スパニッシュ・オデッセイ

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大谷投手の元女房役のマルドナード(Maldonado)捕手

2024-05-09 21:42:34 | 名前
 前回は読売ジャイアンツのバルドナード(Baldonado)投手について触れたが、実は初めてこの名前を聞いたとき、マルドナード(Maldonado)だと思った。マルドナードなら、大谷投手のかつての女房役なので、なじみのある姓である。
 
【エンゼルス時代の大谷選手とマルドナード選手】
 バルドナード(Baldonado)とマルドナード(Maldonado)。アルファベットにしても、カタカナにしても1字違いでしかない。さらに、[b] も [m] と両唇音なので、聞き間違えやすい。[b] 音と [m] 音が入れ替わることもよくある。例えば、関西弁で「こむらがえり」のことを「こぶらがえり」という。「馬」の音読みは「ば」が一般的だが、表外読みとして、人名や地名では「ま」となることもある。
 さて、Forebears によると、Baldonado 姓が世界ランキング第39,637位に対して、Maldonado 姓は686位なので、Baldonado を Maldonado と聞き間違えても仕方がなさそうである。
 Maldonado 姓を持つ人は世界に80万人近くいる。絶対数ではメキシコに多く、人口比ではホンジュラスに多い。
 ところで、Maldonado はスペイン語としては mal と donado に分解できる。mal は形容詞 malo の語尾消失形で「悪い」という意味である。「悪い、悪く、不完全な」という意味の造語要素としても使われる。英語にも malice (悪意)、malaria (マラリア、「悪い空気」の意)、malfunction (故障)などの語に mal が現れている。
 donado は動詞 donar (英 donate)の過去分詞形である。mal + donado で「悪く(不完全に)与えられた」という意味になる。神様から十分に恩恵(容姿、才能等)が与えられていない、ということだろうか。Forebears の説明には、カタロニア語の動詞 maldar (励む、抗争する)に関連があるかもしれない、と記されている。神様からの恩恵が不十分だと、励まざるを得ないということか。
donado には「カトリックの助修士」をいう意味もあり、mal donado だと「悪い(生臭)助修士」という意味にもなるのだが。
それはともかく、Maldonado 姓はかなり昔まで遡れる、ガリシア(スペイン北西部)地方の由緒正しい姓とのこと(Heráldica de Apellidos)である。
 
 【Maldonado 家の紋章】
ちなみに、Forebearsには Maldonado 姓について以下のような記述もあったが、真偽のほどはどうであろうか。

 Descendant of Donald (dark or brown-haired stranger; world-ruler); or of Donhnall (world mighty; a name sometimes applied to a Scotsman, a corruption of McDonald). 
 
 Donald(黒髪または茶髪のよそ者、世界の支配者)の子孫、または McDonald がなまった形とのことだが。確かに Maldonado と McDonald は似てはいる。スペイン語圏にもハンバーガーの McDonald はあるが、Maldonado と表記されているという話は寡聞にして知らない。

 
  
   


読売ジャイアンツのバルドナード(Baldonado)投手

2024-05-06 18:11:44 | 名前
 読売ジャイアンツのバルドナード投手。パナマ出身である。
 
 フルネームはウィキペディア「アルベルト・バルドナード」によると「アルベルト・ルイス・バルドナード」(Alberto Louis Baldonado)となっている。
  Alberto は英語 Albert のスペイン語形なので、問題にすることは何もない。問題はもう一つの個人名 Louis である。英語なら「ルイス」、フランス語なら「ルイ」と読む、スペイン語形は Luis なのである。スペイン語圏でも昔から英語形以外の個人名をつけることがよくあるので、Louis でも間違いとは言えない。
 さて、姓の Baldonado はForebearsによると、世界中に13,242人。ランキング39,637位。絶対数ではフィリピンに多く、9116人。人口比ではグアムが多い。パナマには62人、スペインには61人となっている。
 Forebears にはつぎのように記されている。

 Past participle of the infinitive Baldonar "to insult, affront, stigmatize" giving this surname the meaning of "one of those who have been insulted or stigmatized by words." Baldonado(a) is an archaic Castilian adjective applied to "a street woman, prostitute.

