというだけではなく…その血の暴走を抑えるため…。
裁きの一族から特別な地位を与えられた折に…滝川はそんな話を聞かされた。
長年相庭が務めてきた役目を引き継げという宗主の無言の命でもあったのだろう。
西沢は…最早…降り注ぐエナジーの塊を弾き返すこともなく…逆に次々と吸収している…。
ただでさえ…西沢の中に怒りのエナジーが充満して…今にも爆発しそうになっているというのに…。
「おい…黒幕…いい加減…姿を現せ…!
いくらおまえでも…遠い国から直接…それほどのエナジーは飛ばせまい…。
紫苑と話をするだけでも…ノエルを媒介にしただろ…! 」
攻撃を仕掛けてくる者の気配の方に向かって滝川が怒鳴った。
屋敷跡の裏の林…少年の攻撃によって破壊された森の中から…男がひとり…ゆっくりと近付いて来た…。
弟と呼ばれた老人より…はるかに若く見える…。
その男の容姿を目にして…金井があっと叫んだ…。
「高倉…族長…まさか…。 」
男は…にやりと笑った。
滝川も目を疑った…。
執行部に名を連ねる族長たちの代表者が…なぜ…。
さすがの滝川も高倉族長とは直接の面識はない…。
西沢も同じだ…。
族長会議などで姿だけは見たことがあるけれど…それも遠くからのこと…。
ここで族長と少しでも関わったことがあるのは連携組織の金井だけだ…。
治療師の特殊な目が…高倉の身体をつぶさに診察し始めた…。
「金井…よく見てみろ…高倉族長…じゃない…。
族長のイメージを纏っているに過ぎない…。
この男の身体には磯見と共通する部分がひとつもないんだ…。 」
金井はもう一度…まじまじと族長に化けた男を見つめた。
「言われて見れば…磯見の気配がまるで感じられない…親子なのに…。
でも…なんで族長に化ける必要が…? 」
怪訝そうな顔をして滝川に眼を向けた…。
「執行部以外の者には本物かどうかなんて見分けがつかないんだ…。
磯見から引き出した情報をもとに族長に成り済まして…親玉自ら本部や支部で…あれこれ悪さしていたんだろうさ…。
金井…本物にすぐ連絡をとれ…。
何も知らないでいる高倉族長の立場が悪くなっちゃ気の毒だ…。 」
滝川が男の身体から目を逸らした一瞬の隙をついて…男は滝川に強烈な一撃を喰らわせた。
その衝撃で滝川の身体は宙に舞った…が…地面に叩きつけられたわりには…それほどのダメージを負わなかったように思えた。
連続する攻撃をかわしながら滝川はすぐに立ち上がり…応戦した…。
いつもなら…西沢にすべて任せておけばよかった…。
だが…今度ばかりは…。
紫苑を戦わせてはならない…。
何としても…紫苑が攻撃するより先に奴等を倒してしまわなければ…。
切れた紫苑が…一旦戦い始めたら…止めるのは容易じゃない…。
それは…宗主が戦っても同じ…。
裁きの一族の主流の血は…滅びの血…。
怒りの焔を治める者は…大きな犠牲を払わねばならない…。
再び…男の攻撃が滝川を捉えた…。
さすがに…世界規模の組織を動かしているだけあって…能力も桁違い…。
滝川と言えど簡単には勝たして貰えそうもない…。
いかん…と思った瞬間…空間がまた激しく震動を始めた…。
滝川が敵から攻撃を受けるたびに西沢の中に蓄えられた滅のエナジー噴出の危険がが増してくる…。
紫苑の全身を覆っている青い焔が天を焦がすかと思われるほどに勢いを増し…とうとう…その手が男の方に向けられた。
一瞬の瞳の煌きとともに放出された滅のエナジーが補強された空間の壁をも貫いた…。
男はかろうじて転がるようにそれを避けたが…その凄まじい破壊力に戦慄した。
「だめぇっ! 紫苑さん…空間壁…マジで撃っちゃだめだってば!
