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キリシタン用語(17)「サバト」と「ドミンゴ、ドメイゴ」

2017-09-26 18:00:50 | キリシタン用語
  隠れキリシタンの秘書『天地始之事』にはよく知られたキリシタン用語のほかにも、わけのわからない言葉がたくさん出てくる。
 『創世記』1:27には、人間の創造について次のように述べられている。
 神は自分のかたちに人を創造された。すなわち、神のかたちに創造し、男と女とに創造された。
 一方、『天地始之事』におけるアダムの創造についての記述は次のとおりである。

 天帝(てうす)萬もつ御つくり、つち水ひかせしを油 御じしんの御こつにくを御入 しくだ てるしや くわるた きんた せすた さばた つかふ一七日めにれんぞくして これ則(すなわち)人間のごたい、天帝より四ふんのいきを御入ありて とめいごすの あたんとなつけ(以下省略)
 
 この中で特に意味不明なのが「しくだ てるしや くわるた きんた せすた さばた」の部分である。原文には切れ目がないので、いっそうわけがわからない。
 しかし、スペイン語を知っていれば、「しくだ」以外は理解できる。「てるしや」は tercia で「3番目」、「くわるた」は cuarta で「4番目」、「きんた」は quinta で「5番目」、「せすた」は sexta で「6番目」である。「さばた」は sábado (サバド、土曜日)と推測される。ポルトガル語でも「土曜日」はスペイン語と同形で、キリシタン用語「サバト」となる、と手元の西和辞典には説明されている。
 そうすると、「しくだ」は「2番目」の意味ではないかと推測されるが、スペイン語で「2番目」を表す言葉は segundo で、女性形は segunda である。ポルトガル語でも同形で、これがなまって「しくだ」になったのではないだろうか。
 「さばた」が土曜日であるからには、「しくだ」から「せすた」までも曜日を表すと考えられよう。
 スペイン語では曜日はフランス語同様、月曜日から始まる。月曜日から日曜日までスペイン語では次のとおりである。
 月 lunes(ルネス) 火 martes(マルテス) 水 miércoles(ミエルコレス) 木 jueves(フエベス) 金 viernes(ビエルネス) 土 sábado (サバド) 日 domingo(ドミンゴ)
 
 【天動説での順序に並べた七曜の順序(円周点線)と曜日の順序(星型実線)。ウィキペディア「曜日」より】
 スペイン語は英語やフランス語、同様、曜日には天体や神様に基づく固有の名前がある。
 ところが、現代の中国語では日曜日のみ「星期天(または日)」で、それ以外は数字で表す。月曜日は「星期一」、火曜日は「星期二」で、土曜日は「星期六」という具合である。
 ポルトガル語も中国語と同様である。ただし、月曜日は週の1日目ではなく、2日目の segunda-feira である。ということは、ポルトガル語では週の最初の曜日は日曜日ということになる。ただし、日曜日は「1日目」という言い方の primeira-feira ではなく、スペイン語同様、domingo である。domingo のもともとの意味は「主(ラテン語 dominus)の日」で、中国語の「星期天」は domingo の忠実な翻訳と言える。
 ポルトガル語の曜日は次のとおりである。
 segunda-feira 月曜日
 terça-feira 火曜日
 quarta-feira 水曜日
 quinta-feira 木曜日
 sexta-feira 金曜日
 sábado 土曜日
 domingo 日曜日
 ここで、『天地始之事』に戻る。引用した一節は「神様は月、火、水,木、金、土、都合17日・・・」と読めるが、17日という数は変な数字である。漢数字の「一」と読めるところは、漢数字ではなく、横棒かもしれない。そうすると7日というきりのいい数字になるが、日曜日が出てこない。日曜日は安息日で、神様は仕事をしないのか、と思っていたが、神様は日曜日も仕事をしていたらしい。
 実は引用文の最後の部分「とめいごすの あたんとなつけ」が神様の仕事に言及しているようなのである。
 「あたん」は「アダム」のことで、ポルトガル語では Adão(アダン)という。スペイン語では Adán である。
 「とめいごす」がどうやら「日曜日」を指しているようなのである。 
 スペイン語の domingo はポルトガル語と同形である。手元の辞書の domingo の項の説明によると、同形のポルトガル語からキリシタン用語「ドミンゴ、ドメイゴ(主日)」となる、と記述されている。
 Domingo と大文字で書くと、聖ドミニクス(Santo Domingo)のことになる。サント・ドミンゴはドミニカ共和国(República Dominicana) の首都の名前にもなっている。ドミニカという語もやはり日曜日(主の日)と関係がある。何にしても、ドミニカ共和国(ドミニカという名前の別の国もある)は毎日、日曜日のような、うれしい名前の国である。
 Domingo は聖ドミニクスに限らず、男子名としてもよく使われている。
 Domingo に由来する姓は Domínguez で、Domingo Domínguez という、これまためでたい名前の男性もいるはずである。 
 

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