 確かにスペイン語には 「侮辱する」という意味のbaldonar(または baldonear)という動詞がある。この動詞の過去分詞が baldonado というわけで、「侮辱された(人)」という意味だが、何ともありがたくない姓である。侮辱された人はスペイン本国には居づらくなって、海外に出て行った人が多いということだろうか。
 さらに、昔のカスティーリャ語(castellano、スペイン語 español のこと)では女性形の baldonada は「娼婦」の意味だったという。何でこんな言葉が姓になったのかについての説明はこのサイトには記されていない。
 それでも、紋章はちゃんと存在するのである。
 
 紋章があるからには、それなりの由来もあるのだろうが、今後の研究課題としたい。 

 

ヤクルト・スワローズのヤフーレ(Yajure)投手

2024-05-04 19:23:27 | 名前
 今回のご登場はヤクルト・スワローズのエスパーダ投手の同僚のヤフーレ投手。フルネームはウィキペディア「ミゲル・ヤフーレ」によると、ミゲル・アンヘル・ヤフーレ(Miguel Angel Yajure)。
 
 個人名は Miguel Angel。イタリア語だと Michele Angelo(ミケーレ・アンジェロ)だが、一語にまとめると Michelangelo (ミケランジェロ)となる。意味は「天使ミカエル」。ミカエルは天使の中でも序列第一位の大天使である。
 姓の Yajure は初耳である。
 “Ya jure” と2語に分ければ、ちゃんとしたスペイン語になる。意味は「今すぐ誓え」ということだが、娘を孕ませた男にライフルを突きつけて、結婚の誓いを迫っている父親の姿が目に浮かぶ。しかし、まさかそんな姓があるとはにわかには信じがたい。
 いつもの Forebears で調べてみると、 Yajure は世界ランキング第85,037t位。Yajure さんは世界に5641人いる。そのほとんどがベネズエラ在住である。スペインにはわずか2人。 
 ということは、Yajure 姓の起源はスペインではなく、ベネズエラであることが推測される。事実、Forebears には、Yajure 姓の起源がベネズエラの先住民カケティーオ族であることは疑いがないと記されている。
 
 【首長マナウレ支配下のカケティーオ国(“Wikipedia”Caquetio")より】
 「大地の風」という意味のシャフーレ(Shajure)という言葉に由来するようである。聖なる鳥「シャウレ(Shaure)」や「シャフリーナ(Shajurina)」という儀式におけるどよめきに関係があるらしい。
 ヤフーレ投手の容貌もどことなくエキゾチックである。カケティーオ族の血が濃いのであろう。
 ベネズエラの先住民起源の姓なので、当然、紋章は存在しない。


ヤクルト・スワローズの Espada 投手

2024-05-03 12:01:17 | 名前

 今回はヤクルト・スワローズの新戦力、エスパーダ投手にご登場いただく。
 フルネームはウィキペディア「ホセ・エスパーダ」には「ホセ・マニュエル・エスパーダ」(José Manuel Espada)と記されているが、「マニュエル」は英語風の発音である。スペイン語では「マヌエル」となる。プエルトリコ出身である。スペイン語圏ではあるが、アメリカの属領なので、姓名はスペイン式ではなく、アメリカ式になっているのだろうか。スペイン式なら、Espada のあとに母の父姓が続くはずだが、省略されているのかもしれない。
 さて、姓の Espada は「剣、刀」の意味である。英語の spade の関連語である。spade はイタリア語の spada (刀)から英語に入ったとのこと(研究社、英和中辞典)だが、「剣、刀」の意味では使われず、トランプのスペードを表すのみである。「剣、刀」の意味では sword という語が使われる(発音注意)。
 トランプのスペードの形は剣(刀)が変形したものである。スペードは武士階級を表すと言われている(ただし、俗説)。ちなみに、ハートはスペイン語圏では copa (聖杯)で、僧侶階級を表している。ダイヤモンドはスペイン語圏では oro (金)で商人階級を表す。クラブは棍棒(basto)で農民階級を表している(ただし、「階級を表す」のくだりはすべて俗説)。
 Espada 姓を例の Forebears で調べてみると、Espada 姓の人は世界に25,099人。ランキングは第21,684位。絶対数ではスペインに多く、人口比ではボリビアに多い。ヤクルトのエスパーダ投手の出身地プエルト・リコには393人となっていた。
 Heráldica de Apellidos によると、17世紀にまで遡れる由緒正しい姓のようである。

【代表的な Espada 家の紋章。剣が3本の紋章もあれば、全然、剣が使われていない紋章もある。】
 最後に、日本に「剣」姓の人がいるかどうか、調べてみたら、予想どおり「剣」さんはいた。ただし、「つるぎ」と読む。日本全国に150人いるそうである(名字由来net)。「刀」さんも実在する。こちらの方が数が少なく、日本全国でわずか20人。読みは「たち,とう,かたな,くぬぎ,じょう」となっている。