支えてるのがやっとなんだからぁ…! 」
全身に圧痛を覚えて…ノエルは悲鳴を上げた。
空間を支えるノエルにも『時の輪』たちが襲い掛かる。
金井がそれを素早く阻止するが…『時の輪』も群を抜いた能力者であることは間違いないから…ノエルを護りながらの戦いは決して楽ではない…。
『つらいでしょうが…ノエル…頑張りなさい…。
その空間は紫苑を護るための防護壁でもあるのですよ…。
紫苑は…仲間たちを護るために…そして…この国の人々を護るために…嫌でも戦わざるを得ない…。
けれど紫苑の桁外れの力は…罷り間違えば…この国自体をも滅ぼしかねないのです…。
あなたの作ったその空間が…最悪の事態を防ぎます…。
紫苑が悲しんだり悔やんだりすることのないように…あなたが護ってあげなさい…。
それに…その空間の壁が破滅の気配を遮ってくれるお蔭で…水天の御座もまた…おとなしくなってくれたようですよ…。 』
何処からどうやって話しかけているのかは分からないが…お伽さまは確かに…ノエルたちの状況をつぶさに観察しているようだ…。
お伽さまが無事なら…添田や磯見も大丈夫なんだろう…。
紫苑さん…みんな無事だったよ…。
だから…落ち着いて…機嫌直して…。
僕…頑張るから…早く…いつもの紫苑さんに戻って…。
ノエルは唇噛んで…衝撃に耐えた…。
西沢の静かな反撃の威力は…HISTORIANたちの度肝を抜いた…。
自分たちが最高責任者と呼んでいる…時読みの少年をはるかに越えている…。
「町に散らばる同志たちよ…。
我々…HISTORIANは必ず勝利する…。
この魔物を倒すために…すべての力を結集せよ…。
選ばれし人を護り…時を越えた魔物を葬るのだ…。 」
驚きのあまり言葉を失った少年に代わって…気を取り直した老人が叫んだ…。
下の町のあちらこちらから…HISTORIANと思しき者たちが集まってきた。
御使者やエージェントによって力を封印された者たちも…。
封印はいとも簡単に…男によって解かれた…。
滝川や金井にとって…どうということのない微力な相手がほとんどだとしても…多勢に無勢…。
「おやおや…役にも立たぬ連中が集まってきたな…。
紫苑…一気に蹴散らしてしまえ! 」
西沢の中の滅のエナジー…魔物が囁く…。
その声は…滝川にも届いた。
「紫苑…耳を塞げ…!
魔物の言うなりになってはだめだ…! 」
滝川が叫ぶと…西沢はまたチラッと滝川を見た。
西沢の…その目が坂を上ってくるHISTORIANに向けられた途端…視線の先の何人かが滑落した…。
「命だけは…助けてやったけど…もう…何の力も使えないぞ…。
それでいいんだろ…恭介…。 」
西沢はそう言うと可笑しそうに唇を歪めた…。
それを聞いて滝川は…一応…ほっとした…。
魔物に支配されているわけではないな…。
完全に行っちゃってるけど…紫苑本人に間違いない…。
…と安心したのも束の間…。
男と老人が西沢を目掛けて再び攻撃を始めた…。
御使者仲間以外とも自由に連絡を取れる仲根を公園の集団の中に残して…後の指示を任せ…玲人は亮を連れて西沢たちの居る丘陵の方へ向かった。
上り口に差し掛かったところで…それほどの勾配の坂でもないのに何人ものHISTORIANが急に転がり落ちてきて…慌てた。
西沢が暴れ始めたに違いない…。
「西沢先生を…紫苑を…止めなきゃ…。
HISTORIANをぶっ倒すだけならいいけど…町を壊されちゃ困る…。 」
玲人と亮はなだらかな坂を駆け上るようにして先を急いだ…。
添田の屋敷跡に到着するや否やふたりは同時に…あっ…と声をあげた。
敵の中に高倉族長の姿が見えた…。
折りしも…その族長が西沢に向かってビルが破壊できるほどのエナジーを叩きつけたところだった…。
本部に戻ったんじゃなかったのか?…玲人は事の成り行きに当惑した…。
西沢にとっては避ける必要さえないものではあるが…それ以上のエナジーの吸収を避けさせるために…滝川はあえて西沢の身体を押し退けた。
的を逸れたエナジーはまた…ノエルの空間をいやというほど傷つけた…。
お願い…太極…力を…。
フレームを支えているノエルが崩れれば…壁を作っている能力者や補強している能力者の努力が無駄になる…。
