徒然なるままに…なんてね。

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一番目の夢(第十九話 発覚の危機)

2005-05-28 14:33:00 | 夢の中のお話 『樹の御霊』
 まだ夜も明けやらぬ内に修行の続きは始まった。
皆少しは休息したとはいえ、さすがに三日目ともなると疲労の色は隠せない。特に経験の浅い若い連中は余計な力を使ってしまうために消耗が激しく、取り敢えずは所定の位置についたものの最初の緊張感は薄れつつあった。
 
 その中にあって修はいつもと変わりなく、透の前にその姿を現した。音も無くその場に座すと静かな口調で語り始めた。
 
 「透…。もし、私が悪鬼となったら、そなたは私を…私の魂を消滅させられるか?」
透は返答に詰まった。

 「紫峰の宗主として最も大切なことは、己の感情を捨てても、とるべき道を過たぬ事。
いかに大切な絆があろうとも、それを断ち切らねばならぬ。そなた…できるか?」

透は困惑していた。正しい答えは解っているのに答えることができなかった。

 「透…。私は今、罪を犯すとしよう。そなたの父黒田の命をもらう。そなたは黒田を護り、私を倒さねばならぬ。さもなければ本当に黒田は死ぬぞ。」

 そう言うが速いか、修は立ち上がり黒田のほうへ進み出た。黒田は微動だにしなかった。結界を張っている黒田は戦うことができない。

 修は黒田に対してまずは弱い衝撃を加えた。黒田は苦痛に耐えていたが、それが芝居でないことは確かだった。透は言葉を失った。
『できないよ!あなたを傷つけるなんて!あなたと戦うなんて!』

 「なぜ攻撃しない?これはお遊びではないのだ。」

 そう言うとさらに強い力を黒田に浴びせた、さすがの黒田も声を上げた。しかし、透は身動き一つできなかった。修の表情が険しくなった。

 「そなた宗主の責任を何だと思っている!人の命がかかっておるのだぞ!」

 修の身体から怒りとも思える炎が立ち上がった。修は黒田めがけて炎の矢を飛ばした。それは黒田の身体を貫き傷口からはどくどくと赤い血が流れ出た。うめき声とともに黒田は倒れ掛かったが、寸でのところで耐えていた。
 『透…。攻撃しなくてもいい。俺のことは気にするな…。修はおまえにとって大事な人だ…。』
黒田が苦しそうな息の中から透に思念を送ってきた。

 「おしまいだ!!」

修がそう叫んだ時、修の身体が何かに弾き飛ばされた。あっという間の出来事だった。


 一瞬、その場がしんと静まり返った。修はゆっくり立ち上がり、いつもの笑みを浮かべて透を見つめた。たちまち透の目に涙が溢れ、大声あげて泣き出した。

 「こんなの嫌だ!こんなの間違ってるよ!」

 「そなたは今、宗主の役目を果たした。それでいい。」

 目の前にいるのは修の実体ではない。だから、透の攻撃が実体にどのくらいダメージを与えたのか予想もつかない。透の胸は激しく痛んだ。

 修は黒田の前に屈み込むと黒田の傷に手を触れた。傷はすぐに消え、跡形も残らなかった。

 「済まなかったな。苦しい思いをさせた…。」

修がそう言うと、黒田は首を振って答えた。

 「辛いのはあんたの方だろ。修よ。」

その言葉に笑みを以って応えた修だったが、黒田には泣いているようにも思えた。



 その時、ドンドンと激しく扉が叩かれ、外から雅人の大声が聞こえた。

 「皆さん!早くここから出てください!あの男が帰ってくる!」

その声を合図に、皆急いで祈祷所を出た。全員が外に出ると修は祈祷所に封印をした。祈祷所はまるで百年もの間使われていないかのように静まり返った。

 「気配はまだそんなに近くはありません。しかし、それほど時を待たずして、ここに現れます。すれ違ったりしてはまずい。」

修は頷いて、次郎左たちに指示を出した。

 「大叔父さま。例の日に合わせて一族を集めてください。三左に対する口実は僕が考えます。
貴彦叔父さん、僕らはすぐに会社へ戻りましょう。透たちは風邪でも引いたことにして部屋にこもっていればいい。悟、晃。本当に有難う。黒田、後でな…。」

 それだけ伝えると修の姿はいったん消え、母屋の方から実体が駆け出してくるのが見えた。
それほどのダメージを受けている様子は見られないと誰もが思った。透も少しはほっとした。
雅人だけは何かに気付いたようで、すれ違う瞬間になぜか修の身体に触れた。

 その場のものはそれぞれ散り、後にはソラだけが何事も無かったように昼寝をしていた。
使用人たちはすでに帰ってきており、屋敷にはいつもと変わりない生活の気配が戻ってきた。



 それから小半時もたった頃、一左を乗せた藤宮の高級車が紫峰家に到着した。一左が車を降りたとき、屋敷の様子がいつもと変わりないことに一先ずは安心したものの、漠然とした不審の念を拭い去ることができなかった。




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