 
 
 
 
 

 

Battle (西 Batalla、仏 Bataille)さんと Combat (西 Combate)さん

2024-05-02 17:51:13 | 名前
 前回、「戦争」(Guerra)さんも「平和」(Paz)さんも実在、決して珍しい姓ではないことについて触れた。日本の姓には「戦争」さんも「戦(いくさ)」さんも見当たらないことも述べた。
 それでは、「平和」さんはどうかと思って、調べてみたら、全国に220人ぐらい、いることがわかった(「名字由来net」)。ただし、読みは「へいわ」ではなく、「ひらわ」である。京都府綾部市あたりに多い。「平」は平らな地形を表し、「和」は輪のような地形を表すとのことで、peace の意味ではなかった。それでも漢字表記は「平和」なので、よしとするか。
 さて、今回はまた戦争(guerra)関連に戻るが、英語には war, battle, combat の語がある。研究社英和中辞典には、war は「国家間の大規模な戦争」、battle は「特定の地域における組織的で長期にわたる戦い、戦闘」、combat は「戦闘、闘争、格闘」と記されている。スペイン語では war は guerra、battle は batalla(バタージャ)、combat は combate になる。 guerra が姓になっていることはすでに紹介したが、batalla と combate はどうだろうか。
 まず、batalla についてだが、batalla のフランス語形は bataille で、ジョルジュ・バタイユ(Georges Bataille)というフランスの哲学者が、bataille を姓にしている。

Forebears で調べてみたら、Bataille 姓を持つ人は全世界で14,000人弱、世界ランキングは第37,730位。
 スペイン語形の Batalla さんは全世界で25,000人強、世界ランキングは第21,408位。絶対数ではフィリピンに多く、人口比ではアンドラ(Andorra)が多い。
 Batalla 姓の由来については Plusesmas.com には触れられていない。紋章は以下に掲げる。
 

 ちなみに、英語形の Battle さんは、世界中に 34,623人。ランキングは第16,091位。
Combate 姓を持つ人は3252人。ほとんどがフィリピン在住で、世界ランキングは137,724位。由来は不明で、紋章も見当たらない。
 英語形の Combat さんは世界に 484人。ランキングは 631,297位。フィリピンにもいるが、絶対数ではブラジルが一番多い。人口比ではフランスが一番である。





  




戦争と平和(Guerra y Paz)

2024-05-01 09:48:05 | 名前
 戦争関連の姓、Guerra, Guerrero, Guerrilla について述べてきたが、「戦争」といえば、トルストイでなくとも、やはり対義語の「平和」がすぐに連想される。
 「平和」はスペイン語では paz(パス、英 peace の関連語)という。
 メキシコには、オクタビオ・パスという有名な詩人がいる。スペイン語の表記は Octavio Paz で、これはペンネームではなく、本名である。というわけで、Paz は立派に姓になっているのである。このお方は詩人としてだけではなく、批評家としても活躍していた。さらに、若いころは日本にも代理大使として赴任してきたこともある外交官でもあった。詳しくはウィキペディア「オクタビオ・パス」を参照されたい。
 
 Paz は「平和」の意味だが、個人名の Octavio は「8番目」を意味する octavo から来ている。英語の octave の関連語だが、1オクターブには8音あることを想起されたい。
 ともかく、Octavio Paz は日本風にいうと、「平和八郎」または、「平八郎」といったところだろう。
 Paz 姓の起源については確かなことは不明だが、Plusesmas.comによると、経緯はこうである。
 賢王ドン・アロンソ10世の息子、ドン・ペドロは豪胆なことで有名であったが、グラナダのアラビア人に対しては、和議を結ぶ以外に道はなくなっていた。その後、ドン・ペドロは自分の子供たちに Paz 姓を名乗らせたとのことである。 
 Paz 家の紋章は下に揚げる。
 
 さて、Guerra 姓のランキングが 699位だったのに対し、Paz 姓は1012位である(Forebear による)。世界中に52万人以上いて、絶対数で多いのはアルゼンチン、人口比で多いのはホンジュラスである。
 それにしても、「平和」よりも「戦争」の方が多いのは残念なことである。
 ちなみに、日本には「戦争」、「戦」の姓は見当たらなかった。もし、あれば、違憲の判断が下されそうである。