攻撃を受けるたびに…その衝撃はノエルだけでなく…彼等にも伝わっているはずで…おそらくはみんな必死で耐えているのだろう…。
新たに押し寄せた能力者の攻撃に金井がひとり煩わされているうちに…『時の輪』はこれ幸いとノエルに襲い掛かった。
空間を崩せば…西沢の恐るべき力が世間の眼に曝される…。
町を破壊する西沢紫苑という魔物を…HISTORIANが退治するという願ってもないチャンス…その場面を世間に見せ付ければ…必ずこの国を取れる。
ノエル目掛けて放たれた強力なエナジーの矢がまさにその的を射ようとした時…亮がそれを払い落とした…。
「ノエル…大丈夫か…? 」
その声にノエルは少し救われた。
「あんまり…大丈夫じゃない…。
フレームが巨大過ぎて…支えるの…ひとりじゃきつい…! 」
邪魔者に不意をつかれて『時の輪』は一瞬怯んだが…すぐに気を取り直し攻撃を再開した…。
「亮くん…そのままノエルに力を貸してやって…。
主流の血を引いているってことは…どこかでノエルとも繋がりがあるはずなんだ…。
巧くすれば…ノエルのフレームを一緒に支えられるかも知れないぜ…。
こいつは僕が倒す…! 」
亮たちと『時の輪』との間に割って入った玲人が言った。
分かったと答えながら…亮はノエルと力を同化させる方法を思案した…。
「亮…僕に力を送って…僕はそれを反映できる…。
平気…ちゃんと修練したんだから…。 」
ノエルが両の手を差し出した…。
その手を取って…最初はゆっくり少しずつ…亮は自分の持つ力を送り始めた…。
特に異常がないとわかると…次第にそのスピードを上げていった…。
次回へ
幸いにして…それほどの大事には至らなかったが…破壊された空間はすぐにも修復しなければならない…。
しかし…久継を始め高齢者には無理をさせるべきではないと滝川族長は考えた。
力のある業使いが少ない昨今で久継たちに代わり得る力の持ち主となると…。
お伽さまの従兄がひとり居るが…ひとりだけではどうしようもない…。
田辺や須藤もそれなりに強力だが…久継なみの力があるわけではない…。
手早く空間を作り出せるとすれば…あの子しか居ない…。
滝川族長は急ぎ西沢総代の意見を仰いだ…。
「ノエル…西沢総代からきみに…壊れた空間を大至急再生して欲しいって…。」
降り注ぐエナジー弾の爆音で耳がいかれそうなくらい喧しい状態の中で…金井はノエルに総代の依頼を伝えた。
ノエルは戸惑った…。
空間を作るって言ったって…。
作ったことのないものをどうやって…?
『ノエル…。 』
その時…聞き覚えのある声を耳にした…。
お伽さま…?
『心配ありません…あなたならできますよ…。
この町全体を収めてしまうくらいの巨大な空間をイメージなさい…。
正確でなくとも良い…。
あなたがフレームを造れば…従兄が障壁を張ります…。
空間の補強は他の能力者たちがしてくれますから…。 』
ご無事だったんですね…?
ノエルの顔が輝いた…。
『はい…御大親のお蔭で…でも今は話している時ではありません…。
急ぎなさい…。 』
お伽さまに促されて…ノエルは空間をイメージし始めた。
太極…力を貸して…。
僕ひとりじゃ…そんなに大きなフレーム…長くは維持できないかも…。
相変わらず…何処から降ってくるのか分からないエナジーの攻撃が続いている。
金井は…動けないノエルのためにふたり分の防御を引き受けた…。
やがて再び…新しい空間が仲間たちとHISTORIANを包み込んだ…。
西沢の身体全体から青の焔が立ち上った…。
裁きの一族の宗主の持つ能力の中で…最も恐れられている怒りの色…。
それは…代々の宗主と後見だけに受け継がれるものでありながら…不思議なことに他家に生まれた西沢にも備わっている…。
相庭が守り役として派遣されたのも…主流の血を護るというだけではなく…その血の暴走を抑えるため…。
裁きの一族から特別な地位を与えられた折に…滝川はそんな話を聞かされた。
長年相庭が務めてきた役目を引き継げという宗主の無言の命でもあったのだろう。
西沢は…最早…降り注ぐエナジーの塊を弾き返すこともなく…逆に次々と吸収している…。
ただでさえ…西沢の中に怒りのエナジーが充満して…今にも爆発しそうになっているというのに…。
「おい…黒幕…いい加減…姿を現せ…!
