徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

一番目の夢(第二話 事の起こり)

2005-04-28 12:08:27 | 夢の中のお話 『樹の御霊』
 それは半年ほど前に遡る。黒田という男はもともとは紫峰の一族の一人だったが、過去に理不尽なめにあわされて以来、紫峰の家に対して深い恨みを抱いていた。どこでどうしていたのかは分からないが、一矢報いたい一心で働き、紫峰の家に物言えるほどの権力を蓄えて、透たちの前に姿を現したのである。

 黒田は、まだ母親の胎内に居るうちから奪われた我が子を取り戻しに来たのだった。しかし、会ったこともない父親のことを覚えているはずもなく、透は彼を拒絶し続け、ついには脅迫を以って連れ去るに至った。
 紫峰の家を、血を分けた異父兄弟の冬樹を、取り分け自分を育ててくれた修のことを思って動きの取れない透を救い出すため、修は単身黒田の屋敷に乗り込んだ。修の説得が透の心を揺り動かし、再び黒田の許には戻らないという決意をさせた。
 
 そして、今まさに透の心の呪縛が解けたのだった。全身から力の抜けるような倦怠感を覚えて、しばらくは立ち上がることもできずにいた。が、気持ちが落ち着いてくると同時に透は大変なことに気付いてしまった。
 修が誰よりも強い力を秘めた能力者であること。それをずっと隠し続けてきたこと。たぶん、今回のことでそれが周りの能力者たちに知られてしまうだろうこと…。

 「戦うしか…ないな。」
修は寂しそう微笑んだ。
 「もう、護る力だけでは、お前たちを救えない…。お前や、冬樹や、貴彦叔父さんたちを…。」
そう言って、修はもう一度、黒田の屋敷に目を向けた。


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