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キリシタン用語(11) 「ガラサ」(恩寵)

2017-09-16 10:57:00 | キリシタン用語
 キリシタン用語「ガラサ」は映画『沈黙 -Silence -』に出てきた記憶はないが、人名にも使われているので、日本でも有名である。
 例によって、「ガラサ」はポルトガル語 graça に由来する。スペイン語では gracia に、英語では grace に対応する。スペイン語での意味はいろいろある。手元の辞書の gracia の項の第一義は「上品さ、気品、優美」。次に「面白さ、おかしさ、妙味」と続き、「冗談、しゃれ、おどけ」が3番目に出てくる。4番目にやっと「《神》恩寵、恩恵、恵み」が出てくる。キリシタン用語の「ガラサ」は当然、これである。gracia の項はまだまだ続くが、最後の説明から引用する。
 
 細川ガラシャは洗礼名 Gracia から。同源のポルトガル語 graça からキリシタン用語「ガラサ(恩寵)」となる。
 
 【細川ガラシャ。たぶん想像図】
 スペイン語 gracia には普通名詞として、「ご芳名、ご尊名」の意味もある。手元の辞書には次のような例文がある。
 ¿Cuál es su gracia?
 ただ、筆者は一度もこのように名前を聞かれたことはない。一般的には次のように言う。
 ¿Cómo se llama?(学生同士などでは ¿Cómo te llamas?)
 女房殿に聞いてみると、昔、といっても、母親が子供のころはコスタリカでも使っていたらしい。女房殿は意味はわかるが、自分で使ったことはないとのこと。
 gracia は洗礼名にも使われるが、英語の grace も人名として使われる。有名なのはハリウッド女優で、モナコ王妃になった Grace Kelly である。名前どおり、上品であった。
 
 「ガラシャ・ケリー」は響きが悪いが、「細川グレース」なら悪くない。ただ、ハーフ・タレントのようではある。
 スペイン語の gracia を複数形にすると、「ありがとう」の gracias になる。イタリア語では「ありがとう」は、最近日本でもよく知られるようになった“grazie”である。「グラッチェ」と発音しているようだが、本当は「グラツィエ」である。grazie は grazia(西 gracia)の複数形で、発想はスペイン語と全く同じである。
 gracia は「ラ・バンバ」の歌詞にも登場する。
 “una poca de gracia”という一節があるが、本当は“un poco de gracia”が正しい。これについては「La Bamba (2) una poca de gracia」ですでに述べているので、ご覧いただきたい。
 細川ガラシャについては「La Bamba (3) gracia と細川ガラシャ」を参照されたい。
 最後に、ポルトガル語 graça の発音は「グラサ」で、同じ発音のスペイン語は grasa である。これは英語の grease の関連語である。grasa の意味には、もちろん「グリス」もあるが、第一義は「脂肪、脂身、脂、油」である。「油汚れ、脂あか」という意味もある。
 ポルトガル語の「グラサ」はありがたいが、スペイン語の「グラサ」はありがたくない。もし、細川「ガラシャ」が「グラサ」となっていたら、スペイン語圏の人間は細川ガラシャを肥満体形の女性と想像することだろう。

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