いくらおまえでも…遠い国から直接…それほどのエナジーは飛ばせまい…。
紫苑と話をするだけでも…ノエルを媒介にしただろ…! 」
攻撃を仕掛けてくる者の気配の方に向かって滝川が怒鳴った。
屋敷跡の裏の林…少年の攻撃によって破壊された森の中から…男がひとり…ゆっくりと近付いて来た…。
弟と呼ばれた老人より…はるかに若く見える…。
その男の容姿を目にして…金井があっと叫んだ…。
「高倉…族長…まさか…。 」
男は…にやりと笑った。
滝川も目を疑った…。
執行部に名を連ねる族長たちの代表者が…なぜ…。
さすがの滝川も高倉族長とは直接の面識はない…。
西沢も同じだ…。
族長会議などで姿だけは見たことがあるけれど…それも遠くからのこと…。
ここで族長と少しでも関わったことがあるのは連携組織の金井だけだ…。
治療師の特殊な目が…高倉の身体をつぶさに診察し始めた…。
「金井…よく見てみろ…高倉族長…じゃない…。
族長のイメージを纏っているに過ぎない…。
この男の身体には磯見と共通する部分がひとつもないんだ…。 」
金井はもう一度…まじまじと族長に化けた男を見つめた。
「言われて見れば…磯見の気配がまるで感じられない…親子なのに…。
でも…なんで族長に化ける必要が…? 」
怪訝そうな顔をして滝川に眼を向けた…。
「執行部以外の者には本物かどうかなんて見分けがつかないんだ…。
磯見から引き出した情報をもとに族長に成り済まして…親玉自ら本部や支部で…あれこれ悪さしていたんだろうさ…。
金井…本物にすぐ連絡をとれ…。
何も知らないでいる高倉族長の立場が悪くなっちゃ気の毒だ…。 」
滝川が男の身体から目を逸らした一瞬の隙をついて…男は滝川に強烈な一撃を喰らわせた。
その衝撃で滝川の身体は宙に舞った…が…地面に叩きつけられたわりには…それほどのダメージを負わなかったように思えた。
連続する攻撃をかわしながら滝川はすぐに立ち上がり…応戦した…。
いつもなら…西沢にすべて任せておけばよかった…。
だが…今度ばかりは…。
紫苑を戦わせてはならない…。
何としても…紫苑が攻撃するより先に奴等を倒してしまわなければ…。
切れた紫苑が…一旦戦い始めたら…止めるのは容易じゃない…。
それは…宗主が戦っても同じ…。
裁きの一族の主流の血は…滅びの血…。
怒りの焔を治める者は…大きな犠牲を払わねばならない…。
再び…男の攻撃が滝川を捉えた…。
さすがに…世界規模の組織を動かしているだけあって…能力も桁違い…。
滝川と言えど簡単には勝たして貰えそうもない…。
いかん…と思った瞬間…空間がまた激しく震動を始めた…。
滝川が敵から攻撃を受けるたびに西沢の中に蓄えられた滅のエナジー噴出の危険がが増してくる…。
紫苑の全身を覆っている青い焔が天を焦がすかと思われるほどに勢いを増し…とうとう…その手が男の方に向けられた。
一瞬の瞳の煌きとともに放出された滅のエナジーが補強された空間の壁をも貫いた…。
男はかろうじて転がるようにそれを避けたが…その凄まじい破壊力に戦慄した。
「だめぇっ! 紫苑さん…空間壁…マジで撃っちゃだめだってば!
支えてるのがやっとなんだからぁ…! 」
全身に圧痛を覚えて…ノエルは悲鳴を上げた。
空間を支えるノエルにも『時の輪』たちが襲い掛かる。
金井がそれを素早く阻止するが…『時の輪』も群を抜いた能力者であることは間違いないから…ノエルを護りながらの戦いは決して楽ではない…。
『つらいでしょうが…ノエル…頑張りなさい…。
その空間は紫苑を護るための防護壁でもあるのですよ…。
紫苑は…仲間たちを護るために…そして…この国の人々を護るために…嫌でも戦わざるを得ない…。
けれど紫苑の桁外れの力は…罷り間違えば…この国自体をも滅ぼしかねないのです…。
あなたの作ったその空間が…最悪の事態を防ぎます…。
紫苑が悲しんだり悔やんだりすることのないように…あなたが護ってあげなさい…。
それに…その空間の壁が破滅の気配を遮ってくれるお蔭で…水天の御座もまた…おとなしくなってくれたようですよ…。 』
何処からどうやって話しかけているのかは分からないが…お伽さまは確かに…ノエルたちの状況をつぶさに観察しているようだ…。
お伽さまが無事なら…添田や磯見も大丈夫なんだろう…。
紫苑さん…みんな無事だったよ…。
だから…落ち着いて…機嫌直して…。
僕…頑張るから…早く…いつもの紫苑さんに戻って…。
ノエルは唇噛んで…衝撃に耐えた…。
西沢の静かな反撃の威力は…HISTORIANたちの度肝を抜いた…。
自分たちが最高責任者と呼んでいる…時読みの少年をはるかに越えている…。
「町に散らばる同志たちよ…。
我々…HISTORIANは必ず勝利する…。
この魔物を倒すために…すべての力を結集せよ…。
選ばれし人を護り…時を越えた魔物を葬るのだ…。 」
驚きのあまり言葉を失った少年に代わって…気を取り直した老人が叫んだ…。
下の町のあちらこちらから…HISTORIANと思しき者たちが集まってきた。
御使者やエージェントによって力を封印された者たちも…。
封印はいとも簡単に…男によって解かれた…。
滝川や金井にとって…どうということのない微力な相手がほとんどだとしても…多勢に無勢…。
「おやおや…役にも立たぬ連中が集まってきたな…。
紫苑…一気に蹴散らしてしまえ! 」
西沢の中の滅のエナジー…魔物が囁く…。
その声は…滝川にも届いた。
「紫苑…耳を塞げ…!
魔物の言うなりになってはだめだ…! 」
滝川が叫ぶと…西沢はまたチラッと滝川を見た。
西沢の…その目が坂を上ってくるHISTORIANに向けられた途端…視線の先の何人かが滑落した…。
「命だけは…助けてやったけど…もう…何の力も使えないぞ…。
それでいいんだろ…恭介…。 」
西沢はそう言うと可笑しそうに唇を歪めた…。
それを聞いて滝川は…一応…ほっとした…。
魔物に支配されているわけではないな…。
完全に行っちゃってるけど…紫苑本人に間違いない…。
…と安心したのも束の間…。
男と老人が西沢を目掛けて再び攻撃を始めた…。
御使者仲間以外とも自由に連絡を取れる仲根を公園の集団の中に残して…後の指示を任せ…玲人は亮を連れて西沢たちの居る丘陵の方へ向かった。
上り口に差し掛かったところで…それほどの勾配の坂でもないのに何人ものHISTORIANが急に転がり落ちてきて…慌てた。
西沢が暴れ始めたに違いない…。
「西沢先生を…紫苑を…止めなきゃ…。
HISTORIANをぶっ倒すだけならいいけど…町を壊されちゃ困る…。 」
玲人と亮はなだらかな坂を駆け上るようにして先を急いだ…。
添田の屋敷跡に到着するや否やふたりは同時に…あっ…と声をあげた。
敵の中に高倉族長の姿が見えた…。
折りしも…その族長が西沢に向かってビルが破壊できるほどのエナジーを叩きつけたところだった…。
本部に戻ったんじゃなかったのか?…玲人は事の成り行きに当惑した…。
西沢にとっては避ける必要さえないものではあるが…それ以上のエナジーの吸収を避けさせるために…滝川はあえて西沢の身体を押し退けた。
的を逸れたエナジーはまた…ノエルの空間をいやというほど傷つけた…。
お願い…太極…力を…。
フレームを支えているノエルが崩れれば…壁を作っている能力者や補強している能力者の努力が無駄になる…。
攻撃を受けるたびに…その衝撃はノエルだけでなく…彼等にも伝わっているはずで…おそらくはみんな必死で耐えているのだろう…。
新たに押し寄せた能力者の攻撃に金井がひとり煩わされているうちに…『時の輪』はこれ幸いとノエルに襲い掛かった。
空間を崩せば…西沢の恐るべき力が世間の眼に曝される…。
町を破壊する西沢紫苑という魔物を…HISTORIANが退治するという願ってもないチャンス…その場面を世間に見せ付ければ…必ずこの国を取れる。
ノエル目掛けて放たれた強力なエナジーの矢がまさにその的を射ようとした時…亮がそれを払い落とした…。
「ノエル…大丈夫か…? 」
その声にノエルは少し救われた。
「あんまり…大丈夫じゃない…。
フレームが巨大過ぎて…支えるの…ひとりじゃきつい…! 」
邪魔者に不意をつかれて『時の輪』は一瞬怯んだが…すぐに気を取り直し攻撃を再開した…。
「亮くん…そのままノエルに力を貸してやって…。
主流の血を引いているってことは…どこかでノエルとも繋がりがあるはずなんだ…。
巧くすれば…ノエルのフレームを一緒に支えられるかも知れないぜ…。
こいつは僕が倒す…! 」
亮たちと『時の輪』との間に割って入った玲人が言った。
分かったと答えながら…亮はノエルと力を同化させる方法を思案した…。
「亮…僕に力を送って…僕はそれを反映できる…。
平気…ちゃんと修練したんだから…。 」
ノエルが両の手を差し出した…。
その手を取って…最初はゆっくり少しずつ…亮は自分の持つ力を送り始めた…。
特に異常がないとわかると…次第にそのスピードを上げていった…。
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